マンハッタンの光と風
久保 修 切り絵版画アート特集

世界でも類を見ない独自の技術と表現で切り絵アートに新風を吹き込み、各地の美しい情景を描いた切り絵作品を制作する久保さんの版画作品をご紹介します。
「紙のジャポニスム」をテーマに、日本の四季折々の情景を切り絵作品に昇華させる久保さんは、薄い和紙をナイフで繊細に切り抜き、重ね合わせて一枚の絵画作品に仕上げます。また、自らの手で染めた鮮やかな色紙を使って質感までもきめ細かく表現するなど、作品には見るたびに感じる新鮮な感動がちりばめられ、国内外で多くの美術愛好家を楽しませています。
本特集では、切り絵作品の原画をもとに制作されたジクレー版画からニューヨーク・マンハッタン近郊の風景を描いた作品にスポットを当て、作家自らが厳選した額を用いた版画アートをご紹介します。
久保さんに画家になったきっかけや作品創りへの思いをお伺いしました。
画家を目指したきっかけ

幼少期からものづくりが大好きでした。プラモデルを組み立てたり、その出来上がったものにモーターを付けて動かしたり。逆に野球や縄跳びなど、みんなで集まって同じことをするのは得意ではなかったんです。僕は4人兄弟の末っ子の長男で、実家が建築事務所を営んでいたので、将来は一級設計士になって事務所を継がなければ、という親からの期待が強かった・・・というか重圧に近かったかもしれません。
その後、本格的に建築を学ぶために大阪の大学に入学しました。模型で「完成予想図」を製作する中、人と同じように作るのは面白くないと感じ、石垣や樹木などは別の紙に自分で描いた物を切り抜いて上から貼り付けていったりしたら、それを見た教授などから高い評価をいただきました。徐々に、ナイフで切った時にのみ感じるシャープな線に魅力を感じていったのです。やり始めると没頭する性格なので、その後、毎日毎日紙を切る生活を送りました。その間、両親の反対にもあいましたが、紙を切る楽しさや奥深さは捨てられず、紙を切る生活を送り続け、今年で52年を迎えました。
作品創りで大切にしていること

大学建築科で勉強している頃、紙を切る面白さに目覚めてこの紙を切る表現で芸術的な表現が出来ないかと考えて行きついたのが「切り絵」でした。25歳での初個展を皮切りに、規模の大小はあるが毎年個展を開催してきました。
何かやりたいと考えた時に、僕は必ず影響力のある人に出会って、背中を押してもらってきたように感じています。自分一人では進めなかった人生。人との出会いの力はあまりにも大きく、多くのチャンスを与えてもらいました。
そして、作家の小松 左京先生と出会った事が僕の人生を大きく変えてくれました。先生の紹介でお会いした岡本 太郎画伯、須田 剋太画伯に作品を酷評された際も、僕を新たな道、海外へ進めるようにしてくださったのも小松先生でした。そこでスペインに遊学し、四角四面で与えられた紙の中だけでしか表現出来なかった僕が、はみ出しても紙が足りないなら足せばいい。表現するという事には決まった型はない!今までの自分の中にあった表現する際の生真面目さの殻を破ることができたと思っています。
切り絵から生まれた出会い

1995年、阪神・淡路大震災で被災しました。
自然災害が歴史・暮らし・人々の心に大きな爪痕を残す様子を目の当たりにし、それ以降テーマを「紙のジャポニスム」とし、日本国内を旅して、移り変わる日本の四季折々の「風物詩」や「旬の食材」の生命力あふれた瞬間を切り取って作品に仕上げるようになりました。
この頃から、今まで以上に日本の心が息づく「和紙」にこだわりを持って使用するようになりました。それまでは、海外の作品は洋紙を主に使って表現していましたが、この頃から海外の風景も和紙だけを使用し、日本人だからこそ出せる構図や色彩で表現していこうと考え始めたのです。それに加えて、作品によっては薄い和紙を幾重にも重ねて奥行や立体感などを出し、自身で染めた色和紙も使用して鮮やかな色彩で対象物の質感をも表現しています。
どんなに新しいものを生み出してもアートに終わりはない。
一つの思いを達成すれば、又何かが足りない気がしてくる。これからも自分が過ごす、すべての時間とそこで感じる心を大切にしながら、自分らしい作品を描いていけるか、僕自身も楽しみでなりません。

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セント・パトリック大聖堂(ニューヨーク)
技法:ジクレー版画
イメージサイズ:約 38.1×19.1cm
額サイズ:約 60.3×40.3cm
価格:99,000円
作家コメント
2009年以降足しげく訪れているニューヨーク。マンハッタンの50丁目と5番街の角に佇む「セント・パトリック大聖堂」。大理石をふんだんに使ったゴシック様式の教会は、周りの高層ビルに負けていない存在感を放っている。中に入ると、素敵なステンドグラスと大きなパイプオルガンは必見。
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5th
技法:ジクレー版画
イメージサイズ:約 39×20cm
額サイズ:約 60.2×40.2cm
価格:99,000円
作家コメント
日本ではいろいろな場所から東京タワーやスカイツリーが見えるとちょっと嬉しい気持ちになる。マンハッタンでは、エンパイア・ステート・ビルディングやクライスラー・ビルディングなどがある。その中でも僕は、アールデコ建築のクライスラー・ビルディングがお気に入り。ちょっとしたビルの谷間に見えるビルがとっても素敵。
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Manhattanを臨む
技法:ジクレー版画
イメージサイズ:約 38×27.6cm
額サイズ:約 56.9×44.8cm
価格:99,000円
作家コメント
ニューヨーク滞在中に、マンハッタンからフェリーに乗って、ハドソン川の対岸のニュージャージー州のフォートリーへ。ここから見るマンハッタンのビル群は、とても美しい。大好きな風景の一つだ。
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光と影
技法:ジクレー版画
イメージサイズ:約 39.2×16cm
額サイズ:約 60.2×34.3cm
価格:91,300円
作家コメント
ルーズベルトアイランドから見たマンハッタンの風景。地下鉄でも行けるが、せっかくなのでトラムに乗って行ってみた。見上げながら見た、クイーンズボロ ブリッジ。その向こうにはマンハッタンのビル群が立ち並んでいる。陰影がとても面白くて描いた作品。
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WINE BAR
技法:ジクレー版画
イメージサイズ:約 32.4×22.8cm
額サイズ:約 52.5×41cm
価格:71,500円
作家コメント
ワインは世界で最も多くの地域で飲用されているアルコール飲料の一つ。ワインは主に以下の3種類に分類される。白ワインに赤ワイン・ロゼワイン。ほかに発泡ワインやオレンジワインなどがある。この作品は、色を使わずに白と黒でワインを表現している作品。色を使っていないので、その時飲みたいワインを想像していただける楽しい作品になっています。

阪神・淡路大震災で被災し、以降は「紙のジャポニスム」をテーマに、四季の風物詩や日本の民家、旬の食材の生命感など、さまざまな情景をモチーフに、上品でカラフルな作品を生み出し、切手や年賀状などにも採用されている。
2009年文化庁文化交流使として渡米、切り絵を通じて日本文化を伝えた。2016年フィラデルフィア日米協会から芸術賞を受賞する。2018年10月大阪府豊中市に「久保 修 切り絵ミュージアム」がオープン。2019年山口県文化功労賞、文化庁長官表彰を受賞する。そのほか、16カ国において展覧会を開催するなど国内外で活躍している。
撮影:タカオカ 邦彦