2024.3.1 UP
骨董品店や古美術店が軒を連ねる京都中心部の寺町通を二条通から北へ上がると、<一保堂茶舖>本店の大きな暖簾に目を奪われる。
京都の寺町通りに面した<一保堂茶舖>の本店。
創業は1717年。当時は「近江屋」と名乗って雑貨も扱っていたが、1846年に山階宮(やましなのみや)から「茶、一つを保つように」と一保堂の屋号を賜って、現在の七代目当主まで茶商一筋。京都近郊で栽培された茶葉を厳選して仕入れ、抹茶、玉露、煎茶、番茶の4種、約30銘柄の味や香りを独自のブレンドで仕立て上げている。
手入れの行き届いた畑で丁寧に栽培された茶葉を使用している。
時代とともに人々の生活様式が変化し、家庭でお茶を淹れて飲む習慣が薄れている昨今だが、<一保堂茶舖>は茶商としての信念を具現化してきた。
2003年には、お湯さえ用意すれば誰でも気軽に抹茶を楽しめる抹茶のスターターキット「はじめの一保堂」を発売。抹茶の点て方や、茶碗や茶荃(ちゃせん)の扱い方を、日本語と英語で説明する栞を付け、日本茶ファンの裾野を広げてきた。
発売から20年目を迎えた2023年には、装いと内容を一新。モダンな空間にも馴染むシンプルなデザインを極め、一回分の抹茶を個装したスティックを10回分セットした。抹茶は酸化しやすく、封を切った瞬間から鮮度が落ちていってしまう。豊かな風味を少しでも長く味わってもらえるようにブラッシュアップしたのである。
はじめの一保堂(1セット)7,700円
茶葉の品質に自信を持ちながらも、お茶をおいしく味わってもらうための工夫を追求し続けるのは何故なのか。その答えは、茶葉という商品は、どんなに上質であれ、高級であれ、店頭に並んでいる時点では未完成な素材に過ぎない。客の手に渡り、その手で淹れられることによって初めて完成する、と考えているから。
ゆえに、「はじめの一保堂」の栞にまとめられている抹茶の点て方は、お茶の嗜みがないひとでもわかるよう単純明快な3つのステップで完結している。小難しい茶道用語が使われることもないので、お茶の世界へ初めの一歩を踏み出すのに最適だ。
スティック1本分と茶碗の1/3ほどのお湯を入れ、茶荃を前後に動かしながら手早く混ぜれば、薄茶が完成する。
ユニークなのは、抹茶スティック10回分に対して、簡単なアレンジレシピが10通り用意されているところ。自分好みの飲み方を見つけたり、その日の気分で飲み方を変えたりすることができるから、抹茶の楽しみ方も広がる。このようにお茶のある暮らしを提案する姿勢にも、お茶は客が淹れてこそ価値があるという考えが表れている。
30mlのお湯でやや濃い目に点ててカップに注げば、エスプレッソ感覚で楽しめる。
60mlの冷水で点ててお好みの量のミルクや氷と合わせれば、アイス抹茶ラテに。
<一保堂茶舖>の発信は止まらない。2023年にオープンした伊勢丹新宿店の常設店舗には、関東地方の百貨店では初のテイクアウトコーナーも設置。目の前で点てた抹茶や淹れたての番茶をオリジナルのグラスやボトルに入れて持ち帰ることができる。
右 テイクアウト・抹茶(オリジナルグラス付き)(80ml/1杯)1,760円
左 テイクアウト・いり番茶 (200ml/1本)864円 ※ともに伊勢丹新宿店限定
また、家に急須がなくても本格的なお茶を気軽に味わえるようにドリップタイプの玉露や煎茶、ほうじ茶もラインナップ。個包装なので、豊かな風味を楽しめる。
ドリップティーバッグ ほうじ茶(5g×6袋)1,296円
奥深き日本茶の世界にもっと触れてみたいなら、ぜひ「雲門の昔」を。<一保堂茶舖>が扱う抹茶の中で最も上等な品で、特に甘味が強く、コクを感じさせる深い味わい。濃茶にも薄茶にもおすすめだ。
雲門の昔(20g)2,160円
バニラアイスの上にかけて抹茶アイスとしていただいてもおいしい!
上質な煎茶をじっくり楽しみたければ、<一保堂茶舖>が扱う煎茶のラインナップにおいて最上級の「嘉木(かぼく)」をぜひ。華やかな香りとじんわり広がるうまみにうっとりすること必至だ。
嘉木(90g)3,240円
このほかにも伊勢丹新宿店の店頭にはお茶はもちろん道具やお菓子などが揃っており、お茶をテーマにした小さなセレクトショップさながら。お茶に詳しいスタッフに色々と話を聞きながら、自分好みの日本茶を見つけてみてはいかがだろうか。
Text : Mio Amari
Photo :Yuko Moriyama,Yuya Wada