<ホレンディッシェ・カカオシュトゥーベ> ドイツ本国よりも日本で愛される、バウムクーヘンができるまで。

2022.10.31 UP

森の国ドイツ。旧東ドイツの伝統菓子で、木をモチーフとしたバウム(木)クーヘン(お菓子)は年輪のような断面が特徴で、日本では“縁起の良い”イメージが定着している。日本中にこの菓子が知れ渡り、満を持して登場したのがコンディトライ<ホレンディッシェ・カカオシュトゥーベ>のバウムクーヘンだ。

 

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ドイツでは、菓子職人の技術を図る課題菓子。

日本では全国区の知名度を誇るバウムクーヘン。意外なことに、発祥の国ドイツでは知らない人も結構いるという。発祥はドレスデンなど旧東ドイツ側とされるが、木に生地を巻き付けてパンの原型のような生地を焼いた風習は、古代の狩猟民族たちのものだったとされる。パンに限らず肉もまたしかりで、出来上がったご馳走は、皆で切り分けて食べた。その名残だろうか。ドイツのバウムクーヘンは、塊肉のローストのように今もそぎ切りにして食べる。

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菓子としての技術が確立されると、バウムクーヘンは、ドイツの菓子業界では技術力を図る課題菓子となる。定義も明文化されており、油脂として認められているのはバターのみ。膨張剤の使用も不可だ。技術的に難しく手間もかかるため、コンディトライ(ドイツ語で菓子店)で常に焼く店は少なく、専門店も稀な存在という。では、この菓子がなぜ日本で紹介されるようになったのか?そこには数奇な物語があった。

 

第一次世界大戦の頃、青島(チンタオ)はドイツの租借地だった。ここで喫茶店の営業権を得て開業していたのがカール・ユーハイム氏だ。日本のバウムクーヘン専門店の<ユーハイム>は、彼のレシピからスタートしたブランドだ。ドイツが第一次世界大戦で敗戦国となると、戦勝国となった日本は青島のドイツ人捕虜を幽閉した。広島で幽閉中となったカール・ユーハイム氏は、広島物産陳列館(現在の原爆ドーム)で行われた物産展示会でドイツの伝統菓子、バウムクーヘンを日本で初めて披露した。これが好評を博し、後に釈放されると日本で喫茶店営業を開始した。その看板メニューがバウムクーヘン(当時はピラミッドケーキの名称)だった。1960年代になると、日本のバウムクーヘンは結婚式の引き菓子として圧倒的な人気を得る。定番菓子として磐石な地位を確立し、日本国内ではたくさんの専門ブランドも現れた。

 

そんな状況下、伊勢丹新宿店の2009年のフロアリモデルに伴い紹介されることになったのが<ホレンディッシェ・カカオシュトゥーべ>だ。<ホレンディッシェ・カカオシュトゥーべ>は1895年、ドイツ・ニーダーザクセンの州都、ハノーファーで創業した。創業当時は、オランダのココア<ヴァンホーテン>の試飲所であり、これは店名の由来オランダのカカオともなっている。同社の印象的なパッケージも、ルーツを伺わせるオランダの民族衣装の少女だ。

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<ホレンディッシェ・カカオシュトゥーベ>は、その後総合的な菓子を扱うコンディトライ&カフェとして賑わう。バウムクーヘンもまた同社が誇る自慢の菓子の一つだった。日本での展開においても本国通りのレシピを遵守。しかし、レシピだけで実現できる類ではないのがバウムクーヘンの難しさで、技術者の養成も必須だ。ドイツで修業、ドイツの国家資格であるマイスターを取得し、日本で技術を後進に継承しているのだ。実際、難易度が高いとされるバウムクーヘンは、どのように焼かれているのだろうか。

 

 

 

バウムクーヘンを作る過程は、とにかく大変だった。

まずは生地作りである。卵は卵黄と卵白を分け、マジパンと柔らかくしたバターに、下から熱を当てながらしっかりと混ぜ合わせる。この混ぜ合わせ方が甘いと、生焼けやダマの原因にもなるので、かなりしっかりと混ぜる。ここに卵黄、生クリーム、小麦粉を加えて馴染ませる。

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バターとマジパンを混ぜあわせているところ。熱源を動かしながら、全体を混ぜきる。

