<ユーハイム・ディー・マイスター>職人の 手作りがモットー、愛情と歴史の詰まった1缶。

2024.3.1 UP

ドイツのお茶菓子をルーツとする「テーゲベック」をはじめ、ドイツ人夫妻が日本に伝えた菓子を100年以上作り続けてきた<ユーハイム>。その歴史や製法を紐解くと、夫妻が大切にしたものと、それを継承する人々の思いが伝わる。

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国境を超えて生きた創業者・ユーハイム夫妻の思い

<ユーハイム>の歴史を知ると、戦争がもたらした困難と、それに立ち向かって生きた人々の姿に感動を覚えずにはいられない。列強諸国がアジアの権益獲得で争いを繰り広げていた20世紀初頭、創始者のドイツ人のカール・ユーハイム氏は菓子職人として独立し、中国の山東半島で1909年より菓子店を経営し始め、その地で妻エリーゼと結婚。しかし、1915年には捕虜として日本にやって来るという数奇な運命をたどる。1919年には、収容所のあった広島で開催された展覧会で、日本で初めてのバウムクーヘンも焼いた。

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右:カール・ユーハイム氏、左・その妻エリーゼ

どんな状況にあっても心を強く持ち続けたユーハイム夫妻は、その後、日本永住を決意し、1922年に横浜で開業。関東大震災後に難を逃れ、1923年に神戸で開業した。現在の<ユーハイム>や、そこから誕生した<ユーハイム・ディー・マイスター>などのグループブランドは、そんな創業者夫妻の思いを継ぎ、職人の手で自然な味わいの菓子作りを追求している。

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<ユーハイム>の工場敷地内に1972年に建てられたユーハイム夫妻の像

ドイツの伝統製法を受け継ぎ、職人が手作りする「テーゲベック」。

ドイツ語で「テー=お茶」「ゲベック=焼き菓子」を意味する「テーゲベック」は、<ユーハイム>神戸1号店オープンの1923年には既に店に並んでいたという。昭和30年代のカタログには「ビスケット」として掲載され、昭和55年頃から「テーゲベック」の名前で販売されてきた。

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テーゲベック(1缶/205g入)2,592円

ドイツのお茶菓子をルーツに、良質な原材料と自然な味わいにこだわり、1つずつ手仕事で作られるビスケット類12種の詰め合わせ。2023年、100周年を記念して、缶も立体的なお菓子柄が可愛らしいデザインにリニューアルした。

現在「テーゲベック」は、東海道新幹線三河安城駅(愛知県)からほど近い<ユーハイム>の中央工場で作られている。繁忙期には約700人が在籍し、工場全体で約500人もが働いている大きな工場で、内部は衛生・品質管理が行き届いている。しかし意外にも「テーゲベック」の製造工程では手作業の部分がかなり多く、1日に仕上げられる製造個数はどうしても限られてしまうというのだ。量産することなく丁寧に作り続けるのは、創業者夫妻が、ドイツの家庭で家族のために作られてきたような、愛情に満ちたお菓子を作り届けたい、と願っていたからだという。

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かつては「BISCUITS(ビスケット)」の名で販売されていた「テーゲベック」。

材料も上質なものにこだわり、たとえばバターも、チャーン式という伝統製法で手間をかけて作られた国産の特注品を使用している。

さらに、1960年代末からは、「自然に逆らわない」というドイツ菓子の精神に立ち返って進めてきた“食品添加物不使用”にもこだわってきた。

 

「テーゲベック」の中でもひときわ目を引く形の「プレッツェル」は、チョコレートとココア入りのビスケット生地と、プレーンのパイ生地を重ねて作られるのが特徴だ。これをいったん機械に通して細い棒状にねじり、さらに人の手で左右を交差させて成形し、焼き上げる。「プレッツェル」というドイツの代表的なパンと同じ形で、お菓子の名もそれに由来している。ねじった輪のような形をしたそのパンは、両手を胸の前で交差させて祈るキリスト教徒の姿を表すとも言われている。生地に混ぜるチョコレートも、乳化剤として使われる大豆由来のレシチン不使用のものをメーカーと共に長年かけて開発するなど、「添加物不使用」実現に向けて一歩ずつ歩んできた。

