2024.3.1 UP
まずは、その皮の厚みにびっくり。齧りつくと、今度はふわふわの食感にびっくり。進化系どらやき「ふわふわ わぬき」は、<なか又>が生んだ新しい和菓子だ。代表の村瀬隆明さんは元々グラフィックデザイナーで、どらやきの皮を「プラットフォーム」と捉えている。
「ソフトウェア(挟むもの)を変えるのもいいけれど、プラットフォームそのものを変えられないか」
そう考えたのが、この商品のはじまり。
前橋中央通り商店街にある本店。「食べるためだけではなく、人と人をつなぐための菓子」をテーマに“和む菓子”を作る。
さらに、「ふわふわのどらやきがあったらおいしいだろうな」とも考えた。アイデアを練る段階では、あえて「和菓子の素人」でいることを心がけ、定義や既成概念を頭から追い出すという。「この商品は従来の製法で作れるのか、作れないのか。そういうことも気にしません。純粋に食べたいものを考えます」と村瀬さん。それを実現に近づけるのは、村瀬さんとは中学・高校時代の同級生で、名古屋の和菓子店<一朶>の店主・伊藤誠敏さんだ。
<なか又>の創業者で、デザインファーム<ナニラニ>の代表・村瀬隆明さん。
タイプの違う二人。一人はまったくの異業種からやって来た、消費者の目線を持つ村瀬さん。もう一人は、和菓子屋に生まれ、自身も和菓子のプロである伊藤さん。<なか又>の商品開発は、常にこのタッグで進められる。別の視点からそれぞれブラッシュアップすることで、革新的な商品が生まれるのだという。
<一朶>の店主・伊藤誠敏さん。生まれは、尾張徳川家御用達<桔梗屋又兵衛>の流れを汲む和菓子屋<美濃忠>。
工房では、製造工程のほとんどが手作業。クオリティを保つためにいくつか新しい機器を取り入れてはいるが、オートメーション化はせず、昔ながらの職人技も重んじている。「ふわふわ わぬき」のベースの生地を泡立てるのも、もちろん手作業。「意外と力がいる仕事が多いんです」と村瀬さんは言う。
「ふわふわ わぬき」の製造風景。ちょっとした力加減も食感を左右するので、慎重に行われる。
製造工程の中でも特に重要なところは、やはり人の手が必要。
小麦粉は群馬県産をメインに、数種類をミックスして使用。村瀬さんが思い描いた「ふわふわのどらやき」は、ベースの生地に泡立てたメレンゲを加えることで実現できた。ヘラで混ぜ合わせながら、手に伝わってくる感触で生地の状態を確認。ふわふわの食感を叶えるためには、この工程が不可欠なのだ。
ベースの生地とメレンゲを混ぜ合わせているところ。混ぜすぎてもゆるすぎてもいけない。
混ぜ合わせた生地は絞り袋に入れ、銅板に一つずつ落としていく。そして表面にはしっかり焼き目を付けながら、特注の蓋をしてふっくら蒸し焼きにするのがポイントだ。片面ずつこんがり焼き上げ、ひっくり返して両面焼きに。ちなみに焼き立てはよりふわっふわで、「賞味期限2分の奇跡」と称されているとか。
口溶けがよくなるように、特注の蓋を被せて蒸し焼き。
焼き目をチェックしながらひっくり返し、両面ともこんがりキツネ色に。
「ふわふわ わぬき」は、定番の「あんクリーム」や「ミルククリーム」、フルーツを使った季節限定の商品など、いくつかバリエーションがあるのもうれしい。なかでも、自家製の粒餡と上質な「カルピス(株)バター」を挟んだ「特撰あんバター」には、伊勢丹新宿店でしかお目にかかれない。豆の形を残しつつ瑞々しく仕上げた粒餡は、洋風の生地にぴったり。余韻として残る粒餡の風味も、気持ちを和ませてくれる。
ふわふわ わぬき 特撰あんバター(1個)551円
ふわふわの皮とクリーミーな「カルピス(株)バター」、自家製粒餡の異なる口溶けがたまらない。
粒餡には、厳選した北海道十勝産の小豆を使用。
「あんクリーム」は、本店でも人気がある「ふわふわ わぬき」の定番。自家製の粒餡とホイップクリームを合わせた、あんクリームをサンドしている。クリームはコクがあり、それでいて軽い食感。和と洋、両方の特長を併せ持ち、あんこが苦手な人でも楽しめると評判だ。
前橋どらやき ふわふわ わぬき あんクリーム(1個)361円
小豆の香りを纏ったふわふわのクリームは、ふわふわの皮と相性がいい。
一方、手土産としておすすめなのは、賞味期限約10日間と日持ちする「前橋新銘菓 わもち」。生地に餅粉を配合したもちもち食感が癖になる。「つぶあん」「抹茶」「カスタード」の3種類あり、食べ比べも楽しい。家族や友人と一緒に食べれば、きっと会話が盛り上がるだろう。
前橋新銘菓 わもち(3種6個セット)1,590円
群馬県前橋市の市章「輪貫」と、「和をもつ」という想いから「わもち」と命名。
どれも創作和菓子の可能性を感じられる力作ばかり。ひと口目から、これがただ奇をてらったものではないと確信できる。今までなかったような食感なのに、わくわくすると同時になぜかホッとする。伝統と革新がぶつかり合い、試行錯誤の末に実を結んだ品々をぜひ体験してみてほしい。
Text : Maiko Shindo
Photo : Yu Nakaniwa,Yuya Wada