卵白には砂糖を加え、メレンゲを立てる。メレンゲは非常にデリケートな生地で気泡が潰れやすい。また、バターの生地と合わせるタイミングが非常に重要だ。バターの生地ができ上がった瞬間を逃さずに、メレンゲと合わせる。

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バターの生地ができ上がった瞬間を逃さずに、メレンゲと合わせる。

 

優しく、気泡を潰さないように手で混ぜ合わせると、羽布団のようにふんわりとした生地が出来上がる。

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生地の出来上がり。非常にデリケートな作業。

生地が出来上がったら、“特注”のオーブンで焼く。型に入れて温度設定して、オーブン任せとはいかないのがバウムクーヘンの難しさ。オーブンは開口式で、職人は反射熱を生地と一緒に浴びながら、芯棒部分におたまのような道具で生地を均等に掛け回しながら焼き上げる。1本のバウムクーヘンが焼き上がるまでの約40分間はつきっきり。生地を混ぜ合わせ、かけては生地を均し、また生地をかけという修行のような行為が繰り返される。

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バウムクーヘンは生地をかけるとゆっくり回転。1周するのに約1分。

生地を均す場面も、バウムクーヘンならではの、くし切りという作業がある。これまた特注のノコギリのような歯のついた長いヘラ型の道具で、生地の表面を撫でるようにして余分な生地を落としていく。

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どういう焼き色をつけるかは職人の好みもあるようで、しっかり焼き色をつける人もいれば、色づいたぐらいが好みという人もいるそうだ。いずれにしても、その日の湿度や室内の気温で、日々、生地が含む水分量は変わる。生地の状態を体感し、微調整しながら己の理想の具合に焼き上げるのだ。

 

「どうしても両端が太くなりがちです。ここを均一に手で均すのも、私たち職人の技術。膨張剤を使用すれば、安定して均一な製品を焼成していくのは比較的容易です。しかしながら、ドイツのバウムクーヘンの定義はそれを許していない。日々の生産の中で技術を磨きながら、美しい製品を製造していくのが私たちの仕事です。」とドイツで実際にマイスターの資格を得た職人、松本さんが話してくれた。

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ドイツ本国のマイスターの有資格者、松本さん。

「日本は表面をフラットにならしたバウムクーヘンが好まれますが、ドイツのクラシックタイプのバウムクーヘンは表面を波型にします。角を出すと言うのですが、これも非常に難しい技術。本国に倣って作り続けています」。

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焼き上がったクラシックバウム。長さは75cmある。

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クラシックバウム(直径11㎝)1,080円 

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焼き上がったバウムクーヘンは、一晩おいて生地を落ち着かせる。翌日、表面をグラサージュして、生地の乾燥を防ぐ。 

同じ工場で、マルガレーテンクーヘンの仕上げも行われていた。マーガレットの花弁を模した可憐なケーキでこちらも人気の高いアイテムだ。

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バウムクーヘンよりさらにバターとマジパンを使用したリッチな生地。花芯の黄色はパンプキンパウダーで色付けしている。

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マルガレーテンクーヘン 日本製 (1個)2,376円

定番のバウムクーヘンもさることながら、他も魅力的なアイテムが揃うのも<ホレンディッシェ・カカオシュトゥーべ>の支持が高い理由だ。

 

一口サイズのバウムシュピッツは、チョコレートと相性の良い杏ジャムが生地とチョコレートの間に挟まれており、一粒でも満足度が高い。小腹が空いた時に、食事の後の小菓子としても気が利いている。

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バウムシュピッツ 日本製(12個入)1,728円

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ブランデーバウムクーヘン 日本製(1個)2,592円

今年販売開始された新商品。男性でも気兼ねなく買える商品をと開発された。ブランデー入りだがアルコール感はなく、風味は長い。

 

実際に工場を訪れてみると、工場の名には似つかわしくない雰囲気で、中身は巨大な手作り工房だった。ドイツの定義を遵守した手作りの軌跡は、バウムクーヘンの断面の層をよく見てほしい。五線譜のように整った線には所々、ゆらぎがあるはずだ。そのゆらぎこそ、この菓子の職人技術継承の証なのである。

 

 

 

撮影・土佐麻理子  

文・柴田香織

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