
伊勢丹新宿店本館3階のリ・スタイルで〈アカネ ウツノミヤ〉の取り扱いがスタートして10年目となる2020年。ブランドの第一印象を「海外ブランドにはない繊細さと、日本では少ない素材や色使いが衝撃でした。唯一無二の魅力を持ったデザイナーがついに同世代から出てきた」と話すのはリ・スタイルのアシスタントバイヤーの宮崎真理。「ファッションの伊勢丹」を掲げ、ファッションの最前線に立つ伊勢丹バイヤーによるインタビュー連載。第1回目は〈アカネ ウツノミヤ〉のデザイナー、蓮井茜さんです。

宮崎:茜さんと初めてお会いしたのは伊勢丹新宿店1階のザ・ステージでのイベントでしたよね。私は今はアシスタントバイヤーですけど、10年前はリ・スタイルの店頭でスタイリストとして販売をしていました。
蓮井:新人クリエーターの賞を受賞した直後でした。その半シーズン後にもまたイベントで声をかけていただいて。
宮崎:リ・スタイルは常に最先端のファッションや新しいブランドをお客さまに提案し続けているショップなので、〈アカネ ウツノミヤ〉のようにファーストシーズンからずっと続いているブランドは私が記憶する限り他にないですね。10年ですからね。一緒に成長してきたなって思いもあります(笑)。
蓮井:そう言っていただけるのはとてもありがたいです。確かにファーストシーズンから関係が続いているお店は伊勢丹ぐらいですね。
宮崎:茜さんの作る服は伊勢丹のお客さまとの相性がすごくいいんです。伊勢丹のお客さまはちょっと尖っているファッションが好きな方が多くて、だから「変わらないんだけれど、進化し続けている」という〈アカネ ウツノミヤ〉に 惹かれるんだと思います。

蓮井:10年も経つとやっぱりリ・スタイルのラインナップも変わりました?
宮崎:そうですね、時代もお客さまも変わり続けていますから。それでも〈アカネ ウツノミヤ〉のコレクションは毎シーズン「お客さまにご紹介したい」って気持ちにさせられます。配色や素材の組み合わせだったり、グラフィックだったり常に新しい提案があるので私は〈アカネ ウツノミヤ〉の展示会に行く度にワクワクしています。いろんなファッションに挑戦したいというおしゃれに意欲的な方ほど〈アカネ ウツノミヤ〉を選んでいるような気がします。
蓮井:選んでくださっているのはいくつぐらいの方が多いんですか
宮崎:メインは30代ですけど、アイテムよっても変わりますね。コーディネートに取り入れやすいニットなんかだともっと上の世代の方も購入されていますし、お客さまの特徴がバラバラなのも〈アカネ ウツノミヤ〉らしさかもしれません。ブランドさんによってはある程度は固定のお客さまの傾向はありますから。
蓮井:お客さんをイメージしやすいブランドってありますよね。
宮崎:〈アカネ ウツノミヤ〉の服は個人的に何着も持っているんですけど、他に並ぶブランドがない気がしているんです。繊細な色使いだったり、ちょっと華奢な作りだったり、日本人の女性にすごく合っていると思うんですよね。

蓮井:世代で一緒にされることはありますけど、確かに他のブランドとテイストで括られることは少ないかもしれないです。
宮崎:クオリティもいいので過去のシーズンのものでも色あせずに着られて、「5年前に買った服をまだ着てる」って自分でも思います(笑)。だからといってクローゼットがほとんど〈アカネ ウツノミヤ〉というわけでもなく、いろいろ組み合わせて着られるのも楽しいです。
蓮井:結構激しい服とも組み合わせてうまく着てくれているなっていつも思ってますよ(笑)

宮崎:お付き合いは長いのでセントマーチン卒業などの経歴は知っていますが、そもそもどうしてデザイナーを目指されたのですか?あらためて聞いたことなかったですよね。
蓮井:もともとはロンドンにはプロダクトデザインの勉強がしたくて留学したんです。そこでテキスタイルの面白さに気づいてテキスタイル科を専攻したんですけど、生地作りってひとりの作業になりがちなのでもっとモノと連携させたいと思って私が選んだのが洋服だったんです。それでファッション業界の人とも知り合ったんですけど、ファッションって外見の世界のように思われがちじゃないですか。でも実際に作っているのはエモーショナルで人間味のある人が多くて、自分も洋服の仕事をしたいなって思うようになったんです。
宮崎:聞いているうちにもともと勉強したかったプロダクトに、今の茜さんのテキスタイルを落とし込むのもおもしろそうって思いました。
蓮井:洋服って着ることで気持ちが変わったり、人物像を生み出したりしますけど「ファッションで表現する」って難しいことだと思っています。でも、ブランドとしては表現者としてのアーティスト性を求められることも多くてファッションって不思議な世界だなって最近はそんな事を考えたりしますね。その不思議さも好きなのかもしれないですけど(笑)

