2022.10.31 UP
酒粕の独特な香りとみりんの上品な甘さが魚介のおいしさを際立たせる<鈴波>の「魚介みりん粕漬」。銀だらに銀しゃけ、さわら、さば、ぶりetc.…。魚特有の匂いを感じさせず、まろやかな味わいは大人も子どもも、みんな好きな味。「魚が苦手だけど、これは好きという方は多いです」と営業部の外西勇二さん。それにしても、魚の切り身を酒粕に漬けた“粕漬け”はよくあるけれど、“みりん粕漬け”は珍しい。
名古屋市・栄駅から徒歩5分、名古屋市中区栄にある本店。伊勢丹新宿店では本店と同様の豊富な品揃え。
「<鈴波>の母体は、大和屋守口漬総本家という明治4年創業の漬物店なのですが、そこで贈答用の漬物として名古屋の名産である守口漬を扱っていて、魚介のみりん粕漬は、その守口漬の技術を魚介に応用して創案されたものです。」
守口漬とは世界一長い大根としてギネスブックにも登録されている、愛知県と岐阜県の一部で栽培されている守口大根を酒粕とみりん粕に漬け込んで熟成させた漬物だ。
また、もとより愛知県は発酵と醸造の文化が根付き、今でも味噌や醤油、みりんなど醸造業が盛んな土地。となれば当然、日本酒を造る際の副産物である酒粕、みりんを仕込む際に出るみりん粕も豊富にある。名産である守口大根と醸造業の繁栄を背景に、守口漬は愛知県の特産品になった。
「昭和60年ごろ<鈴波>は名古屋市中区でお土産贈答品をした漬物屋を開店したのですが、当時、漬物は塩分が多いと言われ始めたんです。そこで、健康志向に合った商品を開発しようと、魚介を酒粕とみりん粕を調合したものに漬け込んだ「魚介のみりん粕漬」の開発に取り掛かりました」
粕漬けの酒粕は、発酵によって増した旨み成分や栄養が豊富に含まれ、それらが魚に移って魚の臭みを取り、保存性も高める。みりん粕も酒粕同様、旨味成分や栄養分が多いほか、糖類が含まれ、砂糖よりも穏やかな甘みがある。健康イメージのあり魚と合わせることで、健康に貢献する商品になることは間違いなさそうと考えられた。
酒粕にみりん粕を加えた「鈴波」の粕。旨み成分と栄養がたっぷり。
「魚介に合う粕の選定や調合には相当の苦労があったようです。何度も粕の種類や配合の比率を変えたり、漬け込み時間を変えたり。試作と試食を繰り返しました。みりん粕の選定には特にこだわり、今は2種類をブレンドしています。ひとつは熟成されているので粕が柔らかく、甘みと香りが良い九重味淋の粕。もうひとつは若いけれど香りと色の良い白扇みりんの粕です」
かくして理想通りの味に仕上がった酒粕とみりん粕の調合の比率は、粕の出来具合によって変動はあるが極秘事項で、知っているのは工場長と副工場長、ほかに製造に関わるほんの数人だそう。
粕だけでなく、加工方法にもおいしくするための工夫が重ねられた。
「作業はほぼ手作業で行っています。魚を切り身にする作業は、すべて職人による手切りです。一般的に魚の切り身は国内でも海外でも機械でカットされていますが、<鈴波>では、一匹ずつ職人が色や鮮度を含め、品質をチェックしながら切り身にします。手切りは時間がかかりますが、味の面でも見た目でも機械切りとは差がつくんです」
魚は手切り。機械切りでは魚の繊維に沿って切ることができず焼いたときに縮んでしまう。
手切りのポイントは繊維に沿って切れること。機械は骨ごと鋭敏に切断してしまうが、手切りなら一匹ごとに骨を避け、繊維に沿って切ることができるのだ。また、機械で切った切り身は角度が鋭敏になり、滑らかな切り口にならない。焼くとその差は明らかになる。魚の繊維に沿って切った切り身は縮まず、ふっくらと焼き上がり、ほぐれるような食感になる。
また、切り身は一切れずつ不織布ガーゼで巻く。これは<鈴波>が考案したもので、手作業で行う。
切り身は一切れずつ不織布ガーゼで包み、たっぷりのみりん粕漬で挟む。
「不織布ガーゼ巻くのは、形崩れを防ぐ目的と、均一に粕に漬かるようにするためです。また、焼くときにも不織布ガーゼをはがすだけで余分な粕が簡単に取れるので、切り身を洗う必要がないので水っぽくならず風味も守られます」。
“手間”を重ねることは確実においしさに反映されるのだ。お店では、不織布ガーゼで巻かれた切り身は、一切れずつたっぷりの粕に挟まれ、パックして販売される。賞味期限は冷蔵保存で夏季12日間、冬季14日間だが、冷凍庫で1カ月の保存も可能だ。
銀だら みりん粕漬(1切)1,080円
脂ののった銀だらの厚切りを酒粕にみりん粕をブレンドした粕に漬け込み、まろやかな味わいに。
粕漬けや西京焼きなど、粕を使った魚を焼くのは焦がさず焼くのが難しいし、調理器が汚れて面倒、と思っている人は多いのでは。おいしく、簡単に焼くコツは?
「粕が切り身についていると焦げやすいんのですが、不織布ガーゼに包まれているので、剥がすだけで余分な粕が取れるので焦げにくい。一番簡単なのは、フライパンにクッキングシートを敷くと簡単です。さわらや鮭といった脂の少ない魚はこれでじゅうぶんおいしく焼き上がります。ただ、銀だらなど脂の多い魚は、アルミホイルを敷いてグリルで焼くのがおすすめです。火加減は中火よりもちょっと弱いくらいでじっくりと。なるべく目を離さずに。焼き立ては本当に美味しいですよ」
おてみやげ詰め合せ(2袋入)1,512円。
さわらと銀しゃけのみりん粕漬の詰め合わせ。中火よりも少し弱火でじっくり焼くと香り高くふっくら焼き上がる。
魚の種類は定番が16種類で、ほかに季節の旬のものが出ることも。店頭には、自宅用なら好きな魚を1種類ずつ選ぶことができ、また、贈り物や手土産には、詰合せのセットもある。
外西さんのおすすめは? 「脂がのった魚なら銀だら、さっぱりめならさわらですね。サバもウチのなら食べられるというお客さんが多いんですよ。どれもごはんのおかずに最高です」
お手土産 詰合せ(3切入)2,646円
人気の定番、銀だら、さわら、銀しゃけのみりん粕漬の詰め合わせ。
海山潤味(2瓶入)2,592円
「丹波黒豆」と「鮭茶漬」を瓶詰にした贈答用に人気のセット。
ふっくら炊き上げた「丹波黒豆」とキングサーモンを塩漬け後、焼いて調味した「鮭茶漬」。
本店のイートインの定食にセットされていて、「魚介のみりん粕漬」にも合うと「丹波黒豆」の瓶詰めも根強いファンが多い。さっぱりとした味わいで幅広い年代に愛されているので、手土産としてもおすすめだ。
文・大塚明子