ー自分が思うように、楽しみながら自由にやるー
ReStyleのアプローチとも交錯するクリエイティビティの生まれる源泉とは?

ー自分が思うように、楽しみながら自由にやるーReStyle presents <orono×菅原達也>クロストーク

ReStyle SPRING SUMMER 2024のシーズンヴィジュアルのクリエイティブ・ディレクションを担当した、多国籍バンド「Superorganism」のフロントマンとしても知られる、アーティストのoronoさん。彼女が、盟友であるミュージシャンの菅原達也さん(め組)を迎えてクロストーク。ビジュアル制作にかけた想いから、ものづくりに対するこだわりまで、ざっくばらんに語り合います。

音楽には、創る人の本性や魂が滲み出る

―― お二人は、それぞれが伊勢丹と一緒にクリエイティブを作ったアーティストであると同時に、そもそもすごく仲のいいお友達なんですよね?

oronoさん(以下、orono):もともと、菅原がめ組の前にやっていたバンド(さよなら、また今度ね)の大ファンで。中学〜高校生ぐらいの頃は「日本の音楽なんか大っ嫌い!」って思ってたんですけど、唯一好きだったのがきゃりーぱみゅぱみゅとさよなら、また今度ね、だったんです。

菅原達也さん(以下、菅原):ははははは(笑)。

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orono:その後、Superorganismを始めた時に「今度、バンドやることになりました。ずっと好きでした」ってTwitterでDMしたのがきっかけで、友達になったって感じですね。

―― 菅原さんの表現のどのような部分がoronoさんにハマったんでしょうか?

orono:自分が日本の音楽を嫌いだったのは、主に歌詞だったんですね。「どの曲も同じようなことしか言ってないな、つまんないな」って思って、全然刺さらなかったんですよ。でも、菅原の歌詞は身近なワードを使いながら、心に突き刺さるような超わかるっていうことを歌っていて。

菅原:どの曲がお気に入りだったんだっけ?

orono:「in 布団」って曲が大好き。<ニトリで買ったかわいい布団 セミダブルサイズの少し大きい布団でさあ/この布団をひとつの国だとしよう 国民は僕と君で成り立ってる>って歌詞があって。超良くないですか? 妄想なんだけど、リアリティもあって、そのバランスが絶妙で面白い。

菅原:嬉しいなあ。

orono:音楽には、その人の本性とか魂が滲み出るじゃん。俺は菅原の人となりを音楽から感じ取ったんだと思う。だから、実際に会って、友達になった後に俺らすごい似てるなって思ったんだよね。

菅原:それはめっちゃわかるな。

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―― お二人とも異常に鋭い目をしてますもんね。菅原さんは、当初、Superorganismのことは全然知らなかったとか。

orono:鋭い目(笑)。

菅原:知らなかったんです。だから「どんなバンドなんだろう?」と思って、まず調べて。で「Something For Your M.I.N.D.」って曲を聴いた時に「おお、これこれ!」と思ったんですよ。この曲に<I'm the K-mart soda jerk>って歌詞があるんですけど。この<K-mart>ってアメリカのコンビニみたいな感じなんでしょ?

orono:スーパーマーケットみたいな感じかな。

菅原:音楽においては、己の中の風景を描くことこそが普遍的なことだって俺は思ってて。さっきの一節を聴いた時に、知る由もない場所のはずなのに、なぜか懐かしいような気持ちを覚えて。かつ、メロディなのかサウンドなのかわからないけど、曲からすごく強いパワーも感じたんですね。こういう表現を正直に、地でやってるヤツなんだなって思って、すごく好きになりました。

―― 思わぬ人から好きと言われて、菅原さんはどう思ったんですか?

