2023.9.15 UP
<美濃吉>は、京都・粟田口に本店を構える老舗料亭。享保元年(1716年)創業で、京都でも由緒ある料亭のひとつとして広く知られている。川魚生洲料理店として発展し、現在は京都本店を中心に、東京や大阪などにも支店を持つ。
京野菜をはじめとする旬の食材を使用し、手間をかけ丁寧に作る京料理が<美濃吉>の味。伊勢丹新宿店では、その季節で一番おいしい食材を季節に合った味わいに仕立てたお惣菜や、それをぎゅっと詰め込んだお弁当を販売している。
1992年に本店を大改装し、<京懐石美濃吉本店 竹茂楼>としてオープン。和建築と植栽の美しさが評価され、1994年には京都市景観賞を受賞した。
江戸時代の鴨川と三条大橋を描いた絵。橋のたもとの店舗に「美濃吉」と書かれている。
<美濃吉>の創業者である佐竹十郎兵衛は、美濃の国(現在の岐阜県)・大垣の出身。<美濃吉>の名前は、その出身地に由来している。京都に来た佐竹十郎兵衛は、三条大橋のたもとの一角に豆腐田楽など軽食や酒を提供する腰掛け茶屋を開き、それが長い歴史を今に伝える<美濃吉>のスタートになったとのこと。
江戸時代後期になると、鴨川のほとりにある<美濃吉>も、川魚生洲料理屋に形を変えていく。目の前の鴨川を眺めつつ新鮮で上質な川魚を楽しめる<美濃吉>は、京都の粋人たちの間で好評を得た。うなぎ、すっぽん、鮎、鯉、ワカサギなどその時期においしい川魚を洗練された京料理に仕立ててお客さまに召し上がっていただくというスタイルが始まり、今もそれは色濃く引き継がれている。現在人気商品のひとつである「うなぎ姿寿司」は、その伝統と経験を生かして作り出された一品だ。
当時、京都に川魚生洲料理屋は数多くあったが、<美濃吉>は「川魚生洲八軒」のひとつとして京都所司代に認可された。時代の変遷と共に、<美濃吉>は京料理の真髄を伝える料亭として発展し、現在ではその名声を揺るぎないものにしている。
「衹園」は、旬の味覚を彩りよく盛った美濃吉らしいお弁当。仕切りがない折箱を使い、食材を立てて盛り付ける“乱盛り”という手法に職人の技が光る。
季節ごとに内容が変わる「衹園」には、約25種類の献立が彩りよく端正に収まる。ひとつのお弁当で、懐石料理のエッセンスが楽しめるよう、口取り、炊き合わせ、焼き物、だし巻きは欠かせない。炊き合わせは包丁の入れ方にも細心の注意を払い、素材ひとつひとつを丁寧に炊いたものが盛り合わせられている。ご飯が控えめなのは、少しずつ多種類のおいしいものを味わっていただきたいとの思いから。名料亭の真髄が手軽に体験できる、美しく繊細で奥深い味わいのお弁当だ。
衹園(1折)3,564円
※時節によって折り詰めの内容が変更します。(※写真は2022年秋のもの。)
老舗料亭の熟練職人ならではの手仕事。
色合いにこだわり、細心の注意を払いながら盛り付けていく。
華やかで彩り豊かな「衹園」。25種ほどの食材をバランスよく、立てて盛っていく。水分が出ない工夫も。
<美濃吉>は独自の暦を導入し、それに添ってお惣菜の料理を変えている。暦といえば二十四節気が一般的だが、<美濃吉>独自の暦は十五暦。旬のものをおいしく食べてもらうために、1年を15に分け、その時季に合わせてお惣菜を変えていく。同じ食材でも、はしり、旬、名残といううつろいに合わせて調理方法も変化させ、その時その食材が一番おいしくなるよう、常にきめ細かく対応している。
人気の高い「九条葱だし巻き」は、通年展開しており、ひとつひとつ店内で丁寧に手作りされる。こだわりは、だしと卵のバランス。箸を入れるとじゅわっと溢れ出てくるほどのだしを閉じ込めて、強火で一気に焼き上げるのがコツ。たっぷりと散らされた九条葱が、食感と香りのアクセントになっている。
手前から巻く京巻きという手法で焼くことで、だしが逃げない。
玉子を巻く都度、九条葱をたっぷりと散らし、強火で一気に焼く。
焼き上がっただし巻は、巻き簾に移して形を整える。
豊富な伝統野菜や京食材を使い一切の妥協なしで作られる、体と心に優しく洗練された京料理のお惣菜の数々。老舗料亭の熟練職人たちが手がける味を家で存分に楽しめる幸せがここにある。お惣菜を購入すると、その作り方や、それに合う副菜を尋ねてくるお客さまも多いそう。売り場では、そうした質問にも丁寧に対応し、京料理への理解を深めてくれている。
九条葱だし巻き(1本)702円
あふれ出るほどたっぷりとしただしを含んだ玉子焼き。焼き色をつけずに美しい卵色に焼き上げるのがプロの技。九条葱の香りと味わいが食欲をそそる。
うなぎ姿寿司(5貫)2,160円
鰻は国産。4日前までに要予約。
<美濃吉>の名物。川魚生洲料理店の名残を今に伝える一品。鰻は白焼きし、時間をかけて煮込んで棒寿司に。まろやかな鰻の味とほろりとほどける寿司ご飯の相性は抜群だ。
京都上賀茂 賀茂茄子田楽(1個)1,080円(6月〜8月上旬の販売)
賀茂茄子の中でも肉質が細かく一番おいしいとされる上賀茂産を使った、見た目も美しい茄子田楽。賀茂茄子に合うように練り上げたオリジナルの白味噌と赤味噌の2種類の田楽味噌を半分ずつ塗り、オーブンでじっくりと焼き上げる。2種類の田楽味噌による味わいの変化も楽しい。みずみずしく引き締まった肉質、柔らかな果皮、香ばしい味噌の三位一体がたまらない。
聖護院かぶらと甘鯛のかぶら蒸し(1個)692円(11月中旬〜1月中旬の販売予定)
(※販売価格は2022年のもの。)
冬の人気料理がこの「かぶら蒸し」。一塩して霜降りにした甘鯛と共に、百合根、銀杏、粟麩をすりおろしてつなぎに卵白を加えた聖護院かぶらで包み込み、ふっくらと蒸しあげる。コースの一品である料亭のものに比べ、お惣菜として満足感が出るように具材は多めでボリュームたっぷり。寒い冬の体に染み渡る、滋味深い味わいだ。
日常使いはもちろん、特別な日の食卓を飾るお料理や、大切な人への贈答品など、さまざまな用途に活躍する<美濃吉>のお惣菜やお弁当。老舗料亭が心を込めて作る味が、食卓に京都の旬を運んでくれる。
Text : Riko Saito
Photo : Mariko Tosa , Yuya Wada