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「プレッツェル」は2枚の生地を重ねることで異なる食感と味を生み出す

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棒状にねじられた生地を、手早く左右をひねり交差させて繋ぎ合わせる

“牛の目”の意味を持つドイツの伝統菓子「オクセンアウゲン」が原形の「ベリージャム」は、クランベリージュースとラズベリーピューレ、少量の生クリームでペクチンを添加しない自家製ジャムを炊き、あらかじめ焼いてある生地の中央に充填。着色料も一切使わない「テーゲベック」の中で、自然由来の鮮やかな赤い色が華を添える品だ。

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生地の中央の凹んだ部分に人の手でベリージャムを絞り入れる

「ココナッツ」は、卵白に砂糖を合わせたものと、ココナッツファインとを練り合わせ、小麦でんぷんも少量加えた生地を軽く炊き、これを指でつまみ三角錐のような形にして焼き上げる。機械によって一定の量が分割されて出てくるため、人の目と手で二等分して成形しているそうだ。生地の具合というのは、厳密には季節や気温、湿度などで微妙に変わり得るものであり、その押し固め具合も、決まった数値化は難しい、職人の感覚のなせる技と言えるだろう。

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ぎゅっと押し固められる「ココナッツ」

「アーモンドマカロン」は、卵白と砂糖を混ぜ、そこにやや細かいサイズに割られたアーモンドとアーモンドパウダーを合わせて約100℃まで加熱し、先に焼いておいた土台の生地の上にスプーンで盛って再度焼く。これが冷めすぎるとうまく焼けないので、熱いうちに手早く行わなくてはならない。大きな工場であれば、このような作業も自動絞り機で行うことが多いが、1つ1つ手作業で盛るというのは驚きだ。これによって、カリッとしたアーモンドクロッカンのような部分がふっくらとした丸みのある形で上にのせられ、小さくてもしっかりした食べ応えが感じられる。

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炊き上げたアーモンド生地をスプーンで土台の生地の上に盛り付ける

「パルミエ」は、低水分の国産バターを練り込み、薄く延ばしてグラニュー糖を振った練りパイ生地の上面に、切れない程度に筋目をつける。卵を薄く塗って生地を貼り合わせつつ、横から見るとハートのような形に折りたたむ。これをスライスして断面が上向きになるように並べ、トンネル状のオーブンで焼き上げる。フランスではヤシの葉の形にたとえて「パルミエ」と呼ばれるが、ドイツでは幸せのシンボルとされる動物、「豚」の耳の形に見立てられているお菓子だ。

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折りたたまれた「パルミエ」の生地

最後に缶に詰める工程は、焼き上がった品を破損することのないよう、細心の注意を要する。1つの詰め合わせラインには19人の担当者がずらりと並び、そのラインが3本ある。流れ作業で1種類ずつ、素早く正確に詰めていく様子は圧巻だ。

最終的には内容量のg数を揃えなくてはならないため、途中で重さを量る箇所が設けられている。もし重さが足りない場合には、調整用に加えるビスケットの種類も決まっているそうだ。

さらに、30分に1度は、作業着を再度きれいにするための粘着ローラーがラインに乗って流れてくる。切れ端が混入したとしてもわかりやすい青色の手袋も、時間を決めて、万が一の欠損などが無いか確認。これにより、細かい時間帯ごとに問題がなかったことを把握できる。何かあった時に遡って確認できるよう、映像でも記録しているという徹底ぶりがすごい。

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ビスケット類を1種類ずつ流れ作業で缶に詰める

創業者の哲学を受け継ぐ「純正自然」なお菓子たち。

1969年以降、「自然に逆らわない」というドイツ菓子の精神に立ち返り、製造工程における食品添加物不使用の実現に向けても歩んできた<ユーハイム>。アップルプレザーブ、あんずジャム、生クリームなど、お菓子に使うパーツや原材料を1つ1つ見直し、添加物を使わないことでおいしくならなければ意味が無いということを大前提として追求してきた。

2020年3月には、ブランドを代表する品である「バウムクーヘン」製造時の食品添加物不使用を実現。ついに「純正自然」の菓子作りを宣言した。

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まだドイツ菓子が珍しい時代、「バウムクーヘン」は「ピラミッドケーキ」という名前で販売されたこともあった