宮崎:私からすると茜さんは完全にアーティストですよ。リ・スタイルのために別注アイテムも何度も作ってもらっていますが、一緒にアイデアを考えている時なんかは普段は見られないプロの顔が出てかっこいいです(笑)
蓮井:本当に?どんな顔だろう
宮崎:いつもは穏やかな茜さんだけど、アーティストの顔になっています。本年リニューアルオープンを予定しているリ・スタイルのための別注アイテム企画のためにテキスタイルを探しにパリの蚤の市にも一緒に行きましたしね。
蓮井:あの駅も場所も間違えたという蚤の市ね(笑)
宮崎:そんなパリだったんですけど、ブランドのショールームでちょっと驚いたのはどこも「サステナブル」を掲げていたじゃないですか。ブランドによって考え方や捉え方はそれぞれで、私が〈アカネ ウツノミヤ〉の服を何年も大切に着続けているのも「サステナビリティ」のひとつだと思いますけど、ファッションを取り巻く環境が変わってきているなって感じました。
蓮井:ここ2、3年で急激に変わってきたんじゃないですかね。サステナブルもそうですけどSNSの影響はやっぱり大きくて、服も「WEB映えする、しない」みたいなことも言われますけど、こちらとしてはそんなことを考えて作ってはいないんですよね。でも、受け取る側はSNSの瞬発的な情報で服を選んだりするのでサイクルがすごく早くなっている気がします。そのサイクルに巻き込まれて消費されないようにしないといけないとは思っています。
宮崎:モノ作りって簡単ではないですし、デザイナーの方は「WEB映え」とか単純なことではなくコンセプトから真剣に考えていますよね。今はモノ作りの背景やストーリーを意識して服を選ぶお客さまも増えてきているので、そこはリ・スタイルでもきちんと伝えなければと思いますね。茜さんのモノ作りの時のインスピレーションの源にもすごく興味があります。
蓮井:コレクションがスタートする時には必ずボードを作るんですけど、そこに自分で撮った写真や写真集などから資料として選んだものを集めて、新作の色味などを決めていきます。このやり方はテキスタイルを勉強したときの応用です。
宮崎:グラフィックはロンドン時代の知人の方が書き起こしてくれているんですよね。その柄をどのアイテムに落とし込むかは茜さんが決めているんですか?

蓮井:そういう場合もありますし、知人からのアドバイスもあります。ニットの柄がこうだから、スカートの柄はこうしようとかリンクさせることを考えて選ぶこともあります。なのでコレクションの時はその知人ともボードを共有しています。写真って身の回りの現実を写しているものじゃないですか。あまりドリーミーな発想はしないタイプなので、現実とリンクしている写真は自分にとってインスピレーション源にしやすいというのもありますね。
宮崎:ご主人も有名なフォトグラファーですもんね。先日、ご主人の個展に行きましたよ。最終日に駆け込みで(笑)

蓮井:コレクションの撮影もやってもらっているんですけど、こっちが何を好きかも理解してくれているので細かく説明する必要もないですし、思っていた以上のものを仕上げてくれることもあって撮影チームには恵まれていると思います。
宮崎:クリエーター同士って感性が刺激されて楽しそうですね。でも私と茜さんも10年間でいろいろやってきましたよね。
蓮井:やりましたね、いっぱい。初めて伊勢丹さんから別注の依頼があった時にまだ自分も新人だったのでそんなにオーダーはないだろうと思って仕上げに手作業が必要なちょっと凝ったカーディガンを作ったんです。そしたら想像以上の数を発注いただいて大変な思いをしたのを覚えています。手作業は好きなんですけどね、数が多くなければ(笑)

宮崎:最近はテレビとかポスターで〈アカネ ウツノミヤ〉の服を見ることも多くて、見かけると思わずスマホで写真を撮ってしまいます。ファーストシーズンから知っている〈アカネウツノミヤ〉がこんなに有名に!ってうれしくなって。身内の成長を見守る親戚かって感じですけど(笑)
蓮井:広告とかで見て「あっ!ウチのだ」って気づくことがあるんですけど、自分が作った服が最終的にどういう風に着られているのかはやっぱり興味ありますね。
宮崎:茜さんもパリで展示会を2020年の秋冬コレクションからスタートさせたじゃないですか。だから今後をすごく楽しみにしているんですけど、これまで通り変わらず茜さんの自由な感性で服作りをしてほしいです。パリの展示会に集まるブランドと比べてもやっぱり〈アカネ ウツノミヤ〉と同列に並ぶブランドは無いって個人的には思っています。

蓮井:私自身はパリの展示会だからってやり方を急に変えてこれまでと違った服を作るつもりはないので、伊勢丹さんも変わらず「ファッションの伊勢丹」であってほしいという思いはあります。ファッションに関わる人間なら世界中の誰もが訪れるお店なので、ファッションの楽しさを象徴するような存在であり続けてほしいですね。
PROFILE
蓮井 茜(ハスイ アカネ)
1982年生まれ。東京出身。高校卒業後、渡英。Central Saint Maritins College of Art and Design BA テキスタイル科を卒業。同学校のMAファッションニット科に1年在学。5年半のロンドン滞在期間中、ブランドのニットデザインを行う。帰国後、2年間アパレルブランドで就職後、2009年に〈AKANE UTSUNOMIYA(アカネ ウツノミヤ)〉を立ち上げる。ブランドコンセプトは、ラグジュアリー、素材の特質、クリエーティブであること。長い間ニットを専門にやっていたので、ニットに特化した服作りを目指す。