菅原:なんか、そういうこと結構多いんですよ(笑)。「陰ながら大ファンです」とかってよく芸能人の人からもよく言われる。公言しないのは“自分だけのものにしておきたい”かららしいんだけど。本当はもっと言ってほしい。あとから言われたって、もうやってないんだから(笑)。だからこそ、ちゃんと「好きだ」って言ってくれたoronoの言葉は嬉しかったですね。ラジオにも呼んでくれたし、前のSuperorganismのツアーは、め組も一緒に回ったりして、すごく楽しかった。

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貧乏アーティストを蹴り出さない、
伊勢丹の「懐の深さ」

―― 今回、oronoさんはReStyleの春夏コレクションのシーズンヴィジュアルというプロジェクトに対して、どんなアプローチで臨まれたんでしょうか?

orono:最初は絵を描いてほしいみたいな話だったんですけど、自分が「これもやれますよ!」みたいにアイディアをたくさん出してったので、どんどんやることが膨らんでいったんですよね。メインのお仕事としては、シーズンヴィジュアルのクリエイティブ・ディレクションを全部担当して、写真を撮ったってことになるんだと思います。

菅原:ああ、そうだったんだ。フォトグラファー・oronoが世に出るのは初めてじゃない?

orono:ちゃんと自分の写真を表に出すのは初めてかも。でも、さっきも言ったように今回のプロジェクトはすごく自由にやらせてもらってて。洋服も「映画『To Wong Foo, Thanks for Everything! Julie Newmar(3人のエンジェル)』みたいなイメージがいいです!」みたいなことを言いながら、スタイリストさんと相談しながら選んで。モデルも自分の好きな人とやってよかったので、全員自分の友達を呼びました。プラス、Zineを作ったり、Merchも作ったりして……。

菅原:すごいね、色々やってるんだね(笑)。そういう全部自分で手がけるみたいなことやったことあるの?

orono:ここまで一人でやったことはなかったかもね。だから、めちゃくちゃ新しいタイプの仕事だった。

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―― ReStyleは編集ショップということもあり、伊勢丹の中でも“自由”をコンセプトに掲げたショップなわけですが、そうしたコンセプトは意識しましたか?

orono:「何これ、おもろいじゃん!」って伊勢丹に来たお客さんに思ってもらえるようなものが作りたいとは思ってたかな。でも、最初に打ち合わせでいろいろお店自体のコンセプトのキーワードを見せてもらったりしたんですけど……。このプロジェクトに限らず、クライアント側からの要望とかイメージとかディレクションって基本的には“無視”するようにしてるんです(笑)。

菅原:流石に無視はしてないでしょ(笑)。

orono:いや、でも、絵画でも音楽でも最終的には観る人や聴く人が自由に意味づけをするじゃん。だから、コンセプトを意識しようがしまいが、結局のところ、自分が思うように自由にやるしかない。そのやり方が、このReStyleのお店としてのアプローチとも重なるところがあるんじゃないかな、とは思ってた。

菅原:めちゃくちゃいいこと言うね(笑)。

―― 菅原さんは、昨年、ご自身のバンド・め組で伊勢丹新宿出店90周年のプロジェクト「新宿90スナップ」のコラボ・ソング「咲きたい」を書き下ろしていますよね。

orono:でも、菅原の曲、そもそも「咲きたい」ってタイトルじゃなくて、最初は「冴えない」だったんでしょ(笑)?

菅原:そうそう(笑)。ずっと「冴えない」って歌ってるリリックだから。でも、サウンドは明るいし、メロディーも肯定的な響きがあるから、うまくやればイケるかもと思って。あと、原曲でも最後に「咲きたいよな」って一節は歌ってたんですよね。そこから伊勢丹のプロジェクトのことも踏まえて、調整していったって感じです。

orono:歌詞の<最愛なる この街で/咲きたいよな>っていうフレーズはどういう意味を込めて書いたの?

菅原:なんだろうな、自分の中で「咲く」っていうのは「自分に納得する」みたいな意味なんだよね。「成功する」とか「うまくやる」みたいな意味合いも含まれているとは思うだけど、それよりも自分自身で自分のやってることに確信を得るみたいな気持ちに近い。

orono:うーん、なるほどね。いいね。

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―― 伊勢丹とクリエイティブを一緒に作ると言うプロセスを実際に一緒にやってみていかがでしたか?

