2023.3.10 UP
日本人で初めて、フランスのチーズ職人組合最高位の称号「Maître Fromager(メートル フロマジェ)」を受任した久田早苗さんが、情熱をもって手がけるチーズ専門店である。
久田さんは、海外の本格的なチーズが日本にまだ普及していない1985年から、ヨーロッパ圏のチーズを多数扱ってきた。ところがある日、仕入れもとの現地に赴いてみて、「見知ったチーズなのに、生産者や製法、熟成によってこうも味が違うの!?」と衝撃を受ける。
以降、「自身が感じた“突き抜けたおいしさ”をお客様に伝えよう」と決意し、フランスチーズ業界の巨匠の一人、フィリップ・オリヴィエ氏の元で学び、その後、ヨーロッパ各地の生産者を訪ね歩くように。2004年にパリ16区に熟成庫を備えた1号店をオープンしたのを皮切りに、久田さん自身が選び、自分の手で熟成管理したチーズを扱うようになったのだった。
株式会社久田 取締役副社長で、チーズ熟成士の久田早苗さん。
2013年にはフランス共和国農事功労章「シュヴァリエ」勲位を、2015年には同章「オフィシエ」の勲位を受章した。
久田さんの娘で、熟成士マダムHISADA の2代目となる久田恵理さん。
現在、パリ本店でチーズの魅力を伝えている。
パリ1区の本店。チーズを食べなれた現地の人々の反応が、ダイレクトにわかるのが本場の醍醐味だ。
店頭に並ぶのは、多種の中から見極めて管理された、「完璧な状態」のチーズ約60種類。久田さんと約30年に渡って共に歩いてきた、伊勢丹新宿店の店長・榎島 功(えのしまいさお)さんはこう話す。
「なかでも『モートリュフ Rothschild』は、素材のよさと作り手の技術の結晶といえるチーズです。希少性が高く、まさに食通向けといえます」
モートリュフ Rothschild フランス製(100gあたり)2,881円
奥深い熟成感のあるブリードモーで、香り高い黒トリュフをたっぷりサンドした希少なチーズ。毎年9月~4月頃の期間限定販売。
「モートリュフ Rothschild」のブリードモーの原料となる牛乳は、餌の牧草から管理して牛を育て、その搾りたての牛乳を使った昔ながらの製法が守られている。農家製ブリードモーの作り手としてはフランスで唯一の存在。
型に入れて藁を使う伝統的なやり方で水切りをし、型抜き後に表面を乾かし、白カビを育てているところ。この後、乾燥を経て、温度や湿度の異なる熟成庫に段階的に移動し、細やかなケアをする。
「モートリュフ Rothschild」は、まろやかさと熟成感を併せもつ白カビ系のチーズ、ブリードモーAOCでトリュフをたっぷり挟んだチーズ。トリュフは、香り高く高品質なフランスやスペイン産の冬トリュフを使っている。そのままで味わうのはもちろんのこと、コロッケの具やリゾットに加えても抜群の存在感を放つ。
紹介したいチーズはほかにもある。名前が浸透しているチーズこそ<フロマジュリーHISADA>で買ってみたら感動が沸き起こるだろう。たとえば、代表的なものに、「ブラータ」や「コンテ」がある。
「ブラータ・イルパルコ」は、今ほど広く知られるより前、10年程前から販売している。モッツァレラに包まれるクリームのまろやかさと濃厚さは、衝撃が走るほど。
榎島さんはこう説明する。
「一般的に流通しているものは、一度冷凍させているものや、輸出用に日持ちするように作られているものが多いのですが、こちらは作りたてをイタリアから空輸していますので現地の味が最短で店頭に並びます。入荷は月に1、2回。何度もリピートし、入荷を待ちわびるお客さまもいらっしゃいます」
ブラータ・イルパルコ イタリア製(1個)2,961円
出来立てをイタリアから空輸。弾力のあるモッツァレラの中に濃厚なクリームが包まれる。オリーブオイルと岩塩をかけて。熟れた柿や洋梨、シャインマスカット、桃、マンゴーなどフルーツと合わせても極上の味わいに。
「コンテは、世の中で一番出回っているとも言えるフランスを代表するチーズです」と榎島さん。<フロマジュリー HISADA>では、数あるコンテの中からこれぞ、という作り手のものを年間契約しているうえ、切りたてを提供するため風味は秀逸。
「同じ名前でも味が違うチーズの代表格と言えるかもしれません」
コンテAOC エクストラ フランス製(100gあたり)1,188円
久田さんが現地を回り、味を吟味して一番良いというものを選び、年間契約している。ドライいちじくと合わせたり、加熱してグラタンに。はちみつと黒胡椒を合わせても美味。栄養価が高く、コーヒーや紅茶に合わせて日常的に愉しむ人もいる。通年販売。
AOCで定められた同じ製法で土地ならではの条件も同じなのに作り手によって全く風味も食感も異なることを改めて実感した二人が行きついたのがこの「カマンベールドゥノルマンディA.O.C.マダムHISADA」です。約20年前に久田さんと榎島さんはフランスに・ノルマンディへ赴き、「本当においしいカマンベールを探そう」と生産者を1軒ずつ訪ねた。牛たちは、海から吹く風の影響でミネラルや塩分を含んだ草を食む。そのため、牛乳は濃厚な味わいに。昔ながらの製法を守り、無殺菌乳を原料としたしっかり食べ応えのあるチーズだ。
カマンベールドゥノルマンディー A.O.C.マダムHISADA フランス製(250g)2,851円
本場で手作りされ、クリーミーさと独特の風味を併せ持つ。熟成が進むにつれ外皮は茶色く変化し、外側から柔らかくなって深みのある香りとコクが増す。
「セザールレガリス」は、ピレネー山脈の麓で、ストレスなく育てられた羊の乳を使うブルーチーズ。同じく羊乳のブルーチーズである「ロックフォール」に比べると、香りも塩味も穏やか。クセはありつつも、澄んだ味わいでキレがある。
「ほかのブルーチーズでは味わえないような、口どけのなめらかさがあります。口に含んでいると、顎の脇が刺激されるような旨みで満たされます。」
セザールレガリス フランス製(100gあたり)1,551円
M.O.F.(フランス国家最優秀職人章)受章のチーズ職人、ドミニク・ブッシュが手掛ける。ドライフルーツ全般と相性がよく、レーズンやナッツ入りのパンとも合う。
どれも魅力的で選ぶのに迷ってしまいそう……なんて心配は無用。店頭には、榎島さんをはじめ、お客さまの嗜好をキャッチし、用途やシチュエーションを踏まえ、これというチーズをコーディネートしてくれるスタッフがいる。
そのまま味わうだけでなく、「サラダに入れる」「固くなったらすりおろしてスープに加えてコクと旨みを加える」など、日常的に取り入れられる食べ方の提案もうれしいところ。
「現地から"本物の美味しさ"を届ける」をテーマに、<フロマジュリーHISADA>は特別な日だけじゃないチーズの魅力を伝え続けている。
Text : Yumiko Numa