銀河英雄伝説 Die Neue These
Production I.G×三越伊勢丹
担当者が語るコラボレーションの舞台裏

銀河英雄伝説 Die Neue These Production I.G×三越伊勢丹 担当者が語るコラボレーションの舞台裏のメインビジュアル

2020年末に開催し大きな反響呼んだ「銀河英雄伝説 Die Neue These×三越」。
今回コラボ第二弾開催を記念して、同作のエグゼクティブプロデューサー郡司氏(写真中央右)・同じく同作を担当している大村氏(写真右)と三越伊勢丹メディア芸術担当の長縄(写真中央左)・湯川(写真左)とのクロストークを実施。
前回のコラボを振り返るとともに、今回のコラボに向けて双方がどのような考えで企画に取り組んでいるかを深掘りしていく。

多くの反響をいただいた前回のコラボレーション

長縄:まずは前回のコラボを振りかえってみたいと思います。おかげさまで店頭だけでなくネットやSNS上でもご好評をいただいていたように見受けました。

郡司:こちらにも「やってくれてありがとう」という声は届いています。

長縄:このようなコラボを通してProduction I.Gさんが伝えたかったことはありますか?

郡司:制作資料展の話になりますが、作品制作の流れを、資料を用いて、しかもきちんと解説を加えた展示を実現したいと、ずっと考えていました。
いわゆる原画展には解説キャプションがないことも多いのですが、例えば美術館の作品解説って面白いですよね。なので、アニメーション制作のバックボーンを紐解いてあげるときっと面白くなると考えたのです。制作チームには、「メモ紙一枚でも捨てないで取っておいてほしい」と頼んでいます。メモ紙でもキュレーション次第では面白いものにできますから。

  • 制作資料展で展示された資料の一部画像

    制作資料展で展示された貴重な資料の一部。キャプションにより細かく解説されている。

長縄:SNS上でも、「アニメーション業界を志す人へのメッセージなのでは」というお声も聞かれましたね。

郡司:アニメーション制作は数多くの人が関わっていく作業です。非常に多くの工程があり、そこにはさまざまな人が関わっているのですが、そのこと自体が業界として広く一般の方に伝えられていない一面があると考えていました。さまざまな制作工程を資料とともに展示・解説を行うことで内情を理解してもらえればと考えたのです。

長縄:確かに、あの一枚の絵が出来上がるのにこんなにたくさんの工程があるのだと初めて知りました。

湯川:私たちがなんで「メディア芸術」という言葉をチーム名にしているかというと、この業界のキラキラした部分だけではない課題や問題意識のことも伝えていきたいと思っているからなのです。そういった意味でも、「銀河英雄伝説 Die Neue These(以下 ノイエ銀英伝)」のコラボは、私たちにとっても代表的な取り組みになりました。実は弊社の取締役たちも噂を聞きつけて展示会には何人も見学に駆けつけているのです。

長縄:僕らがいくらそういったことをやりたいと思っていても、版権元さんが協力してくれないと実現できないですからね。展示物の選定からキャプション制作にいたるまで、並々ならぬ労力がかかっているとは思いますが。その意味でもProduction I.Gさんには感謝しています。

郡司:コラボと制作資料展をやりましょうと逆提案したのは弊社ですからね。その段階で三越伊勢丹さんは“製造リスク”と“制作資料展の開催リスク”を背負ってくれたわけです。こちらの提案に乗ってくれてリスクを取ってくれた相手には、精一杯協力して利益を出して貰わないとなりません。これで三越伊勢丹さんが赤字になってしまうと次のコラボに繋がらないからです。我々プロデューサーもアニメ制作にかかった制作予算を回収できないと“査問会”に呼び出されます。同じ立場なのでよく理解できます・・・

大村:それから目指すところという意味では、三越伊勢丹さんをきっかけにしてコラボをいろいろなところに広げていきたいですね。
ハイクオリティなコラボをやることで、ファンの方に「次もノイエ銀英伝は何か面白いことやってくれるのではないか」と思ってもらえる。それをほかの企業の人などが見ることで、どんどんコラボが広がってくれれば。