菅原:俺はすごく楽しかったです。自分たちの作るものをキラキラしたものとしてみてくれている感じが伝わってきて、やりやすかったですね。基本的にやることは全部肯定してくれて、助かりました。

orono:そうなんだよね、そこが伊勢丹のスゴいところだと思う。変なことをやりたいって言っても、オープンな態度でいてくれる。伊勢丹から仕事の話が来た時に一番喜んでくれたのは、両親なんですよ。母親はすごくファッション好きで、伊勢丹が一味違う百貨店だっていうことを繰り返し言ってたし、親父も「お前すげえじゃん」って褒めてくれたりして。仕事をしていく中でも、伊勢丹はエッジーなことをやろうとしていて、面白い場所なんだな、ってことが認識できた感じがありますね。

菅原:実際、伊勢丹を歩いててもさ「お呼びじゃ無い」って感じしないじゃん。懐、深いよね。俺ら、二人とも千葉と埼玉の出身で地元のホームセンターにばっかり普段行っているような奴らなのに。

orono:そうなんだよ。俺たちみたいな田舎者のプア(貧乏)・アーティストでも、蹴り出されたりしない(笑)。「ここにいていいよ、お前。遊びにおいで」みたいな感じがして、すごく好きです。

「食べ物」がインスピレーション源

―― 全然話が変わるんですけど、お二人は、新宿で遊んだりはしますか?

orono:この間、二人の共通の友人の鈴木さんっていうライターの人も交えて、3人で二丁目に行って、日本のゲイバーを初めて体験した。

菅原:ああ、そうだったよね。どう思った?

orono:経験としては良かったし、そこにいた人たちは最高の人たちだった。でも、色々質問してくれたんだけど、俺はむしろそこにいる人たちの話が聞きたいって思ったな。すごく面白い人たちだったから。なんか無理して色々聞いてくれてるように感じちゃって。俺が考えすぎなんだと思うけど(笑)。「Bjorkみたいな音楽やってるの?」とかさ。そんなに頑張らなくていいのに、って思ったかな。

菅原:すごく気のあった人もいたよね。俺と同じ地元出身の人でさ……気だるそうな雰囲気の。

orono:ああ、彼女ね! 彼女は特に素敵だった。全然頑張ってなくて。めちゃくちゃタバコ吸いに行ってたし(笑)。彼女の話を喫茶店でじっくり聞いてみたい。

―― 他はどんなことして遊んでるんですか?

菅原:oronoの実家行って、BBQしたり、泊まったり。前回、泊まりに行った時は、俺のいびきがすごかったらしくて、oronoの妹弟に「勘弁してくれ」って怒られた(笑)。

orono:基本的にはバンドマンとしての愚痴を一緒にいる時は話してるよね。バンドというものの面白さと、めんどくささ。あとは、音楽業界がいかにダメかというディス。すごく盛り上がる(笑)。一人っ子の金持ちはヤバいよな、とか。

菅原:ただの、偏見ですね(笑)。でも愚痴を話すと、やっぱりお互いの考えの似ている部分とかがわかるよね。

orono:そうだね。あとはミックステープを作りたいよね、みたいな話もしてるよね。2曲ずつ持ち寄って作ろうと思ってるんだけど、まだ何もやっていない(笑)。

菅原:二人とも基本的に怠け者だから、誰かにケツを叩かれないとダメだね(笑)。

―― 最近、二人の中でブームなものってあります?

菅原:お笑い芸人のレインボーがすごく好きです。

orono:あぁ、レインボーね。最高だよね。すごく身近なことについてのコントを作るんだよね。俺は、同棲して10年くらい経つ、口数が少ないけど、お互いのことが大好きだって伝わってくるカップルのコントとか好き!

菅原:俺は「モンスターペアレント」ってコントが好き。

orono:ああ、いいよね……。なんかレインボーのコントは落ち着くんだよ。だから、いつも寝る前にYouTubeで再生して観てる。あと、俺と菅原は「食べ物」がインスピレーション源ってことが共通しているところだと思う。

菅原:それは確かにそうかも。俺もoronoも料理するの好きだしね。料理してる時って、軽く瞑想にも似てる状態になるんだよな。

orono:わかる。あとさ、この間、鈴木さんの家に泊まりに行った時、夜中の3時くらいにコンビニに行ったじゃん? その時に、コンビニ中を歩き回りながら「これはうまい」「これはそんなにだった」みたいな話しをしながら商品を30分ぐらいかけて選んだよね。

