少女のささやき・・・ものがたり
堤 麻里子 銅版画特集

少女のささやき・・・ものがたり 堤 麻里子 銅版画特集 メインビジュアル

可憐で繊細な少女の姿を、四季折々の花々や動物、星空などとともに幻想的に描く堤 麻里子さんの作品をご紹介します。

地元の福岡教育大学で「銅版画」の魅力に触れた堤さんは、東京藝術大学の大学院に進み、さまざまな版画の研究に取り組みました。そして在学中に開催された全国大学版画展では「買い上げ賞」「観客賞」を受賞するなど、若くしてその注目を浴びました。近年は「ものがたり」をテーマに「ものがたりの一場面のような絵」を表現し、その独特な世界観は多くのアートファンを魅了し、次世代を担うアーティストの一人として活躍されています。

堤さんの作品は、まず少女の姿とその表情に目がとまりますが、その周りには花々や動物たち、そして夜空の星座などが少女に寄り添うように描かれ、画面の奥の方から静かに伝わってくる物語性と幻想的な世界観が魅力ではないでしょうか。

堤さんに銅版画家になったきっかけや、技法について、作品に込めた思いなどをお伺いしました。

絵を描くこと銅版画に触れたきっかけについて

アトリエにての画像
アトリエにて

幼い頃から絵を描くことが好きでした。美術や旅行が好きな両親と一緒に、いろいろな国の絵画や文化に触れる機会が多かったのです。
銅版画を知ったきっかけは大学の授業で受けた銅版画実習で、そこでレンブラントの自画像を模刻しました。銅版を腐蝕させてプレス機で刷るプロセスや、インクの質感に興味を持ちました。
大学では油画や日本画・工芸・彫刻なども学び、表現の幅が広がりました。当時銅版画を専攻したのは私一人で専門の先生は常任していなかったため、教室で技法書を見ながら制作することが多かったです。

その後、東京藝術大学大学院に進学しました。大学院では4版種(銅版画・木版画・シルクスクリーン・リトグラフ)の実習でインク制作や摺り方などさまざまな技法を学びました。特に中林 忠良先生には、作品への取り組み方や考え方、道具制作などさまざまなことを学ばせていただきました。
制作を続けていくうちに展示のお話をいただいたり、見に来てくださる方が少しずつ覚えてくださったりして、とても感謝しています。

銅版画の技法について

細かな線が刻まれた銅板の画像
細かな線が刻まれた銅板

版画の硬質な線と、しっとりとしたインクの色が好きです。洋紙や和紙に雁皮紙を用いて刷ることが多いのですが、最近は銅版画にアクリル水彩や岩絵の具・色鉛筆・パステルなどで着彩した作品も制作しています。銅版画の硬質な線は良い緊張感を生み、そこに柔らかな色やマチエールが加わることで、絵の中の物語に奥行がでるのではないかと感じています。
主に、エッチングとアクアチントという技法を用いて制作していますが、人物や動物はエッチングで描き、真っ黒な背景を描くときはアクアチントを使って場面によってはグラデーションなどを作っています。

版画のルーツや、過去の作家がどのような風景を見て何を感じて制作していたのかを知るために、グーテンベルク博物館やベルリン絵画館、ホルスト・ヤンセン氏の家などを訪れたこともあります。その時代背景となぜその技法が普及したのか、なぜその絵が描かれたのかを知ることができて、とても良い経験になりました。

制作するうえで大切にしていることや作品に込めた思い

制作するうえで大切にしていることや作品に込めた思いの画像
アトリエにて

作品制作で大切にしていることは、人物や動物の表情を丁寧に描くことです。最初に描きたいと思った表情になるまで何度もエスキースを繰り返しています。
また、私の故郷は自然が豊かな場所でした。庭の花々、金色の稲穂、波間で青白く光る海ほたる、夜空の星座など。自然の中で過ごした風景は、制作するときの大事なイメージソースになっています。

