2023.3.10 UP
初代・坂 角次郎の姓と名をとり、1889年に横須賀(現在の愛知県東海市)で創業した<坂角総本舖>。当時、海老がよく獲れたことから地元では海老の炙り焼きがよく食されていたが、さらに南の方では海老せんべい作りも盛んだった。そこで、角次郎氏は修業に出て海老せんべいづくりを習得。海老のあぶり焼きを進化させた。「ゆかり」の原点である。
昭和30年代の本店の様子。2階をよく見ると欄干に海老の模様がある。
1966年に誕生した海老せんべい「ゆかり」は、現在まで累計34億枚もの売り上げを突破しているヒット商品。
誕生のきっかけは1965年頃のこと。当時の社長だった三代目・坂誠氏が取引先との商談中に「これからの時代は値段が高くても、おいしいものを売らなければいけない」と話して帰宅すると、二代目が火鉢で「生せんべい」を炙り、晩酌のつまみにしていた。当時の海老せんべいと言えば、粉を多めに使ったものを一度で焼き上げるのが主流だったが、二代目は自家用として特別に、海老をたっぷり使い、食べるときにもう一度焼く生せんべいを作っていた。江戸時代の漁師が、当時たくさん取れていた海老をすり身にして焼いて食べたとされる「えびはんぺい」に通じるものである。それを見て誠氏は思った。これだ。海老たっぷりの生せんべいを焼いて売り出そう。
昭和初期「ゆかり」の製造に使われていた煎餅型。
最大のこだわりは、安全で安心な素材を選び抜き、自然本来のおいしさを生かすこと。使うのは、三河湾や瀬戸内海、パプアニューギニア島近海など、その季節に最もおいしい産地から仕入れた天然海老。氷締めや船上凍結によってとれたての鮮度を保ったまま工場に届き、原料となる。
せんべいにしたときにコクが出る体長10㎝程度の小型海老を厳選。
天然海老を使う上で大切なのは、身に含まれる水分量の見極め。季節によって変化するのは避けられないことだが、「ゆかり」のおいしさはひとつなので、職人が長年の経験値に基づいて加える水の量や温度を調整し、生地の粘度をキープするのだという。
海老の澄んだ風味を引き出すため、生地には、雑味のもとになる頭、殻、尾を丁寧に取り除いて身だけを使用。馬鈴薯粉、小麦粉、砂糖、塩などを加えて絞り出し、まずは上下の鉄板で挟み焼きにする。そして、一定の温度で7日以上乾燥させる。
伝統の技を受け継ぐ鉄板の挟み焼きで、海老の濃厚な旨みを凝縮。
乾燥させると海老の旨みがさらに凝縮する。
乾燥させて旨みが凝縮したところで、今度は遠赤外線で二度焼きに。乾燥させた生地の風味と香ばしさを引き立たせるためだ。
二度焼きでは生地の状態から焼き具合までをきちんと目視で確かめる。
こうしてできあがった「ゆかり」は、製造年月日と、賞味期限を印刷した包装フィルムに一枚ずつ入れて密封される。封を切ると、その途端にこんがりと焼けた海老の香りがぷうんと漂い、噛めばバリッと小気味良い音。口の中に旨みが充満し、海の恵みを感じさせる。
ゆかり(12枚入)1,080円
※ゆかり(24枚入)2,160円、(33枚入)3,240円、(56枚入)5,400円もあります。
装いは缶から紙箱に一新。贈るひと、贈られるひと、そして輸送エネルギーを軽減した環境にもやさしいギフトとなっている。
<坂角総本舖>にはこのほかにも天然海老のおいしさを実感できるお菓子が揃っている。これからの行楽シーズンには、ぜひ手軽につまめる食べきりパックのお菓子もチェックしていただきたい。
さくさく日記(左)海老×6袋 (右)帆立×6袋 各648円
天然海老や北海道産帆立の風味やコクをひと口で楽しめる、さくさく食感の揚げせん「さくさく日記」。ポップなドット柄とモチーフをちりばめたキュートな装いに心も弾む。
八樂(10袋)1,188円
海の幸、山の幸をふんだんに使った「八樂」。ひと口サイズのゆかり「姫ゆかり」をはじめ、瀬戸内の青のり、希少な国産黒ごま、伊勢湾の黒のり、沖縄の焼き塩、愛知県西尾の抹茶と、こだわりの素材を使った8種のせんべいが集合。小袋のデザインも上品なので、来客時のお茶請けにお出しするのもおすすめだ。
さて、<坂角総本舖>はお菓子作りだけでなく、未来に向けた新しい取り組みにも意欲的だ。2022年には鳥取大学発のベンチャー企業とタッグを組み、海老の殻に由来するキチンナノファイバーを配合したハンドクリームを発売した。
ハンドクリーム「EBIKARA MIRAI」 ※坂角総本舖の公式オンライン通販限定で販売
なぜ、ハンドクリームなのか。<坂角総本舖>は130余年の歴史を海老とともに歩んできた。海老の身だけを使って海老せんべいを作るため、殻の大量廃棄という課題を抱えていた。これからもおいしい海老せんべいを届けるためには、豊かな海を守り、未来へつなぐ行動を起こさなくてはいけない。その思いから、海の資源を有効利用することで海の環境を守る「オーシャン・サイクル・プロジェクト」を立ち上げた。その第一弾として海老殻に含まれる「キチン」に着目し、ハンドクリームを開発するに至ったのだという。
「キチン」は天然繊維のような糖質で、水に強く、高い保湿力を持つ。「EBIKARA MIRAI(エビカラミライ)」と名付けられたそのハンドクリームには、海老せんべいづくりを支える海老漁の漁師さんや、その工場で手指を酷使するスタッフたちの手を少しでも助けたいという思いも込められている。
海の恵みを生かしきるのは、伝統にあぐらをかかず、未来を見据えて愛され続けるブランドのひとつの答えと言えるだろう。第二弾、第三弾のプロジェクトにも期待したい。
Text : Mio Amari
Photo : Yuya Wada