郡司:これは三越伊勢丹さんを担ぐわけではないですが、企画立ち上げ段階では「銀英伝」自体も「ノイエ銀英伝」もご存知ない担当者の方もいらっしゃったわけです。その方たちが、原作も読み、アニメも観てきちんと作品の内容も理解してくれてコラボにあたってくれました。こういったところはすごいなと正直感心しました。
また、資料展も展示素材自体は我々がキュレーションしています。しかし、それをどのように高級感をもってお客さまが楽しめるように展示するか、という部分では三越伊勢丹さんという企業に蓄積されてきた暗黙知を感じました。

  • Production I.Gさん内にある「ノイエ銀英伝」のスタッフチームの居る部屋画像

    Production I.Gさん内にある「ノイエ銀英伝」のスタッフチームの居る部屋。ここから作品が生み出される。

Production I.Gさんにとっての「アイテムを作る」意味とは―。

郡司:顧客満足度と盛り上がりですね。

長縄:宣伝的な狙いもあるのですか?

郡司:今のアニメグッズに顕著なのは、面白いアイテムを出すとお客さまの(作品に対する)熱量に繋がったりするのです。我々としては、それを目指してメーカーさんに作ってほしいと営業をかけたりします。しかし、先程申し上げたとおりアイテムを作るのには大きなリスクが伴うのが現実で、なかなか実現しないのです。ちなみに、よく誤解されていますが、アニメのアイテムの企画・製造を行っているのは基本的にはグッズメーカーさんであって、我々アニメ会社や製作委員会ではないのです。メーカーさんは我々に所定のロイヤリティを支払うことで製作・販売を行います。メーカーさんは製造にかかわるリスクを負い、逆にその利益もメーカーさんが得ます。このため、ハイクオリティなアイテムのようなものは専門性を持ったメーカーしか作れないわけです。今回の三越伊勢丹さんのコラボは、そういったアイテムから派生するファンの盛り上がりが狙えると考えたわけです。

長縄:アイテムのオリジナルストーリーも郡司さんが考えてくれましたね。

郡司:アイテムにバックボーンとなるオリジナルストーリーがあると面白いというアイデアを三越伊勢丹さんからいただきました。たしかに、それがある事自体でファンの盛り上がりを作れると考え、原作元さまにも随時確認しながら書いていきました。

長縄:カフェウィーンのコラボメニューも楽しんでいただけたようでした。あの企画は田中先生の秘書である「らいとすたっふ」の安達さんがカフェウィーンのザッハトルテが好物だと伺ったのがきっかけでした。

郡司:そうです。安達さんから“カフェウィーンとコラボしては?”とアイデアをいただきました。シェーンコップのギャルソン姿の描き下ろしイラストをキャラクターデザインの菊地さんに描いてもらいましたが、その服装にするためにはカフェに潜入捜査している設定を作ればいいのではと提案させていただきました。その方がストーリーも膨らむから。

長縄:ドイツ語のインビテーションカードもあえてこちらからは翻訳せずそのままお渡ししました。それをファンの方たちがSNSで話題にしてくださっていて。楽しんでいただける余白があってよかったかなと。

大村:今回のコラボは、グリル満天星さんですよね。

長縄:そうですね、今回は全部既存にないオリジナルメニューを作っていただいています。

郡司:グリル満天星さんは美味しいですよね!

空想と現実を融合させた描き下ろしイラスト

長縄:描き下ろしイラストをお願いする時は、作品(空想)と店舗の実風景(現実)を融合させるということをコンセプトにしています。前回の描き下ろしイラストはいずれも好評いただきました。Chaykovさんのイラストも話題になりましたね。

  • Chaykov氏による前回の描き下ろしイラストの一部を拡大した画像

    Chaykov氏による前回の描き下ろしイラストの一部を拡大したもの。建物の看板にもユニークなアイデアが散りばめられている。

湯川:ChaykovさんもProduction I.Gさんから“このイラストレーターさんにコラボイラストをお願いしてみませんか”とご提案いただいたそうですね。

郡司:そうです。もともとI.Gストアのキービジュアルを描いてくれていたイラストレーターさんです。

湯川:いろいろな楽しいネタが散りばめられていましたよね。Chaykovさんとはどのように出会ったのですか?

