2023.3.10 UP
2023.4.17追記
大阪府の堂島といえば、古くから発達した水路が育んだ、関西を代表するビジネス街。そんな堂島で2003年にオープンしたのが、洋菓子店<パティスリー モンシェール>だった。店のオープン記念として、シェフの自信作であるミルフィーユと渦巻き型のロールケーキを販売したところ、ロールケーキのおいしさが評判を呼んで連日完売に。店内のオーブンをフル回転しても、生地の焼き上がりが追いつかなかった。そこで創業者がひらめいたのが、生地を節約するためにひと巻きでたっぷりのクリームを包み込むという、いわば苦肉の策。実はこのとき生まれたのが、後に同店の代名詞となる「堂島ロール」の原型だった。
現在は全国に23店舗、工房は13カ所。各工房から1日2回、出来たての生菓子が店頭へデリバリーされる。製造はほぼすべて職人の手作業。
クリームは一度に大量生産を行わず、使用する量だけを各工房から毎日オーダーする。「堂島ロール」にはやや硬めの9分立てを使用。
創業者の機転が生んだ、いわば間に合わせのレシピとはいえ、当時はあまり見かけなかったひと巻き型のロールケーキ。これが予期せぬ評判を集めたことから、同店ではその完成度を高める試みが始まった。最も大切だったのは、生地にたっぷりと抱かれたクリームの味。知られざる開発秘話を、広報担当者が明かしてくれた。
「実は創業者は、どちらかというとクリームが苦手なタイプでした。そんな代表が、自ら食べたくなるようなクオリティを追求して生まれたのが、北海道産の生乳をメインに使ったオリジナルブレンドのクリーム。ミルクの香りと自然な甘さがしっかり感じられて、口溶けはすっきりしていて飽きがこないのが特徴です」
少し寝かせてふわっと仕上げた生地に、クリームをさっと塗り広げて巻く。空洞ができないよう、生地の中央部にはクリームを多めに盛る。
“の”の字をゆるく描くようにして素早くひと巻き。製造はいち工程ごとの分業制になっており、なかでも“巻き”の工程が最も熟練度を必要とするそう。
巻き終えたら中央でカット。反対側の側面も切り揃えて粉糖を振りかける。最後の箱詰め作業まで人の手で丁寧に行う。
クリームを包み込む生地も、材料の配合などで試行錯誤を重ねた。当然ながらクリームの使用量が多いので、生地があまり軽すぎると形を保てなくなる。探求の果てに辿り着いたのは、卵黄を多めに用いた弾力豊かなスポンジだ。クリームの固さや量も規定してベストなバランスを見定めた。こうして完成した「堂島ロール」は、たっぷりのクリームをほおばる満足感と、ふっくらと弾むような食感の両方を楽しめる、シンプルながらも個性的な店の名物となったのだ。
「タイミングも良かったのだと思います。当時はデパ地下グルメをはじめ、スイーツに対する人々の関心が日本中で高まっていた時代でした」
堂島の<パティスリー モンシェール>には連日長蛇の列ができ、その評判は誕生から3年ほどで関東圏にも広がった。いつしかひと巻き型のロールケーキは洋菓子店の定番となり、やがてコンビニスイーツでも見かける存在となって、全国的なブームにまで発展。職人が1本ずつ手作りする「堂島ロール」も、最盛期には1日1万本を販売したという。
堂島ロール(1本)1,620円
1本の長さは17cmで、ほかにハーフ、カットサイズもあり。
ところで、開店当初に販売していた渦巻き型のロールケーキはどうなったかご存知だろうか。実はこちらもまだ、不定期ではあるが時おり店頭で限定販売されている。本記事の取材時に、伝説の始まりとなった「復刻版『堂島ロール』」の製造工程も特別に見せていただいた。
通常の「堂島ロール」よりも少し薄めに焼いた生地に、ヘラで均等にクリームを塗り広げる。この1枚から3本のロールケーキを同時に作る。
くるりと巻いて3等分し、粉糖をかけたら出来上がり。生地の分量が多いぶん、卵の香りが濃く、もっちりと弾力のある食感が楽しめる。
復刻版「堂島ロール」(1本) 不定期販売商品
サイズは通常の「堂島ロール」と同じ17cm。
「堂島ロール」はそのシンプルな構造ゆえ、季節のフルーツを使った期間限定商品や、お土産用の日持ちする個包装の焼菓子など、豊富な商品のバリエーションを楽しめるのも特徴だ。いつもと気分を変えたいなら、「季節の堂島ロール」シリーズを。毎年冬から春にかけて登場する「いちご」は、クリームにコクのあるカスタードを加えたロールケーキに、いちごの甘酸っぱさがジューシーなハーモニーを奏でてくれる。
季節の堂島ロール いちご(1本)1,981円
毎年12月〜5月上旬に販売。ハーフサイズ 1,188円もあり。
手のひらサイズのこちらは、バニラが香るなめらかな舌触りのクリームを、卵のコク深いしっとり生地で包んだ小さなロールケーキ。個包装タイプで日持ちする焼菓子なので、職場などへの手土産としても使い勝手がいい。本家「堂島ロール」を思わせる食感が楽しめるとあって、話のネタにもぴったりだ。
堂島プティロール(5個入)1,296円
ロールケーキの他にギフトとして密かな人気を誇るのが、ケーキのようにしっとりとした食感の「バラのフィナンシェ」だ。アーモンドプードルとバターを合わせた香り高い生地に、フランボワ、アプリコット、ピスターシュ、タブルショコラといった4種類の味わいを混ぜ込み、風味豊かに仕上げているのが個性的。
バラのフィナンシェ エタニティローズボックスS(4個入)864円
フランボワ、アプリコット、ピスターシュ、タブルショコラを1個ずつ封入。
鮮やかなオレンジのボックスに、落ち着いたブラウンのロゴプリント。創業当時から受け継がれる高級感のある箱は、贈答用菓子の需要が高いビジネス街・堂島らしい存在感といえよう。この箱を使った「モンシェールセレクション」には、「堂島プティロール」、「クッキー」、「フロランタン」、「バラのフィナンシェ」といった焼菓子を詰め合わせる。カラフルな彩りは目にも楽しい。
モンシェールセレクションSP(29個入)5,400円
サブレ(バター・ショコラ)×各4個、サブレ テベール×2個、フロランタン×4個、堂島プティロール×2個、堂島プティロールレモン×3個、バラのフィナンシェ(アプリコット、ピスターシュ、タブルショコラ)×各2個、バラのフィナンシェ(フランボワ)×4個
焼き菓子の詰め合わせ、モンシェールセレクションが入っているボックスは創業当時からのデザイン。
ちなみに全国で唯一<メゾン・ド・モンシェール>の屋号を掲げている伊勢丹新宿店では、近年アニバーサリーケーキにも力を入れている。“モンシェール=大切なひと”の誕生日を祝うホールケーキをオーダーするのは、主に「堂島ロール」を通じて同店を知った昔ながらのファンが多いとか。それもそのはず。空前のロールケーキブームを体験したあのときの若者たちも、いまや親になっている世代。“大切なひと”という店名に込められたパティスリーの願いは、その子どもたちにもきっと届いているはずだ。
Text : Mako Kobori
Photo : Mariko Tosa , Yuya Wada