「バウムクーヘン」の周りのコーティングに使われているホワイトチョコレートも、大豆由来のレシチン不使用のオリジナル品としてチョコレートメーカーと共に作り上げたものだ。

現在、すべての焼菓子において、原材料名に食品添加物を表す「/」以降が無いということを意味する「/0(スラッシュゼロ)」を提唱している。

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バウムクーヘン(1個)2,160円

ドイツの伝統に沿って膨張剤を使わず、外側は乳化剤不使用のオリジナルのホワイトチョコレートコーチング

2021年10月に発売された「アーモンド&マカダミアショコラサブレ」は、ほんのり塩味の効いたナッツ入りサブレを濃厚なチョコレートで包んだお菓子。「バウムクーヘン」に続き、メーカーの協力のもとに完成した乳化剤や香料不使用のオリジナルチョコレートを使った品で、「マカダミア」にはホワイトチョコレート。「アーモンド」にはカカオ分52%のスウィートチョコレートを使用。ガーナ、コートジボワール産などカカオ感が強いベースビーンズを選定し、味わいのアクセントに中南⽶産のフレーバービーンズを使⽤した。

ナッツには塩⽔をまんべんなくまぶす製法を採用。技術的に難しく⼿間もかかるが、油でフライするといった製法と⽐べて雑味がなく、⾷感が「カリッ」と仕上がるのが特徴だという。

冬季限定商品として登場し、例年、ホワイトデー頃まで販売されている。

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アーモンド&マカダミアショコラサブレ(6個入)648円~

アーモンド&スウィートチョコレートの「アーモンド」と、マカダミア&ホワイトチョコレートの「マカダミア」の2種入。10個入、20個入、30個入もある

創業当初の味を大切にしつつ、さらに進化するお菓子たち。

創業当初から販売している「ユーハイムクランツ」は、以前は「フランクフルタークランツ」という名前だったが、2022年3月、ブランドの日本初出店から100周年を記念し、名前も内容もリニューアルして装い新たに登場。3枚に切った生地とふんわりバタークリームを重ね、シャリシャリ食感のアーモンドシュガーをまぶしている。

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ユーハイムクランツ(1個)1,620円

「フランクフルタークランツ(Frankfurter Kranz)」とは、「フランクフルトの王冠」という意味で、元々は、キャラメリゼしたナッツで覆われているのが伝統的なスタイルだ。カール・ユーハイム氏が、この菓子を純白のバタークリームとアーモンドシュガーをまとったケーキに作り替え、オリジナルの白い「フランクフルタークランツ」が生まれた。

 

今回は<ユーハイム>が独自に作り上げた大切なお菓子を未来につなげていくために、商品名を「ユーハイムクランツ」と変更。さらに、「アーモンドシュガー」をよりシャリシャリと歯ざわりの良いものに進化させた。

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1970年頃のリーフレットに掲載されている「ユーハイム」の「フランクフルタークランツ」

<ユーハイム>で知る人ぞ知る人気の「神戸牛のミートパイ」は、神戸での創業当時からあったという昔からの定番のミートパイを、<ユーハイム>100周年を記念してグレードアップさせたもの。フィリングは神戸牛のミンチとそのうま味をたっぷり含んだ玉ねぎと、刻んだゆで卵。神戸牛の美味しさを活かすためシンプルな味付けで仕上げた。

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神戸牛のミートパイ(1個)454円

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今回のガイド役<ユーハイム>中央工場 製造部 部長の和氣隆正さん。1996年入社。フランス留学を経て、2007年~2010年ドイツ・ハノーファーで研修し、国家資格「マイスター」資格を取得。神戸工場長などを経て現職に就任。

創業当初より約100年以上愛されてきた品々の伝統製法を守りつつ、新たな創意工夫も加えて、今の時代に求められるお菓子を作り続ける<ユーハイム>。「純正自然」実現への真摯な努力は、お客様にしっかりと伝わると共に、未来に向けて投じられた一石として、波紋を広げていくに違いない。

 

Text : Rio Hiraiwa

Photo : Yu Nakaniwa,Yuya Wada

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