2023.3.10 UP
1953年、東京・銀座で開業した漬物専門店。時季の野菜を活かした浅漬けや彩り鮮やかな漬物を数多く揃える。とりわけ、旬のフルーツを使う漬物は、一年を通じて色とりどりの種類を展開する。現代の多様な食のシーンに寄り添う「現在進行形」の漬物作りを深堀りする。
東京・銀座で漬物専門店として開業した<銀座若菜>。その源流は、愛知県名古屋の堀川沿いで、1828年より続いた料亭「得月楼」である。東西の著名人に愛され、名古屋一と謳われた料亭で、店の名は、幕末の文人、頼山陽(らいさんよう)がこの店に遊び、堀川に映る月を眺めながら作詩した一節から名付けられた。
「得月楼」で「天下一品」と称され、贈答品や土産物として愛されたのは、2年以上の月日をかけて漬ける「味醂奈良漬」だった。そこで、「得月楼」の奈良漬の専門店として、銀座に店を構えたのだった。
1955年頃の銀座の店。諸国名産の漬物は「ふる里の香り、母の味」として好評を集めた。
代表取締役の山田耕平さんは言う。
「開店後は、日本全国から人が集う銀座でお客さまからの情報や要望に応えているうちに、日本各地の漬物を扱うようになりました。たとえば、長野の野沢菜漬や山形の温海(あつみ)かぶらなどもそのひとつ。当時の都心では知られざる郷土の漬物の知名度を高めたと聞いています」
代表取締役の山田耕平さん。日々、世界の漬物を研究。自社の発酵の技術を生かし、発展させ、旬の素材を大切にしながら新しいスタイルの漬物を模索する。
昭和40年代には浅漬けに着手し、オリジナルの漬物を数々生む。
昭和50年代には、契約栽培の野菜や果実の入荷体制を確立し、高級スーパーマーケットへも納めるようになった。
2008年には、時代に応じた食に寄り添うべく、旬の果実を使う「フルーツ×野菜」シリーズを発売する。
季節限定「フルーツ×野菜」シリーズ。小さなプレゼントやホームパーティーの手土産にも向く。
(奥から時計回りに) なごり柿(180g)594円(販売期間:10~12月)、甘夏ほのか(180g)594円(販売期間4~7月)、葡萄のしずく(170g)594円(販売期間9月)、柚子うらら(180g)594円(販売期間:1~3月)
時季の果実とひと口サイズの大根の組み合わせ。果実の旬に合わせた漬物が、代わる代わる登場。大根は皮を残して手切りし、パリッとした食感に。
発売第1弾にして、一番人気に輝く「なごり柿」は、柿とパリッとした大根をすっきりとした糀入りの甘酢に漬けたもの。やさしい甘みとパリッとした大根の瑞々しさが印象的だ。
シャインマスカットを白ワインベースの甘酢に浅漬けした「葡萄のしずく」は、上品な香りと爽やかな酸味。柚子や甘夏、すだちに青梅、レモンなど、一年を通して、季節ごとに多彩な果実が登場する。見た目も軽やかで、箸休めやお茶請けのみならず、ワインのアテやサラダの具材、肉料理に添えるのもいい。
「フルーツ×野菜」の大根は回しながら乱切りにし、歯切れのよさを生む。
「甘夏ほのか」は、契約農家が育てた特別栽培の甘夏を使用。皮をコンポートにし、たっぷりの果汁を使って漬ける。
<銀座若菜>では、原点の奈良漬から、白菜漬をはじめとする浅漬け各種、チーズの味噌漬やトマトの柚子ジュレなどの新しい商品に至るまで、多種の漬物を展開する。経験に裏打ちされた確かな技術を活かし、ぬか床、味噌床、粕床、糀床、酢床、醤油床などから素材に最適な漬け床で漬けている。
ぬか床をはじめ、味噌床、粕床、糀床、酢床、醤油床などの漬床を用意。素材と最も相性のいい漬床で漬ける。
原料となる野菜は、 日本各地に契約産地を持ち、年間を通してその時季に漬けるのにもっとも適した野菜を使えるようにしている。国産にこだわるのは、日本の野菜を食べてもらう機会を増やしていくことで「日本の農業に元気になってもらいたい」という思いからだ。
漬物の基本である塩はメキシコの天日塩を使用。ほかに、伝統的な製法で造る「白扇酒造」の「福来純 熟成本みりん」のみりん粕、吟味した材料から造る「内堀醸造」の酢、国産大豆を原料とする「ギノーみそ」の伊予の麦みそなど、ちょっと贅沢ともいえる調味料も用いている。
得月楼みりん奈良漬(白瓜)(140g)680円
料亭「得月楼」の技を継ぐ。酒粕とみりん粕に2年以上をかけて何度も漬け替え、すっきりとした味わいに。
チーズの味噌漬(120g)1,080円
北海道産の濃厚なクリームチーズを、伊予の麦味噌と信州味噌をブレンドした味噌床で熟成。ワインのお供にも。
「トマトの柚子ジュレ」は、湯むきしたトマト丸ごと1個を使い、見映えも圧倒的。爽やかな柚子が香る白ワインベースのジュレを合わせてある。オードブルのひと皿に、野菜と和えてサラダに、また食後のデザートにもおすすめ。ざくざく切ったトマトとジュレを素麺と和え、好みでめんつゆを加える食べ方も一興だ。
トマトの柚子ジュレ(1個)572円
見た目も目を引く現代的な漬物。ワインやシャンパンとも好相性。トマトをくし切りにして野菜と合わせ、ジュレをドレッシングにサラダにしても楽しめる。
最近では、毎日のかき混ぜ不要で本格的なぬか漬けが始められるぬか床も人気を集めている。良質な米ぬかと自然海水塩だけを原料とし、乳酸発酵をさせていて、冷蔵庫を利用して短時間で漬けられるのが特長だ。
乳酸菌が生きている発酵ぬか床<易しいガイドブック付き>(1kg)1,296円
栽培方法にこだわっておいしい米を育てる農家の、鮮度の良いぬかを使用。しっかり乳酸発酵させてあり、酸度が高めの昔ながらのぬか床が簡単に作れる。
キーワードは「漬ける、を新たに」。調味料や素材に心を砕き、漬けるおもしろさを追求する<銀座若菜>の漬物は、現代の多様な食や生活スタイルに、しっくりなじむ。
Text : Yumiko Numa
Photo : Yuya Wada , Yu Nakaniwa