伊勢丹新宿店というキャラクターを活かしたい
~新CEOの中原 慎⼀郎さんが<ザ・コンランショップ>でやりたいこと~

伊勢丹新宿店の<THE CONRAN SHOP/ザ・コンランショップ>のオープン1周年となる2022年4月に株式会社コンランショップ・ジャパンの代表取締役に就任した中原 慎⼀郎さん。「伊勢丹新宿店らしいインテリアショップづくり」に奮闘するブランドショップ担当の原 宏史にとって、いま最もお話を訊きたい⽅です。1999年に<Landscape Products/ランドスケーププロダクツ>を立ち上げ、プロダクトファウンダーやイベントディレクションなど幅広く活動する中原さんが思い描く「伊勢丹新宿店というキャラクラーを活かした<ザ・コンランショップ>」とは?インタビューでわかったことは、中原さんの社長就任は必然であり運命だったということです。

2022年4月に株式会社コンランショップ・ジャパンの代表取締役社長に就任。

初海外のインテリアショップ、それが<ザ・コンランショップ>だった
原:そもそもみたいな質問になりますが、中原さんが家具やプロダクトのお仕事をするようになったきっかけはなんだったのでしょうか。
中原:鹿児島で大学1年生のときに英国のアンティーク家具を取扱うショップでアルバイトをしたのがキャリアの始まりです。そこは英国人のショップオーナーがカリスマのような存在で、九州中のアンティーク家具ファンが訪れるようなショップでした。
原:鹿児島まで家具を買いにくるなんて、かなり人気のショップだったんですね。

中原:当時はバブルということもあり、ものすごく売れていました。家具の配送は自分で車を運転していたんですけど、配達先が福岡の大宰府ということもありましたから。ちなみにそのショップは働くときに英語の名前をつけられて、自分は聖書からの引用で「トマス」でした(笑)。
原:中原さんと家具との触れ合いの原点は「トマス」としてだったんですね(笑)。
中原:そこでアルバイトをしているときに人生で初めて海外に行く機会を与えてもらったのですが行き先はロンドンで、英国の初日にいきなりオーナーに連れて行かれたのが、オープンして間もない<ザ・コンランショップ>でした。
海外で初めてのインテリアショップでしたから、その当時のインパクトは今もはっきりと覚えていますよ。
社長を引き受けたのはテレンス・コンランの生き方に共感したから

中原:大学卒業後に上京したのですが、当時はモダンデザインがムーブメントになっていて、自分も学生の頃から興味があったのでアメリカの古い家具を輸入して、修理して販売する会社で働くようになったんです。<イームズ>のシェルチェアなどは雑誌でも特集されていたので週に何百という数が売れた時代でした。
原:インテリアショップに携わる身としては、週に何百のチェアが売れるというのはちょっと考えられない数字です。
中原:家具に触れることの楽しさを知ることで、自然と自分でデザインしたいという気持ちが生まれて、それが<ランドスケーププロダクツ>の始まりです。99年に正式に会社として始動して、インテリアショップの<プレイマウンテン>を展開するようになったんです。カフェなども幅広くやっていますが、実家が飲食業だったので、そっちにも昔から興味がありました。

原:お話を聞いていると、どうしてもとある人物を思い浮かべてしまいます。<ザ・コンランショップ>の創業者のテレンス・コンランも家具デザイナーであり、ショップ経営者であり、レストランも経営して、中原さんがやられてきたことはテレンス・コンランそのもののような・・・。
中原:同じですとは言えないです(笑)。ただ、<ザ・コンランショップ>の社長へのオファーがあったときにテレンス・コンランに関する書籍にあらためて目を通したのですが、テレンス・コンランが「楽しい」と思うことと、自分がやりたいことはリンクする部分があるなって親近感は抱きました。
原:中原さんが<ザ・コンランショップ>の社長を引き受けたのは、そんな親近感が決め手だったのですか?
中原:最初に社長のお話があったときはたくさんの候補者のひとりだろうし、「冗談でしょ」って思っていたので真剣に検討はしてなかったです(笑)。それでも本気で考えてくれって再度お話をもらって、テレンス・コンランに共感できることが多かったのが社長を引き受けた理由のひとつではありますね。

伊勢丹新宿店という特殊なキャラクターにふさわしいショップにしたい
原:中原さんにとっての伊勢丹新宿店はどのようなイメージですか?
中原:伊勢丹新宿店とはイベントや内装・設計など、仕事でも結構関わっていて縁があると思います。いつ訪れても、ずっと変わらず刺激的な場所ですね。
原:伊勢丹新宿店の<ザ・コンランショップ>は2021年にオープンしたのですが、この場所だからこそやってみたいことなどなにかお考えですか?