郡司:もともと知り合いではあって、毎年年賀状をいただくようになったのです。その年賀状に描かれているイラストが素敵だったのでI.Gストアのお仕事のお願いしたのがきっかけでしたね。

大村:今回もChaykovさんの新しいイラストが登場しますよね。

長縄:そうです!今回は日本橋三越本店の中央ホールが舞台です。

郡司:中央ホールにある天女像の描き込みの緻密さがすごいことになっていましたよ。執念を感じました。

長縄:私も驚きました!描くのが難しいようでしたらデフォルメしていいですよってお伝えしたのですけど、細かいところまで描いてくださって。
あとすごいなって思ったのは、実際は吹き抜けの天井からホールの床まで人間の視界では一望できないのですが、うまくあのアングルを作り出していらっしゃった。まさにイラストならではですよね。

湯川:日本橋三越の入り口の前にラインハルトとキルヒアイス、ヤンとユリアンがすれ違うというイラストも素敵でした。

  • 日本橋三越の入り口の前にラインハルトとキルヒアイス、ヤンとユリアンがすれ違うというイラスト画像

    前コラボでは日本橋三越本店 ライオン口の前を描き下ろしイラスト化。キャラクターの個性や季節に合わせた服装、さらにショッピングバッグの大きさや持ち手の色に至るまで綿密な打ち合わせの上設定されている。

郡司:なにしろ三越さんの前には“獅子像”がいますからね。その前ですれ違うラインハルトやヤンたちというのはノイエ銀英伝のファンにはたまらないですよね。

長縄:多田監督と声優の下山さんのオンライントークライブでは、あのイラストをもとにしたオリジナルストーリーを下山さんが朗読してくれました。オリジナルストーリーも郡司さんが考えてくれましたね。

郡司:あれはいきなり下山さんから“オリジナルストーリーを朗読したい”と言われたんです。

長縄:え!下山さんからの提案だったのですか?

郡司:はい。いきなり(笑)
で、あの描きおろしイラストをず~っと眺めていたら、あのラインハルト・キルヒアイスとヤン・ユリアンの一瞬の邂逅を三越さんの獅子像が見つめていたというストーリーが湧いてきました。

長縄:あれは、良かったです。

湯川:描き下ろしイラストで、作画のご担当につなげるときに気をつけていらっしゃることはありますか?

大村:たとえば表情ですね。笑顔ひとつとってもいろいろな笑顔がありますし、色味も一言で「ベージュ」といってもさまざまなベージュがありますよね。そういうところは参考画像も用意しながら出来上がりの認識に齟齬がないように制作現場にお伝えするよう気をつけています。

長縄:だからあの仕上がりになるのですね。僕は描き下ろしイラストこそコラボ企画の醍醐味だと思っています。一番楽しい仕事のひとつですね。

「銀河英雄伝説 Die Neue These」と三越の出会いとは―。

郡司:はじめ三越伊勢丹さんからは別の作品でコラボをご提案いただいたのですが、私から逆提案する形で「ノイエ銀英伝でコラボしませんか?」と話を持ちかけたのがきっかけでしたね。

長縄:そうでしたね。あの時私たちメディア芸術担当の中でも「銀河英雄伝説」という作品そのものを詳しく知らなかったメンバーもいました。ですので、一旦社内に持ち帰って周りにヒアリングしてみたら熱狂的なファンも多かったのです。それで是非やらせてくださいと。社内に作品が好きな人が多いとアイテム開発もスムーズですから。

湯川:なぜ郡司さんは「ノイエ銀英伝」を逆提案されたのですか?

