【インタビュー/EPOCH vol.29】プロバスケットボール選手・富樫 勇樹。節目の年を迎え、彼が見据える今後の展望とは。世界と対峙したことで、芽生えた「勝ちたい」というチームの共通認識

振り返ってみると、2000年代から今まで日本のバスケットボール界の話題の中心にはいつもひとりの男がいた。その男の名前は、富樫 勇樹。
現在、BリーグのB1東地区に所属する強豪・千葉ジェッツふなばしのエースを務める男だ。
167cmというバスケット選手では一際小柄な彼だが、持ち前のセンスとクイックネスを武器に、若い頃から世界と対峙してきた。今年30歳、プロデビュー10年目という節目の年を迎える彼は、今までどのようにして世界を相手に戦ってきたのだろうか。伊勢丹メンズ館の20周年と『EPOCH』の創刊10周年を目前に控えた記念すべき今号で、FIBAバスケットボールワールドカップ2023やファッション観などの話から富樫 勇樹というひとりのバスケットボール選手を紐解いていく。


EPOCH vol.29 professional basketball player Yuki Togashi

PRADA/プラダ
※すべて参考商品
□伊勢丹新宿店 メンズ館3階 メンズデザイナーズ
― まずはファッション撮影はいかがでしたか?
富樫 勇樹(以下、富樫):もちろん撮影自体はいろいろとやらせていただいたことはあるんですけど、今回のようにハイブランドの洋服を着て、毎回ヘアスタイルやシチュエーションを変えての撮影は初めてだったので、すごくいい経験というか、とても楽しめた撮影でした。写真を通して、今まで見たことのない新たな自分を見ることができたので、これからバスケットボールもそうですが、ファッションもいろいろなものにチャレンジしていきたいなと思いますね。
― 富樫選手の好きなファッションのテイストがあれば教えていただけますか?
富樫:基本はシンプルな洋服が多いですね。ただ、たまに自分でも「何でこの洋服を買ったのだろう?」と不思議に思う服もあったりしますね(笑)。
― バスケットボールとファッションは親和性がすごく高いものだと思います。アメリカのNBAでは選手の会場入りの際のファッションが注目され、ある種ひとつのコンテンツとして人気があるものだと思いますが、好みのファッションのNBA選手はいらっしゃいますか?
富樫:そうですね、SNSで何人かフォローしている選手がいますが、その中でもカッコいいなと思うのは、ユタ・ジャズというチームに所属するジョーダン・クラークソン選手ですね。自分のファッションがシンプルだからか個性ある着こなしをされているひとを見るとカッコいいなと思います。

GIVENCHY/ジバンシィ
Tシャツ 60,500円
パンツ 97,900円
バッグ (ナイロン/15×35×15cm) 91,300円
スニーカー 129,800円
※ブルゾン・レギンス・グローブは参考商品
□伊勢丹新宿店 メンズ館3階 メンズデザイナーズ
― 富樫選手といえば、バスケットボール選手として学生時代から世界と対峙されている印象があります。直近の2021年東京五輪では、確実に日本のレベルが上がっていると実感できた大会であったと思うのですが、それと同時に世界との差を痛感したものにもなったと思います。富樫選手が感じる世界との差はどのあたりにあるのでしょうか。
富樫:もちろんサイズの問題はあると思いますが、留学したときから感じているのは、練習の質や環境に大きな違いがあるのかなと思います。それを学生時代に感じることができて自分は恵まれているなと。また、海外の選手は“個”と“チーム”のバランスが優れていると思います。プロの世界はどれも同じだと思いますが、やはり契約が取れるか、切られるかという環境の中で、いかにハングリー精神を持ってやれるか、そして自分だけでなくいかにチームとして動けるか、そのバランス感覚を海外の選手は兼ね備えているのかなと思います。
― 世界と戦っていく中で、日本のバスケットボール界の話題の中心にはいつも富樫 勇樹の名前がありました。そういった状況がプレッシャーになったりすることはありませんでしたか?
富樫:プレッシャーを感じることはあまりありませんね。高校時代、アメリカ留学を決断したときもそうですが、正直、周りからの期待を一切感じていませんでしたから。身長も身長ですし、周りからは「まあ、頑張っておいでよ」という感じというか。それが逆によかったのかもしれません。日本のバスケを背負って立つという気持ちがないことはないですけど、程よくやっていた。だからこそ、過去を振り返ってもバスケットですごく苦しかった経験はないのかもしれません。
― 今夏にはFIBAバスケットボールワールドカップ2023の自国開催が控えています。再び世界と戦う機会が訪れますが、富樫選手自身、世界を意識した際に、大切にされていることはありますか?
富樫:もちろん勝ち負けは意識しますが、最近代表の試合で感じるのは、試合前の空気がすごくいいという事です。全員で勝ちに行くという気持ちが全面に出ている。その中で、まだまだチームとして経験や実力不足の面があるとは思いますが、ここ数年で「勝ちたい」という気持ちがチームの共通認識としてより芽生えてきているというのはすごくいいことですし、チーム内の空気はとても良くなってきていると思います。
― ここ数年で日本のレベルがアップしているのはそういったことも作用しているのですね。そして、富樫選手は今年30歳という節目の年を迎えます。選手としてベテランの域に入ってきたと思いますが、新たに掲げている目標はありますか?
富樫:やっぱり今年はワールドカップでしっかり結果を残すことです。それまで怪我なくBリーグでも結果を残し、万全の状態でワールドカップに望みたいという気持ちがいちばん強いです。

THOM BROWNE/トム ブラウン
スーツ(ネクタイ付) 427,900円
シャツ 66,000円
タイバー 48,400円
シューズ 135,300円
※チーフは参考商品
□伊勢丹新宿店 メンズ館2階 メンズクリエーターズ
―“UNAVERAGE”という活動では次世代への発信もされていますが、今後の日本バスケットボール界についてはどうお考えですか?
富樫:アンダーカテゴリーの大会も増えてきて、学生たちの環境はいい方向に向かっているのかなと思いますが、まずは僕たちが五輪やワールドカップにしっかり出場することが大事だと思います。正直、僕が学生の頃は代表になって五輪に出てみたいと思ってもなかった。それはきっとその場面を見たことがなかったからなんです。でも、僕たちがしっかりと世界の舞台で戦えば、下の世代の目標も変わってくる、プロ選手になるという目標の先に世界と戦うという夢がプラスされると思うんです。だからこそ頑張っていかないといけないと思っています。
― ちなみに、富樫選手は今後、再び海外のチームでプレーしたいと考えていますか?
富樫:もちろんレベルの高い場所でプレーするということは選手全員が思っていることだと思いますけど、僕の中ではやはり試合に出ないと意味がないというか。そこは現役を続ける上での条件。どれだけレベルの高いリーグでやっていてもコートに立てないと意味がないと海外挑戦の際に思ったので。もちろんいい経験でしたけど、今はプレーしてこそだと思っています。

TOM FORD/トム フォード
タキシード 803,000円
ボウタイ 36,300円
チーフ 27,500円
カマーバンド 66,000円
※シャツ・シューズは参考商品
□伊勢丹新宿店 メンズ館4階 メンズラグジュアリー
― 最後になりますが、今後の展望を教えていただけますか?
富樫:年齢も30歳になりますし、今回のワールドカップと出場できればですが2024年の五輪がきっと最後の大舞台になってくるのかなと思っているので、しっかりと結果を残して、引退したときに「よかったな」と思える決断をこれからもしていきたいと思います。
Photograph:MINORU KABURAGI
Videograph:MASARU FURUYA
Text:SHUNSUKE SASATANI,Minimal