2023.3.10 UP
英国五ツ星ホテルのアフタヌーンティーで、もはや定番となっている存在。それが、香ばしいスコーンに添えられた<ロダス>のクロテッドクリームだ。創業から130年。英国ティー文化を見守り続ける名脇役に迫る。
イングランドの南西部に位置し、自然豊かな海辺の丘陵地帯として知られるコンウォール地方。良質な生乳が採れる酪農の地に<ロダス>が創業したのは、1890年のことだった。きっかけは創業者のイライザ・ジェーン・ロダが、地元の生乳を原料に、農家の軒先で作り始めたクロテッドクリーム。彼女のレシピはやがて「コーニッシュ・クロテッドクリーム」と呼ばれて評判を集め、家族で自社工場の経営が始まった。伝統の製法は以後130年以上にわたって継承され、現代の英国ティー文化にすっかり根付いている。
世界中のアフタヌーンティーで愛用されるクロテッドクリームは、コンウォールにあるこの工場でのみ製造している。
<ロダス>製品に用いる原料は、本社工場から42km圏内で採れる生乳のみ。海風のミネラルをたっぷり含んだ草を食む乳牛たち。
焼きたてスコーンに欠かせないクロテッドクリーム。その製法は、日本人にあまりなじみがないかもしれない。しかしその定義はシンプルで、生乳から分離させた生クリームをさらに煮詰めて作った、バターよりも柔らかい、乳脂肪分60%以上のクリームとされている。
現在イギリスには五ツ星ホテルが約80軒あるが、興味深いのはその大半において、アフタヌーンティーに<ロダス>のクロテッドクリームが選ばれていることだ。その理由を当の<ロダス>にいわせると、彼らが作るクロテッドクリームには“本物の証”があるという。それが、クリームの表面に生成される“ゴールデンクラスト”。乳脂肪分が凝固したこの黄色い皮膜こそ、伝統的な製法で作られた「コーニッシュ・クロテッドクリーム」の証なのだ。
表面に生成される“ゴールデンクラスト”が、中のなめらかなクリームを守っている。
現地工場で焼き上がったクロテッドクリーム。製品カップに描かれたミルクを運ぶ女性の絵は、通称ブルーレディと呼ばれている。
“ゴールデンクラスト”の役割は、煮物における落とし蓋と同じだ。皮膜ができると中のクリームはこっくりと風味を増し、なおかつシルキーな舌触りとすっきりした口溶けに仕上がる。皮膜を生成するコツは、分離させた生クリームを低温オーブンに入れ、半日ほどかけてじっくり蒸し焼きにすること。海辺のコンウォールはサーフスポットとしても有名だが、昔の職人たちは朝にクリームを火にかけて海に繰り出し、夕方サーフィンから戻ってきたらちょうどクロテッドクリームができあがっていたという逸話もある。
工場から42km圏内で採れる生乳のみから作った、一定の固さの生クリーム。そして適度な焼成温度と時間。これらのバランスが調和したとき初めて、彼らのいう本物のクロテッドクリームが生まれる。スコーンにたっぷりのせてかじりついても、しつこさは感じない。ミルクのピュアな香りを口中に残しつつ、喉元ですっと溶けていく上品なテクスチャー。この味わいこそ、<ロダス>が多くの五ツ星ホテルで愛され続ける理由。彼らが自らを“クリームの番人”と称す所以である。
クロテッドクリーム スコーン プレーン 日本製(1個)281円
コーニッシュ クロテッドクリーム 英国製(28g)331円
日本では2019年に本格上陸した<ロダス>だが、伝統のクロテッドクリームをより広く伝えるべく、店頭ではスコーンも販売している。英国本社のレシピを用い、日本国内の工房で毎日焼かれているスコーンは、プレーン味のほか月替わりのフレーバーが4種類。生地の配合はもちろん、生地のこね方、焼き方にいたるまで本国とほぼ同じ作り方を採用している。
歯触りのよいフランス製小麦粉に、バターとクロテッドクリームを加えて混ぜる。なめらかな生地になるよう、バターを細かく砕くひと手間が大切。
生地にヨーグルトを混ぜてさらに撹拌。ヨーグルトを入れると香りが引き立ち、風味よくしっとりとした仕上がりになる。
手ごねでしっかりとコシをつけるのがポイント。手早くこねたら、生地は少し休ませる。
最大のこだわりは焼き方。一度に大量生産できるコンベクションオーブンの熱風ではぱさついた食感になってしまうため、たとえ一度に少数しか焼けなくても石窯つきのデッキオーブンを使用する。クロテッドクリームとバターを混ぜ込んだ生地は、表面はさっくり、中はしっとりふわふわの食感に焼き上がる。
一定時間寝かせておいた生地種を厚めに伸ばして型抜きする。厚さは一定になるよう定規でしっかりと測る。
抜いた生地は上下を逆さまにしてからトレーに乗せる。逆さまにすることで、焼いたときにエッジを立たせるのが本場のスタイルなのだとか。
表面にハケで牛乳を塗ってからオーブンへ。上段200度、下段190度のオーブンで15分焼いたら出来上がり。
<ロダス>ではほかにも、自慢のクロテッドクリームを使った英国製の焼菓子を楽しめる。そのひとつが、本国の商品と全く同じ“ミルク缶”に封入した「クロテッドクリーム ショートブレッド ミルク缶」だ。クロテッドクリームとたっぷりのバターを混ぜ込んだ生地は、一般的なショートブレッドよりもやや高温でしっかり焼いているのが特徴。サクッと軽い食感で食べやすい。
クロテッドクリーム ショートブレッド ミルク缶 英国製 (200g) 1,981円
同じく“ミルク缶”に入ったもうひとつの焼菓子が、「クロテッドクリーム ファッジ ミルク缶」だ。ファッジとは、ミルキーな味わいが口いっぱいに広がる英国式の伝統的なソフトキャンディ。クロテッドクリームにバター、砂糖、ゴールデンシロップを練り合わせたもので、ホロホロととろけるような食感に、思わず頬が緩んでしまう。
クロテッドクリーム ファッジ ミルク缶 英国製 (175g)1,981円
ところで、スコーンとクロテッドクリームの組み合わせといえば、どんな食べ方・シーンを思い浮かべるだろうか。英国式アフタヌーンティーはその代表的なものだが、なかでもクロテッドクリームとスコーンをメインに用いて楽しむのが「クリームティー」という様式だ。
イギリスはもちろん、世界各地の5ツ星ホテルで提供されている英国式アフタヌーンティー。
英国式アフタヌーンティーのいち様式である「クリームティー」。いちごジャムとクロテッドクリームは、躊躇せずにたっぷりのせるのが本場の食べ方。
作法はとても簡単。手で半分に割ったスコーンの上にいちごジャムを塗り広げ、その上にたっぷりのクロテッドクリームをのせて、ミルクティーと共にいただく。このとき、クロテッドクリームは決してこねたり、混ぜたりせず、ジャムの上にポンッと置くだけにするといい。うっとりするほどの甘さとふんわりした食感。そしてクリームの口溶け。<ロダス>が130年見守ってきた英国ティー文化を、自宅で気軽に楽しめるとっておきの方法だ。
Text : Mako Kobori
Photo : Mariko Tosa , Yuya Wada