<叶 匠壽庵 あもや>今もあんを手炊きする、創業者が考案した 稀有な棹菓子、「あも」。

2024.3.1 UP

全国にその名を知られる和菓子の名店<叶 匠壽庵>の創業は1958年。江戸時代から続く老舗も珍しくない中、戦後に誕生したこの和菓子店の発展は、創業者が考案した稀有な棹菓子、「あも」の歩みとともにあった。

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39歳で和菓子の世界へ飛び込んだ創業者

和菓子の名店として、全国に広く知られる<叶 匠壽庵>だが、意外にも創業は1958年。戦後のことである。その礎を築いたのは、異色の和菓子職人であった創業者の芝田清次。18歳で日中戦争に召集された清次は、戦地で左眼を失う大きなケガを負うも九死に一生を得て帰還。警察官を経て、滋賀・大津市役所の観光課に勤務する。これが契機となった。滋賀を世の中に打ち出したいと思っても、肝心の名物が少ない。滋賀を訪れた観光客も、お土産は京都で買って帰る。自分が菓子を作ってそれを変えたいと、まったくの素人であった和菓子の世界へ飛び込んだのだ。39歳の時である。

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創業者の芝田清次は、京都・祇園生まれ。アイデアマンでもあったという。

 

知り合いの職人の元で、一から和菓子作りを学んだ清次は、家族の反対を押し切り、自宅を工房にして菓子商を開業する。そして、職人たちとともに、滋賀にゆかりのある菓子を次々と考案していく。いまも続く「閼伽井(あかい)」はそのひとつ。長等総本店のほど近くにある三井寺の井戸、閼伽井屋にちなんだ羽二重餅の菓子である。

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創業の地。現在、長等総本店として営まれている場所に、清次の自宅があった。

初代が菓銘から包装紙までを手がけた、「あも」が誕生。

創業から13年、菓銘から包みに至るまで、清次がすべてを手がけて世に出したのが、「あも」である。菓銘は、餅を意味する昔の女房言葉から。生粋の和菓子職人ではなかったからこそ、常識に捉われることなく、菓子を作ることができたのだろう。餅の中に餡が入るのではなく、餡の中に餅が入った棹菓子は、当時としてはとても珍しいもの。小豆が口中でほどける小豆餡と、とろけるような羽二重餅がひとつになったこの菓子は、棹物とは思えないみずみずしい味わいで、評判となる。この「あも」とともに、ブランドは飛躍的に成長し、2012年には、季節限定品が初めて登場。いまや押しも押される代表銘菓となっている。

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清次のアイデアで生まれた包装紙。裏返すと、封筒の型紙がプリントしてあり、切り取ると封筒になる。

手間こそが「あも」を大切に育てていく

菓子づくりの原点は「農」にあるとの考えから、1985年に大津の里山にオープンしたのが、寿長生の郷(すないのさと)である。63,000坪にも及ぶ広大な敷地では、菓子の原料を育てるとともに、菓子づくりもすべて担う。いまや、「あも」を作る数は膨大になっているが、“手間が「あも」を大切に育てていく”との思いから、餡は昔ながらの手炊きである。小豆は、大粒で皮が薄く、口当たりよく仕上がる丹波大納言小豆。中でも、人の目と手で選り分けられたものだけを使う。

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兵庫県丹波市で収穫される最高品質の丹波大納言。

 

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熟練の職人が目と手で選別した高品質のものだけが、寿長生の郷に届く。

そこに、薄い皮が破れないよう火を入れ、ひと晩じっくりと蜜漬け。翌日、職人が小豆の腹が割れない、ギリギリのやわらかさに炊きあげる。

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丹波大納言小豆の薄い皮が破れないよう、熱の入り具合を見極める。

 

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職人が、小豆の腹が割れない、ギリギリのやわらかさに炊きあげる。

寒天でとどめることでほどけるような食感に仕上げた餡を型に流し込み、そこへやわらかな羽二重餅を重ねる。これもまた手作業である。今日も職人が6升の銅釜の前でへらを持ち、“手間があもを育てる”の思いで、餡を炊いている。

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あも(1本)1,296円

1971年、初代が考案した、そのままの味と製法でいまに続く代表銘菓。小豆は、大粒で皮が薄い、兵庫県丹波氏の丹波大納言のみを使用。薄い皮が破れないようじっくり蒸らした小豆を蜜漬けし、腹が割れないギリギリの加減で炊きあげる。どれだけ作る数は増えても、いまも熟練の職人がへらで手炊きをして作る餡は、棹物とは思えないみずみずしさ。食べると、小豆の粒がほどけ、とろけるような羽二重餅とひとつになるところが醍醐味だ。いまも封筒に再利用できる初代考案の包装紙で包むと進物にもぴったり。

あもから生まれた新しいあもの食べ方

2019年に誕生したのが、「あも」をはさんで楽しむ最中種、あも歌留多だ。

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東京限定 あも歌留多(最中種)(2枚1組×5セット)540円

※あもは別売。

地元、滋賀県産のもち米で作ったサクサクと軽い最中種と、やわらかでみずみずしい「あも」が、口の中でひとつになり、そのまま食べるのとはまた違う味わいに。大津が百人一首ゆかりの地とあって、百人一首の絵柄が定番だが、東京限定で浮世絵の絵柄も登場。

 

羽二重餅の中に刻み栗を混ぜ、小豆餡で包んだあも。

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あも(栗)(1本)1,404円

栗を香ばしく焙煎し、フランス産ゲランドの塩をまぶすことで、栗の風味がより引き立ち、小豆餡がほどけた後の塩の余韻も印象に残る。2018年に季節限定品として新登場したものだが、<あもや>でのみ、通年販売している。

 

<あもや>で限定販売される、あも以外の菓子もある。 

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石餅(6個入)756円

かつて大津・石山寺の門前で親しまれていた「石餅」を復活させた菓子。石のように固い絆が結ばれるようにと祈って食べたという故事にちなんで、滋賀県産の羽二重もち粉で作った白餅と蓬餅を捻じり合わせている。そこに、石山寺にある岩盤、硅灰石に見立てた小豆餡が、餅が見えないほど力強くのる。

 

2022年9月、ブランドを大きく成長させた「あも」の専門店が伊勢丹新宿店にオープンした。つぶ餡、こし餡はじめ、5種類もの「あも」が並ぶのは、全国でも「叶 匠壽庵 あもや」だけである。

 

 

※原材料の収穫等の事情により、内容の変更が生じる場合がございます。

 

Text:Yuko Saito

Photo:Yuya Wada

 

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