<富士見堂>独創的なアイデアが米の旨みを際立たせる。

2023.9.15 UP

1950年、葛飾区青戸で創業した米菓専門店<富士見堂>。「祖父も父も職人気質で、生地作りからこだわりを持って自社で行っていました」と三代目の佐々木健雄さん。工場併設の本店にはできたてのせんべいが並び、それを求める人がひっきりなしに足を運ぶ。時代の流れと共に同業者が減っていくなか、<富士見堂>が愛され続けているのはなぜか?

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長く愛されるせんべいの真髄。

卸売から小売中心に業態を変更したのは、佐々木さんが店を引き継いだ2002年頃。その一方で原料も吟味し、生産者とのつながりを深めていった。「メイドイン東京」を掲げ、工場では翌日使う分の玄米を精米し、当日の朝、生地にする。「昔は自分たちで生地から作るのが一般的でしたが、近年は分業化され、業者から仕入れた生地を焼くお店が多いです」と佐々木さん。

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米を製粉し(米粉)、蒸しながら練り上げて生地にする。米の粉砕度はせんべいの種類によって変える。

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代表取締役の佐々木健雄さん。「メイドイン東京の会」の一員として東京の食材や食文化を学び、盛り上げる社外活動にも積極的だ。

商品のラインナップは幅広い。昔ながらの醤油せんべいから工夫を凝らしたオリジナルまで、どれも手に取りたくなるものばかり。なかでも斬新なのは、甘じょっぱい「あんこ天米」。他店では決して出会えない個性派である。

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「あんこ天米」の生地。表面には米のつぶつぶが見える。

王道を極めたせんべいの新境地。

「あんこ天米」に使われているのは、北海道産の一等米。表面の小さな凹凸は米のつぶで、ザクッとした歯触りがクセになる。強めに焼いて香ばしく仕上げるのもこだわりの一つ。塩を振りかけ、甘じょっぱくすることで、ぐっと米の旨みを引き出す。

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焼き上がったせんべいにまんべんなく塩を振りかける。

工場にはもちろん機械を導入しているが、要所要所でやはり人の手は欠かせない。気温や湿度に合わせて生地の状態を確認したり、火加減を微調整したり、職人の感覚が鍵となる。また、「あんこ天米」の餡をせんべいで挟むのも手作業。割れないように、一つひとつ丁寧に完成させるのだ。

 

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力加減が難しいデリケートな作業は人の手で行う。

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北海道産小豆を使用したさらし餡。粒子が大きめの砂糖で甘みを足し、垢抜けた印象に。

異なるフレーバーも見逃せない。伊勢丹新宿店限定「珈琲」は、阿佐ヶ谷創業の『コーヒー専門店 ぽえむ』が「あんこ天米」のために焙煎したイタリアンローストを餡に練り込む。頬張ると、ふわっといい香り。それが、米の旨みと全体の甘じょっぱさを穏やかにまとめてくれる。

 

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(奥)あんこ天米(1枚)189円

(手前)あんこ天米(珈琲)(1枚)216円

あくまでも、いちばんの主役は米の旨み。

どんなに捻りを効かせたアレンジの商品も、「米の味がしっかり楽しめておいしい」と評判。米を活かすのは「せんべい屋の矜持」でもあり、「それを喜んでもらえるのがいちばんうれしい」と佐々木さんは笑う。

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蒸した米を胴搗で搗く。ご飯としても食べられる一等米、北海道産特別栽培米を使用。

看板商品の一つである、揚げせんべい「白ほおばり」。米油を使い、しっかり油切りをすることで、後味をさっぱりさせる。若干生地を薄めにすることで軽い食感に。それでいて米の旨みが感じられるよう、考えられた厚さになっている。

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白ほおばり(12枚入)648円

高温で一気に揚げ、さっくりした食感に。穏やかなだしが香る甘醤油味。

定番商品を詰め合わせた「東京日和」は、贈り物にぴったり。かごのふたを取ると、季節に合わせてセレクトされた5種類が入っている。一枚ずつ個包装されているので、差し入れとしても重宝。きっと、もらった人も喜んでくれるはず。

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東京日和(5種/26個入)2,386円

季節によってパッケージ、商品内容は変更。品のいい掛け紙もうれしい。

後進の育成にも注力している<富士見堂>。これまでベテランの工場長しか作れなかった「まくらぎ」は、この先もずっと提供できるように、少しずつ若手に技術を引き継いでいるそう。二度揚げすることで堅く揚げた、歯応えのいいおかき。杉樽仕込み三年醸造醤油の深み、もち米の旨みがたまらない。

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まくらぎ 600円

米油を使った堅揚げおかき。なつかしい醤油味と歯応えのよさが魅力。

「荏胡麻」「カレーソルト」など、フレーバーを加えた商品も人気。ただ表面に付けるのではなく、生地に練り込むことができるのは、すべての工程を自社で行うからこその強みだ。この作業が行われるのは、蒸した米を胴搗で搗く段階。ちなみに「荏胡麻」は、強く搗きすぎるとエゴマが潰れて油が広がってしまうため、生地をある程度胴搗で搗いた後に加え、人の手で練り込まなければならない。

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荏胡麻(58g)453円

埼玉県秩父市で農薬や化学肥料を使わずに栽培された荏胡麻を使用。

せんべい屋としての矜持を保ち、米を活かす。奇をてらうのではなく、王道を極めたその先で挑戦を続ける。これこそ、<富士見堂>が変わらずに愛されている理由。そして、せんべいの可能性を広げる秘訣なのかもしれない。

 

 

Text : Maiko Shindo

Photo : Yu Nakaniwa , Yuya Wada

 

 

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