
三越伊勢丹の全社的サステナブルプロジェクト「THINK GOOD」。不用品、端材等の再利用にとどまらない、さまざまな再価値と付加価値をもたらすアップサイクルに着目し、多彩な商品やサービスを紹介するこの取り組みのなかで、すでに本館3階のリ・スタイルで提供を開始している衣料品の黒染めサービス<KUROZOME REWEAR>にフォーカスしたい。日本古来の礼服である黒紋付だけを100年以上染め続けてきた、京都の御黒染司こと「京都紋付」との協業が、”ファッションの殿堂”ともいうべき伊勢丹新宿店に革新をもたらす!
※お申込みの前に、上記リンク内の[素材・注意事項]のご確認ください。
※三越伊勢丹でのお買上品以外もご注文いただけます。
究極ともいうべき”黒”で染め替えするという、目からうろこのアップサイクル

持続可能性のあるファッション──。商品の大量廃棄、限りある資源の濫用、自然環境の破壊など、アパレル業界の負の側面ばかりがクローズアップされるようになった現代では、サステナブルであるか否かが、ファッションの価値を左右する極めて重要な要素になった。
そんな時代に重用されるアップサイクルという手法やアイデアは、元来不用品を新しい価値あるものに生まれ変わらせることを意味する。しかし、本当にそれだけだろうか?
三越伊勢丹は、”再生”だけでなく「長く使い続けるためのストーリーと価値を吹き込む」ことこそアップサイクルの本質と考え、「THINK GOOD」という名の全社的プロジェクトを通して、加工や再生にとどまらないさまざまなアップサイクルのあり方を紹介。さらには役目を終えたモノとの美しい別れ方まで提案する。
「モノを大切にする」という、持続可能性のあるファッションの本質へとつながる、この「THINK GOOD」プロジェクト。今回は数ある取り組みのなかから、京都の老舗黒染め屋「京都紋付」との協業による衣類の黒染めサービス、<KUROZOME REWEAR>を紹介したい。


<KUROZOME REWEAR>を手掛ける「京都紋付」は、1915年に京都で創業。以来一貫して、日本古来の最上級正装である黒紋付を染め続けてきた老舗染め屋だ。和装の世界で歴史を刻みながらただ”黒”のみを追い求め、1世紀にわたって独自の技術を磨き抜いてきた「京都紋付」は、深みのある”世界一”の黒を表現できる、唯一無二の技術をもっているという。
そんな技術力は現代の洋装へも見事に転用され、世界中の名だたるブランドの黒染め加工を請け負ってきた。そして2013年、WWFジャパンとのコラボレーションのよるBLACK PANDAプロジェクトを通して、衣類を黒く染めて再生するという事業を開始。さらに時代の変化によるニーズの高まりと多くのラブコールを受け、2020年9月に染め替えという”アップサイクル”を一般ユーザー向けに提供するサービス<KUROZOME REWEAR>として、本格スタートしたというわけだ。
黒染めは京都の伝統的な文化を未来へと繋ぐ、革新的アイデア

「京都紋付」が自称”世界一”の黒を表現できる理由、それは通常の反応染料(衣類の繊維と科学結合して染着する、耐久性や耐光堅牢度に優れた染料)による染色を行ったあと、さらに”黒染め一筋100年”の御黒染司である「京都紋付」が、独自に開発した深黒(しんくろ)加工という仕上げを行うことにある。
深黒加工とは、生地に特殊な薬品を染め込ませて光の反射を抑えることで、黒をより暗く、深く、黒く見せる究極の黒染めのこと。通常の反応染料でも十分に黒く染められるのだが、黒を極めんとする「京都紋付」にとってそれでは不十分。そこで通常の黒染めを行い乾燥させた後、仕上げの深黒加工を施し、天日干しで一点一点丁寧に乾かすことによって、世界最高レベルの黒を実現している。


実はこの深黒加工、すごいのはその圧倒的な黒さだけではない。なんとインディゴなどの直接染料と違い、洗濯をしてもまったく色落ちすることがないという。「京都紋付」の代表を務める荒川 徹氏によれば、「黒紋付は中に白いお襦袢(下着)を着るんですが、汗をかいたりして白い襦袢に色が落ちたら大変なので、色落ちにとても強い。黒染めした服と他の衣類を一緒に洗濯しても、大丈夫です!」と太鼓判を押す。
そして色落ちしないばかりか、生地の表面は撥水性まで発揮するようになり、購入当時のようなソフトな風合いまで取り戻すという。まさにいいことづくめだ。


「服に雨がかかっても、お茶をこぼしてしまっても、水滴が玉のように転がります。つまり、それだけ汚れにも強いんです。そして当然ながら私たちが”世界一”の黒と信じているので、一般的な黒い服のようなムラも発生しないんです」。
サステナブルであることが当たり前である時代だからこそ、特筆しておきたいのは、京都紋付が発がん性物質を含んだアゾ染料を使用していないということだ。アゾ染料は2016年に国内での使用が禁止されたが、技術的な問題のため着物業界のみ禁止除外対象となっているもの。だが京都紋付では、自主的にアゾ染料を使わない黒染めを実現するべく、未来志向の試行錯誤を重ねること約4年、いちはやく1992年に実現させていた。
大好きで、大切にしている衣類も、ほんの少しの汚れや色落ちで、着られなくなってしまうこともある。だがだからといって、そのまま手放してしまうのは、とても悲しくもったいないこと。しかし、究極の”黒”でムラなく染め上げれば、その服は新たな生命を宿し、まったく異なる表情で再び輝いてくれるだろう。結果として廃棄される衣料品も、削減できる。
オイルやワイン汚れの付着だって驚くほど美しい黒で”再生”できるし、誰よりも黒い”究極”の黒を追求することもできる。デザインは気に入っているのに色柄に飽きてしまったアイテムなども、手放さずにすむはずだ。

手持ちの衣類を黒染めするという<KUROZOME REWEAR>の取り組みは、京都の伝統文化を未来へと繋ぐ、革新的なアイデア。お気に入りの1着をずっと大切にするために。よりサステナブルなファッションと社会のために。黒染め加工による”リウェア”というアップサイクルは、すべてのファッション愛好家にとって、素晴らしい選択肢となることだろう。
新規購入するのではなく、染め替えする──そんなファッションライフが、いまという時代のひとつの”正解”なのかもしれない。