郡司:二つ理由があって、一つはずっと「ノイエ銀英伝」で普段使いできるものや高級感のあるアイテムはファン層からのニーズがあるのではないかと考えていました。
しかし、アイテムを作るって結構リスクが高いビジネスになります。まず、大きな在庫リスクがあります。また受注生産にすればリスクがないと考える方もいるかも知れませんが、少なくともこれだけの量は作らないと製造メーカーが作ってくれないという最低ロットがあるのです。このため、何社かに営業をかけてみたのですが、この話に乗ってきてくださる企業さんがいなかった。

長縄:そんな時に三越伊勢丹が来たと。

郡司:そうです。三越伊勢丹さんなら高級感のあるアイテムをお客さまにお届けできるのではないかと。あとは三越伊勢丹さん企業自体が持つ重厚感などが、作品とマッチするという直感がありました。

湯川:もう一つの理由もお聞かせいただけますか?

郡司:前半でも申し上げましたが、原画を含めた制作資料展をどこかでやりたいと思っていました。これも何社かお声をかけていたのですが収益性の観点から乗ってきてくれる企業がいなかった。展示会を開催するというのも会場費や設営費などが莫大に必要なためリスクが高いですからね。
しかし、三越伊勢丹さんならアイテムも作れるし場所も持っていらっしゃる。制作資料展の入場料だけではない収益構造を構築することが可能だろうと考えて“展示会もやりませんか?”と逆提案したわけです。

エグゼクティブプロデューサー郡司氏がインタビューを受けている画像

湯川:当時、私はまだメディア芸術チームにいなかったのですが、郡司さんに三越伊勢丹から直接アポイントが入ったのですか?

長縄:エムアイカードという三越伊勢丹のグループ会社があるのですが、最初はそこのKさんを通してコンタクトさせてもらいました。

郡司:そうそう。Kさんは私の前職での後輩です(笑)15年ぶりくらいに再会しましたね。

今回のコラボ第二弾の見どころとは

長縄:資料展も含めてサードシーズンの「激突」とリンクした内容になっているところがポイントです。
アイテムは、前回と同じくらいの数量を企画しています。
一部復刻アイテムもあって、前回話題になったアルテミスの首飾りは今回プラチナ仕様になっています。あとジュエリーですと、ロイエンタールのイヤーカフが新しく登場します。インパクトでいうと純金の国璽も。一個でも売れたら嬉しいな(笑)

郡司:SNSを見ても多数のファンの皆さんからご期待いただいているようですね。

長縄:SNSはこまめにチェックさせてもらっています。プレッシャーは感じますね。

郡司:資料展は前回に引き続き「激突」の制作の裏側が細かく見られる展示にしようと頑張っています。

湯川:キュレーションはProduction I.Gさんにお任せなので・・・今回の資料展も楽しみです。

  • 「激突」の貴重な資料画像

    今回の資料展では「激突」の貴重な資料を見ることができる。

ファンの皆さまへのメッセージ

長縄:前回いらしていただいた方も、今回初めての方も楽しめる企画になっていますので、ぜひご期待ください!

郡司:前回、来店やECなどのさまざまな方法で参加してくださったファンの皆さまのおかげで三越伊勢丹さんの担当者が査問されずに済みました!今回も売れるときっと次がある?と信じて。応援よろしくお願いします。

長縄:今回もなんとか査問会は回避したいです・・・!

郡司:そういえばエンドテロップ掲載権付きBDのご購入もありがとうございました。ファンの方はお気づきかもしれないですが、「激突」の第一章のエンドテロップに三越伊勢丹さんが掲載されています。

長縄:会社名でのエンドテロップ掲載も大丈夫とのことでしたので、なんとか続編制作に向けて応援できればと考えて購入させていただきました。

郡司:「策謀」もエンドテロップ掲載権を募集していますので、ぜひご検討よろしくお願いします。

長縄:持ち帰って検討させていただきます(笑)

©田中芳樹/銀河英雄伝説 Die Neue These 製作委員会