近年は、「ものがたり」をテーマに作品を制作し、物語の一場面のような絵を描いています。
以前ドイツに短期留学したとき、ホストファミリーの女性から「星の王子様」の絵本を贈られました。そのとき彼女が、私へのメッセージを言葉ではなく本という物語を通して伝えてくれたことがとても嬉しく、自分も絵を通して、見てくれる人にメッセージを伝えたいと思うようになりました。
帰国する間際、ドイツからヨーロッパをバックパックで一人旅したのですが、そこで出会った人々、美術館で見た絵画、街の空気などは今でも印象深く、作品のモチーフとして登場しています。

  • 堤 麻里子 銅版画「Spica -双子星-」の作品画像

    【NEW】「Spica -双子星-」

    技法:エッチング・アクアチント・水彩
    限定制作数:8部
    イメージサイズ:約 20.7×25.8cm
    額サイズ:約 33.0×42.0cm
    価格:39,600円

作家コメント

おとめ座の一等星の「スピカ」をモチーフにした作品です。スピカは二つの星がお互いの重力で周りあう連星で、「双子星」とも呼ばれるそうです。
その様子が、もしかしたら夜空で二人の人物が手を取り合って踊っているようにも見えるのかもしれないと想像して描きました。

  • 堤 麻里子 銅版画「雪華」の作品画像

    【NEW】「雪華」

    技法:エッチング・アクアチント・水彩
    限定制作数:15部
    イメージサイズ:約 26.5×20.0cm
    額サイズ:約 42.0×33.0cm
    価格:39,600円

作家コメント

雪の結晶を表す、雪華・雪花(せっか)をイメージした作品です。結晶を「ゆきのはな」に見立てた言葉の響きが美しいなと思い、イメージを膨らませて描きました。
静かに微笑む少女の髪飾りやネックレスには水色を入れています。

  • 堤 麻里子 銅版画「鳥になる日」の作品画像

    【NEW】「鳥になる日」

    技法:エッチング・アクアチント・水彩
    限定制作数:30部
    イメージサイズ:約 22.7×24.4cm
    額サイズ:約 33.0×42.0cm
    価格:33,000円

作家コメント

ある日、ふとした瞬間に少女が鳥に変身して飛んで行ってしまう。そんな一場面を描きました。
頭の上の鳥が彼女を導いています。
さて、彼女たちはこれからどこへ旅立つのでしょうか。

  • 「風の音」の画像

    「風の音」

    技法:エッチング・アクアチント・水彩
    限定制作数:20部
    イメージサイズ:約 28.5×46.0cm
    額サイズ:約 43.8×61.5cm
    価格:121,000円

作家コメント

花と女性をテーマにして描いた3部作のうちの1作です。以前、阿蘇の大観峰を訪れたときに、風の音を聞きました。「風には音がある。当たり前のことを忘れていた。」と驚き、その体験を作品にしました。絵の中に吹いている風の音を感じていただけたら嬉しいです。風に舞うライラックの花の淡い青紫色は、日本画の岩絵の具で表現しています。ライラックの花言葉の一つに「友情」があります。絵の中の少女たちの友情が続くようにとの願いも込めています。

堤 麻里子さんの画像
堤 麻里子(Mariko Tsutsumi)
福岡県出身
福岡教育大学教育学部生涯芸術課程美術科 卒業
東京藝術大学大学院美術研究科版画第一研究室 修了
2005年 全国大学版画展 買い上げ賞・観客賞

展覧会
2004年・2006年 日本版画協会展(東京都美術館)
2013年 堤 麻里子特集(銀座三越)、齋藤 ナオ・堤 麻里子 二人展(福岡三越)
2018年 齋藤 ナオ・堤 麻里子・信國 由佳里 三人展(福岡三越)、アートで紡ぐ物語(伊勢丹新宿店)
2019年 余白の美(伊勢丹新宿店)
2020年 注目の若手作家三人展(福岡三越)
2021年 春の三越美術特選会 杜の都のアートフェスティバル(仙台三越)
2022年 Emerging Artists 次世代を担う注目の作家たち(銀座三越)
2016年・2019年・2022年 アートフェアアジア福岡(ホテルオークラ福岡/福岡三越/福岡国際会議場)

パブリックコレクション
2005年- 町田市立国際版画美術館(東京)