2023.3.10 UP
北欧には、家族や親しい人たちと一緒にコーヒーと焼菓子を楽しみながらくつろぐ「フィーカ」という習慣がある。ただ食べる満足だけではなく、食を通じて人との繋がりを大切にするというこの北欧の食文化を日本に広めるために、2013年に生まれたのが伊勢丹新宿店限定で展開されている北欧菓子専門店<フィーカ>。お茶をする時間は飲み物やお菓子が主役でありつつも、その団欒の時間こそが重要であるという北欧文化への思いがこもっているブランドなのだ。
10年前の開発当時、北欧のデザインはブームになっていたものの食文化はまだまだ注目されていなかった。特にお菓子はまだ日本であまりなじみがなかったので、北欧のレシピを参考に試作にはじっくりと時間をかけたそう。現地では卵を使わない焼菓子が多いため、生地をまとめたり膨らませる工夫に苦労しつつ試行錯誤を繰り返して、北欧らしい素朴でおいしいクッキーが誕生した。
手作業が多く、手間がかかるハッロングロットル。焼き色をできるだけつけず、ジャムをきれいに焼き上げて色合いの美しい対比を生み出す。
無骨なものが多い傾向にある北欧菓子を、日本人の好みに合う洗練された形になるように細心の注意で焼き上げる。一番人気があるのは、白い生地とジャムの鮮やかな色合いの対比が美しいハッロングロットル。生地の材料はバター、砂糖、小麦粉、片栗粉とシンプルながら、日本人好みの味と食感を工夫している。まず生地にジャムを詰め焼き色ができるだけつかないように焼いていく。その色が鮮やかに出るように焼きあげて色合いの美しい対比を生み出す。きめ細やかで甘さ控えめな生地とジャムの甘酸っぱさとの相性が抜群な焼菓子だ。口の中でホロリと崩れるような食感を出しながらも、持ち運びの際に崩れないように仕上げるのにも時間をかけたという。
焼く前の鮮やかなジャムの色を損なわない温度と時間で、丁寧に焼き上げる。
ハッロングロットル(ストロベリー)10枚 1,080円
ハッロングロットルに次ぐ人気なのが、「夢」という意味をもつ北欧伝統菓子のドロンマル。ザクザクっとした食感が特徴で、食べ応えがある。シンプルな分コーヒーにも紅茶にも合い、飽きが来なくて、誰からも愛される味わいになっている。
ドロンマル(プレーン)(16枚入)1,080円
ダーラへストとは、スウェーデン・ダーラナ地方の伝統工芸品で、木彫りの馬のこと。幸運を運ぶシンボルとされている。それを模したのが、馬の形がユニークなダーラへストクッキーだ。工芸品っぽく見えるように、表面をふくらませて焼いている。通常工芸品の馬には口がついていないが、<フィーカ>のダーラへストクッキーは、最初に作った職人が「表情があった方がいい」と口をつけたのだそう。微笑んでいるような馬の顔が、なんとも愛らしい。サクサクっと軽やかな食感と優しい口どけが特徴だ。
ダーラへストクッキーは基本的にアソート限定アイテムだが、1週間前までに予約すれば伊勢丹新宿店の店頭で、バラ売りを購入することもできる。
ダーラへストクッキー(1個)194円
バラ売りは1週間前に要予約。
ブランドの世界観を大切にするために、パッケージデザインには北欧のデザイナーたちを起用。パッケージは10周年を迎える今までに100種類近いデザインが登場している。昼間が短い時期にも生活する環境を明るくしたい、楽しくしたいという思いが表現されているデザインからは、北欧の自然や空気感が伝わってくる。可愛くて温かみのあるパッケージは、バリエーションも実に豊富。素朴だけど、どこか懐かしさを感じる<フィーカ>のお菓子を引き立てている。こだわったのは色のバランスで、ケース内に箱が並んだ時に色が偏らず、華やかに見えることを意識したという。
手ごろなギフトにちょうどいいサイズも人気の理由だ。基本的に同サイズ(15×12×5cm)、均一価格(1,080円)で提供されているので、気軽な手土産としても使い勝手がいい。お茶の時間に2,3人で食べられるようなサイズ、個数、買いやすい価格を研究したのだそう。
北欧らしい愛らしさと色使いが目を引く。年間10種類は新作が登場する。
<フィーカ>の主なパッケージデザインを手がけるのは、フィンランド出身の3人の女性デザイナーたち。
ハンナ・コノラさんはフィンランド北部の小さな街、ピュハヤルヴィ出身で、現在はフィンランドのヘルシンキを拠点に活動。作品制作とクライアントワークを通して国際的に活躍している。彼女の作品の多くは手描きで制作されている。作品の中に静寂があり、想像の余地を残すデザインを心がけているそうで、それらは結果として温かく遊び心のある作品を生んでいる。
ハンナ・コノラさん
レーナ・キソネンさんは、世界は美しい場所だと信じている人のために創作活動を続けるイラストレーター。彼女が描くスカンジナビアスタイルのイラストは、彼女のルーツであるフィンランドやフォークアート、日本の美意識からインスピレーションを受けている。ハンドメイドのペーパーカットとデジタルプロセスを組合せて、北欧スタイルながらも独自性の高い作品を制作している。
レーナ・キソネンさん
ヘルシンキを拠点に活動するテキスタイルデザイナー兼イラストレーターのマイヤ・ロウエカリさん。2003年より、マリメッコのフリーランステキスタイルデザイナーとして、インテリアとファッション双方のデザインを手掛けてきた。彼女のモットーは、仕事もライフスタイルも、何事に恐れずに直観を信じる事。ポジティブでいることで美しくハッピーな世界が開き、創作のインスピレーションになっている。
マイヤ・ロウエカリさん
<フィーカ>では、バレンタイン、スプリング、イースター、母の日、夏至祭、オータム、ハロウィン、ウィンター、クリスマスといった季節の行事やイベントごとに、スペシャルデザインのパッケージが登場する。日本の干支を表現したパッケージは、北欧デザインで干支の動物を描いてもらうのが面白そうということで、2年前にスタートした。個性的なデザインの限定パッケージはコレクターアイテムになるほど。北欧では昼の時間が長くなる夏至はとても大事で、祝日として祝われている。そのため、夏は“サマー”ではなく“夏至祭”となっている。
クッキーアソート(イースターパッケージ)2023年度版 1,188円
ハッロングロットル(アプリコット)5個、ドロンマル(プレーン)8枚
クッキーアソート(スプリングパッケージ)2023年度版 1,728円
ハッロングロットル(ストロベリー、アプリコット、リンゴンベリー)各5枚。ハッロングロットルの3種類詰め合わせ。春らしくピンクをふんだんに使ってデザインされたパッケージで登場。
誰かと会うときに、こんな可愛い箱のクッキーを見つけたと手渡して会話がスタートする。<フィーカ>はそんなきっかけを生むお菓子。個性的で美しいパッケージに詰められたシンプルで飽きの来ないクッキーが、大切な人とのくつろぎの時間を豊かにしてくれる。
Text : Riko Saito
Photo : Yuya Wada