菅原:クソ迷惑だったと思うけど、楽しかった(笑)。食べ物には俺らこだわってるよね。あと、二人とも“かつや”が大好きだよね。

orono:かつやは本当にうまい。

菅原:かつやがうまい、ってことだけで歌詞が書けそうなぐらい、うまいね。

それが、MyStyle

―― お話を伺っていて、お二人は「正直であること」や「リアルであること」をものづくりをする上で大切にされていると思ったんですが、それが特に大事な理由って何なんでしょうか?

orono:自分にとって身近なものじゃ無いと、魂に響かないんですよね。

菅原:そうだね。

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―― ただ「今日、爪が2ミリ伸びました」みたいなことをただ歌詞に書くだけではアートにはならないわけで。どんな魔法をかけてるのかな、ってのは気になるところなんですよ。

orono:いや、でも、本当に正直に書いたものは、全然共感できない内容でも伝わるものはあると思う。例えば、Lana Del Reyの「Venice Bitch」って曲に<You write, I tour, we make it work>って歌詞があるけど、実際に聴く人でワールドツアーに出たことある人なんか数少ないわけで。でも、この歌詞に共感している人たちは多い。つまりそれって、Lanaが心の底から書いているからその歌詞に込めた想いが多くの人に伝わっているんだと思うんだよね。

菅原:そもそも俺もoronoも、一生懸命楽器を練習して、ミュージシャンとしてご飯食べていくんだぞってマインドでは正直ないと思うんですよ。そういう奴らにできることって、私的な部分、正直な部分をどう曲に出せるかっていうことしかなくて。だから、自ずと「正直」で「リアル」でいなければならないというか。

―― 正直になることって、すごく難しいじゃ無いですか? どうやったら正直になれるんですかね?

菅原:音楽は正直ですけど、普段の生活は、俺はもう仮面だらけですよ……。割り切ってるし、付き合う人も選んでるし……。

orono:(笑)。なんかそれだけ聞くと、めちゃくちゃ嫌なヤツっぽいけど、そういうことじゃなくて、感情をセーブしてるってことでしょ?

菅原:そうそう、あんまり他人に深入りしすぎないようにしてるってこと。

orono:感情を入れすぎると、自分が傷ついちゃうからね。

菅原:そうそう。そもそも、音楽を作るってこと自体も、不特定多数の人に向けて、正直な自分を晒しているっていうよりは、むしろ、自分自身に対して正直であろうとしているってことなんですよ。

orono:超共感するね。

菅原:でしょ? でも、それを世間に発表しているから、自分はかなりの変態野郎だとは思うんですけどね。しかも、それを人前で演奏して脳汁だらだらのびしょびしょになって、変顔で笑ってる……そういう奇妙な状態が好きだから、今も音楽活動を続けてるんだと思います。

orono:全然、俺は他の人のことを考えて作ってないから。この伊勢丹のプロジェクトだって、そんなに考えてやってない。でも、一番面白いものを作れると思ってる。楽しみながら、作ってるだけで、メッセージを込めたりとか、そういうの正直言ってまったく無いんだよね(笑)。

菅原:(笑)

orono:それが、My Style!

菅原:ReStyleとかけたの(笑)? 謎の締めだね。

orono:ふふふ、ありがとうございました。

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orono
ロンドンを拠点とする多国籍バンド「Superorganism」のフロントマン。2017年、当時17歳で結成したバンドがデビューすると欧米の著名なミュージシャンから注目を集める。コーチェラなど世界的なフェスに出演、2度の世界ツアーを行う。音楽だけでなく、アートワーク、執筆も手がけるマルチ・アーティスト。

菅原達也
5人組ポップロックバンド「め組」のヴォーカル&ギター。め組として「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」などの大型フェスへ多数出演するほか、声優や映像監督など、多彩な才能を発揮する。彼の生み出す個性豊かな楽曲と歌詞、一度観ると忘れられない熱量の高いライブパフォーマンスが評判を呼び、注目を集めている。ミニアルバム『七変化』が発売中。

interview & text : Jin Otabe

※画像は一部イメージです。
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