中原:ファッションでもライフスタイルでも、常に新しい情報を求めているのが伊勢丹新宿店のお客さまだと思います。ここで初めて<ザ・コンランショップ>を知るという世代も多いはずなので商品でも企画でも、インパクトのある出逢いをおとどけしたいという構想は持っています。
原:実際に中原さんからどんなアイデアが出てくるのか、早く知りたいですし、楽しみで仕方ないです。
中原:デザインに敏感なお客さまが多く訪れる伊勢丹新宿店だからこその、ワクワクするようなイベントもいろいろと開催したいと思っています。今企画しているのは、往年の名作から無名のデザイナーが手がけた作品まで、デザインの美しさや機能性に焦点を当てて世界中から集めた多彩なチェアをご紹介する「チェアマニア」と、特別なんだけど、特別じゃない、日常にすっと溶け込んで、使うたびにさりげない喜びを与えてくれるPlain,Simple,Usefulなお皿を集めた「ポッタリーマーケット」。ぜひ楽しみにしていてください。
<ザ・コンランショップ>は同じ新宿エリアにもうひとつありますが、場所が変わればショップのキャラクターも変わるというのが自分の考えなので、そのショップならではの特色は打ち出していきたいです。「伊勢丹新宿店」ってかなり特殊なキャラクターですからやり甲斐はあります(笑)。
原:「チェアマニア」と「ポッタリーマーケット」どちらの企画も非常に楽しみです。
伊勢丹新宿店には何か新しさを求めて来店されるお客さまが多くいらっしゃいますのできちんと告知して注目度を高めたいですね。
ショップごとの個性というのは自分も常に意識していて、中原さんの考えが浸透することで<ザ・コンランショップ>だけでなく、伊勢丹新宿店のショップスタッフにも、さらにはフロア全体にも好影響をもたらすのではないかとすごく期待しています。
中原:コロナ禍になっていまの自分は東京と長野の2拠点生活なんですが、都会での暮らしと地方での暮らしは気分が別物です。家具を選ぶテンションも異なりますし、家で作りたくなる料理も違うので揃える食器も違ってきます。

原:百貨店はどうしても商品そのものを強く打ち出しがちなのですが、俯瞰して⾒ればモノには必ずシーンがあると思っています。中原さんが感じている「場所や風景が変われば、ふさわしい家具や食器も変わる」というのは積極的に提案していきたいことです。
中原:「ライフスタイルショップ」や「コンセプトショップ」というのは今でこそ日本中にあふれていますが、その生みの親がテレンス・コンランであり、<ザ・コンランショップ>だと思っています。元祖のショップとして「いまの時代に、いまの東京でなにができるのか」というのを考えて実現するのが自分の役割ですね。
原:本国とはまた違って、日本だからこそ発信できる刺激みたいことを自分たちも考えたいです。

モノとモノが会話をするようなセレクトこそが「目利き」の真

原:三越伊勢丹ではバイヤーを中⼼に「目利き」という言葉を耳にします。「プロダクトファウンダー」でもある中原さんが考える「目利き」ってなんだと思いますか?
中原:いちばん重要なのはプロダクトとの出逢い方で、求めている人に求めているモノをきちんと選べるのがセンスではないでしょうか。「このショップに、どうしてこのプロダクトが置いてあるんだろう」って感じたことはないですか?
原:ありますね。なんとなくハマっていないというか、これを欲しがる人はいるのかな、みたいな。
中原:アメリカで自分のショップをやっていたときに感激するような言葉をお客さまからいただいたことがあって、「お前のお店はモノとモノが会話をしている、友だち同士だ」って⾔われたんです。自分が単純に「売れそうだから」と商売を優先してなんでも買い付けていたら、絶対にそんなことは言われていないはずです。
原:それは素晴らしい言葉ですね。中原さんが自分のショップにふさわしいと思って買い付けたモノたちだから会話をしているように感じたんでしょうね。そのお客さまの感受性もすごいですが。
中原:<ザ・コンランショップ>の代名詞のようになっている名作チェアは、その多くが同じ時代に誕生したもので、「新しいライフスタイルにふさわしいデザイン家具」というものを競い合ったデザイナーたちによるものです。それが時代を超えて現代にも通用するって素晴らしいですよね。それを「目利き」するのに長けていたのが、テレンス・コンランという人物だったのだと思います。
原:「モノとモノが会話するショップ」、それこそ自分がお客さまに提案したいことかもしれません。今日は素晴らしいお話を聞かせていただき、本当にありがとうございました。
