三越伊勢丹<篠田 桃紅>作品特集

三越伊勢丹<篠田 桃紅>作品特集のメインビジュアル

東洋的な伝統美と革新的な造形美を融合させ「墨象」という新しい可能性を切り拓き、世界のアートシーンに影響を与え続けた孤高の美術家・篠田 桃紅氏。墨の濃淡や陰翳のあやに揺らぐ文字やかたち、そして普遍的な美を追求し、その作品は世界のコレクターを魅了してやみません。
今回は篠田氏が生きた一世紀という時代背景に迫りながら、色鮮やかな料紙に書かれた秘蔵の「百人一首」の書をご紹介いたします。また、解墨の濃淡と溜込みを活かした黒一色の版に手彩色を施し、それぞれが一点しか存在しないオリジナルの要素を含んだ篠田 桃紅氏のリトグラフ作品もご紹介いたします。100歳を超えても「もっといいものを創りたい。」と、墨と格闘し続けた篠田氏の描く一本一本の線をご覧ください。

  • 百人一首より  藤原敏行朝臣 「住の江の 岸による波・・・」の画像

    百人一首より 藤原敏行朝臣「住の江の 岸による波・・・」

    画面サイズ:約 26.8×19.7cm
    額サイズ:約 56×46cm
    技法:料紙に墨
    価格:1,890,000円
    ※篠田桃紅鑑定委員会の登録証書が付きます。

住の江の 岸による波 よるさへや 夢の通ひ路 人めよくらむ・・・藤原敏行朝臣

【現代訳】
住之江の岸に寄せる波の「寄る」という言葉ではないけれど、夜でさえ、夢の中で私のもとへ通う道でさえ、どうしてあなたはこんなに人目を避けて出てきてくれないのでしょうか。
【作者と歌について】
この和歌は敏行の恋心を詠ったものですが、御所で開かれた歌会の折、思いを寄せる女性を思い出して詠まれたと言われています。藤原敏行は藤原公任が選んだ三十六歌仙のひとりに名前が挙げられていて、平安時代の優れた歌人です。

  • 百人一首より  中納言行平 「たち別れ いなばの山の・・・」の画像

    百人一首より 中納言行平「たち別れ いなばの山の・・・」

    画面サイズ:約 26.8×19.7cm
    額サイズ:約 56×46cm
    技法:料紙に墨
    発表価格:1,890,000円
    ※篠田桃紅鑑定委員会の登録証書が付きます。

たち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む・・・中納言行平

【現代訳】
別れて因幡の国へ帰ったとしても、因幡の稲葉山の峰に生えている松ではないが、あなたが待っていると聞いたならば、すぐに帰ってこよう。
【作家と歌について】
在原行平は、9世紀頃の平安初期の歌人で、平成天皇の皇子阿保親王の子。在原業平の異母兄。須磨に配流された際の、松風・村雨姉妹との恋の伝説は、謡曲「松風」の題材になりました。

百人一首作品で使われた紙と額

百人一首の作品には、篠田 桃紅が自ら版木と色を選びオーダーメイドした唐長の11代目千田堅吉作の料紙が使われています。料紙(唐紙)とは、書に用いる紙をさします。奈良時代には染紙や金や銀の細かい箔を散らしたものなどの装飾料紙がありました。平安時代には和歌・物語などにふさわしい優雅で繊細な趣のある紙が求められました。型文様を施した雲母刷り、蝶・鳥・花・青海波の下絵や、漉き模様などさまざまな意匠をこらした装飾料紙は、王朝貴族たちの感性、美意識を今に伝えるものです。
【唐長とは】1624(寛永元)年創業の唯一途絶えることなく続く唐紙屋。文様が彫られた版木を使って和紙に色をのせた唐長の唐紙は、桂離宮や二条城の襖にも使われています。

  • 思語遊の画像

    思語遊

    限定:48部
    画面サイズ:約 36.3×25.0cm
    額サイズ:56×44cm
    技法:リトグラフに手彩色
    サイン:直筆鉛筆サイン
    価格:495,000円

桃紅は、1960年にフィラデルフィアから来日した刷り師アーサー・フローリーのすすめで、リトグラフの制作を始めました。1963年以降、木村希八に版画の刷りを委ね、半世紀にわたり千種類以上の版画を制作しました。解墨の濃淡と溜込みを活かした黒一色の版に、手彩色を施した貴重な作品です。

  • PHASEの画像

    PHASE

    限定:35部
    画面サイズ:約 50×65cm
    額サイズ:約 72.0×88.0cm
    技法:リトグラフに手彩色
    制作年:1999年
    サイン:直筆鉛筆サイン
    価格:990,000円

人生の階段、即ち真っ黒の一歩手前で、全ての色を含み微かに明るさを残したものを玄と言います。墨の色はまさしく玄であり、桃紅によると、この中にあらゆる色が含まれており、人生の終末を玄に例えるなら、ものがよりいっそう見渡せ、人としての成熟をみせる、ということ。力強い面と左右に走るストロークが伸びやかに空間美を際立たせます。

  • Beyondの画像

    Beyond

    限定:38部 
    画面サイズ:約 65×48.5cm
    額サイズ:約 87×70cm
    技法:リトグラフに手彩色
    サイン:直筆鉛筆サイン
    価格:880,000円

「遥か彼方」というタイトルが付けられた作品。時間や場所などを超えたはるか遠い世界に誘ってくれそうです。右上の余白に描かれた3本の線は光の束のようにも見え、安らぎと悟りの境地を連想させます。画面の中の朱色の部分は篠田によって手彩色された「灯」という字です。

篠田 桃紅氏の画像
篠田 桃紅 Shinoda Toko
1913年、中国・大連に生まれる。5歳の時、父の手ほどきで初めて墨と筆に触れ、以後独学で書を極める。第二次世界大戦後、文字を解体し墨で抽象を描き始める。1956年渡米しニューヨーク・ボストン・シカゴ・パリほかで個展を開催。58年の帰国後は、壁画や壁書・レリーフといった建築に関わる仕事や、東京・芝にある増上寺大本堂の襖絵などの大作を手掛ける一方で、リトグラフや装丁・題字・随筆など、活動は多岐にわたった。2005年、ニューズウィーク(日本版)の「世界が尊敬する日本人100」に選ばれるなど、晩年まで精力的な活動を続けた。2021年3月1日、107歳で逝去。
【主要コレクション】メトロポリタン美術館・ボストン美術館・グッゲンハイム美術館・大英博物館・東京国立近代美術館・岐阜県美術館・岐阜現代美術館・コンラッド東京・ザ・キャピトルホテル東急・パークハイアット京都・京都迎賓館・増上寺など