2024.3.1 UP
1930年にドイツのミュンヘン郊外で創業し、今や世界中のグルメが集う高級食料品店として知られる<ケーファー>。日本には90年代初期に上陸、本場ドイツのソーセージやハムを伝える専門店として認知され、お中元やお歳暮のシーズンにも欠かせない存在となっている。
そんな日本の<ケーファー>製品は現在、本国のレシピを参照しながらも、すべて国内工場で製造されている。原料の肉は冷凍ではなく、良質な国産チルド肉を使用することで、ジューシーなベーコンや食感豊かなソーセージなど、本場の「肉らしい」味わいを表現。一方で、より日本人の食の好みに合う、日本独自の製品作りにもチャレンジしてきた。
その代表的な味のひとつが、同店の定番として愛され続ける「ダブルホワイトロース」だろう。ヨーロッパのハムというと「肉肉しさ」を感じられるボンレスハムが定番だが、日本ではなめらかな食感のロースハムが好まれる傾向がある。迫力の大判サイズで仕上げるしっとりとした食感が特徴的な「ダブルホワイトロース」は、そんなロースハム好きの日本人の味覚を見事にとらえた。
塩や香辛料などを独自に配合した調味液に、良質な国産チルド豚ロース肉を7〜10日間かけてじっくりと漬け込む。
下味をしっかりつけた肉を等分にカット。それを、写真のように2枚重ね(ダブル)にすることで大判サイズにする。
2枚重ねにした肉は、手作業で紙製のケーシングにぎゅっと詰めて成形。
肉を詰め、封をしたらハサミでカット。すべての工程が人の手を使って丁寧に行われる。
成形したハムは、専用の台車に吊り下げていく。1個につき約3kgの重さ。
まとめて加熱装置に入れる。ゆっくりと温度を上げながら、6〜7時間をかけて熱を加えていく。
「ダブルホワイトロース」のおいしさの秘密は、この大判サイズにあると関東工場・工場長の藤本博章さんはいう。「直径は、日本で販売されている一般的なロースハムの倍の大きさ。直径を大きくすることで、加熱したときに中心部の水分が失われすぎず、しっとりとした絶妙な食感に仕上げることができるんです」。
関東工場・工場長の藤本博章さん。ハム・ソーセージ・ベーコン製造技能士。本場ドイツで研修を経験し、その製法をふまえつつ日本人の味覚に合う独自の製品開発にも力を注ぐ。
出来上がったハムは丸のまま店頭へ配送。オーダーごとにカットするため、自慢のしっとり感が続く。「ハムはお好みの厚さでカットできます。どんな料理に使いたいかを伝えていただければ、おすすめの切り方をご提案することも可能。気軽に聞いていただけたらうれしいですね」と藤本工場長。クセのない味わいは、そのまま食べてワインなどに合わせるのももちろん、さっぱりと食べられるのでサラダにも使いやすい。また、ボリュームがあるのでサンドイッチに1枚挟むだけでも、満足感のある一品ができあがる。
ダブルホワイトロース(日本製/100gあたり)1,080円
もちろん、本場ドイツの味わいを再現した製品も見逃せない。日本のソーセージ製品は粗挽きのものが多いが、ヨーロッパでソーセージというと細挽きが主流だ。特にドイツのミュンヘン名物でもある白ソーセージ「ヴァイスヴルスト」は、きめ細かいふわふわの歯触りが特徴的。現地では甘いマスタードを添えて、主に朝食として食べられているという。工場では、この白ソーセージも現地のレシピに基づいて製造している。
白ソーセージの製造過程。チルド国産豚肉に、豚脂肪、塩、スパイスなどを加え、きめ細かくなるまで練りあげ、腸詰めにしていく。
加熱すると鮮やかな白色のソーセージに。作りたてがいちばんおいしく、繊細な商品なので、大量生産はしない。
ミュンヘナー ヴァイスヴルスト(日本製/280g)1,620円
食べるときはボイルして皮をむき、中身だけをいただく。適度な油分もあるので、食感はふんわりとしつつもジューシー。甘いマスタードをつけるのが本場の食べ方。
チルド肉から熟成し、スモークして作る歯応えのある本格ベーコンや、ホームパーティのごちそうに重宝するローストビーフは特に人気があるという。さらに、タイミングが合った時にしか出会えない、不定期販売の骨付きハムといったレア・アイテムは、知る人ぞ知る存在だ。
定番のベーコンもチルド国産豚バラ肉を使用し、低温で塩漬けして長期熟成したものをスモークしている。
バウホシュペック ゲコホト(日本製/100gあたり)756円
桜のチップで丹念に香りを付けたベーコン。肉らしい歯応えとスモーク風味がしっかりと感じられる仕上がりにファンが多い。
黒毛和牛ローストビーフ(ロース)(100gあたり)4,104円
黒毛和牛のサーロインを使用。真空調理でしっとり仕上げたローストビーフは、とろけるような食感。塩胡椒だけでシンプルに味付けしている。
骨付きハム(日本製/100gあたり)756円(不定期限定販売)
国産豚モモ肉を骨付きのまま熟成。本来は右写真のようなスライスハムとしてカットして販売されているが、肉が残り少なくなってくると、写真のような「骨付きハム」としてまるごと買うことができる。運良く店頭で出会えたなら、ぜひ試してみたい一品だ。
「骨付きハム」のお楽しみは、ハムだけではない。肉を削ぎ、最後に残った骨でスープの出汁を取るのが通の楽しみ方。<ケーファー>のソーセージやたっぷりの野菜と一緒に煮込んだポトフなら、熟成肉の旨みたっぷりのスープになる。
それぞれの調理法はもちろん、ドイツでの食べ方、おすすめの付け合わせなどについて、店頭でスタッフと会話をしながらショッピングを楽しむのもまた一興。本場のレシピに倣った加工肉の奥深い世界が、料理のレパートリーを広げてくれるはずだ。
Text : Mako Kobori
Photo : Mariko Tosa , Yuya Wada