<梅林堂> とろけるようなふっくら加減。“梅の民”が手がける高級梅干し。

2022.10.31 UP

「梅干しといえばしょっぱいもの」という固定観念をくつがえし、甘い梅干しや減塩の梅干しの魅力を伝えてきた<梅林堂>。その看板商品「梅心」は、どのようにつくられているのだろうか?世界農業遺産にも認定された南高梅の里、田辺市石神地区を訪ねる。

このページをシェアする

ph

急斜面の山々と、尾根の先には真っ青な海。和歌山県の紀伊田辺市にある石神地区は日本一の南高梅の産地として知られ、約400年の歴史を持つ。きっかけは、江戸時代に初代・紀州田辺藩主の安藤直次が梅栽培を奨励したこと。面積の90%が急斜面という一見酷な土地柄に思えるが、そのおかげで水捌けが良く梅の栽培に向いているという。加えて潮風と共に運ばれるミネラル分や燦々と降り注ぐ太陽の光によって土地が醸成され、梅栽培がこの地に暮らす人々の生業として根差していった。2015年には、国際連合食糧農業機関が認定する世界農業遺産に選ばれている。

 

store

梅の里として知られる紀州石神地区の田辺梅林。

「始まりは、和歌山のある梅干し製造会社から、甘い梅干しを提案されたことでした。当時は梅干しといえば酸っぱくてしょっぱいもの。店頭でお客さまに甘みのある梅干しのおいしさを伝えるのは苦労したようです」。そう話すのは紀州梅干し専門のブランド<梅林堂>の営業課長・竹中功さんだ。<梅林堂>はべったら漬けの製造で有名な<天長商店>による梅干し専門ブランド。甘い梅干しというアイデアに興味を持った当時の<天長商店>のメンバーは、梅干しの固定観念を変えようと伊勢丹新宿店の店頭でお客さまへ試食をすすめ、やがて量り売りを開始した。昭和58年にブランド化。現在は約10種類のラインナップが揃う。その商品づくりの根底には、漬物にも通ずる「保存食というイメージを変え、欠かせない副菜の一つとして食卓に置いてもらえるようにしたい」という思いがある。

 

 

store

「梅心」 撰(450g) 3,240円  ※塩分7% 

<梅林堂>では、全ての梅干しが紀州の南高梅を使用している。看板商品は、塩分約7%の「梅心」。上品な酸味と梅のコクが詰まった贅沢な一品だ。塩分約20%の梅干しを塩抜きして、25度程度の温度管理を保った調味液に漬けることで、減塩でありながらも保存目的に使用する添加物を最小限に止めることに成功した。

 

「ただ甘いだけでなく、梅のコクや旨味をもっと出したいと考えるうちに思いついたのが梅酢を使うことだったんです。梅酢は梅を塩漬けした時にでる水分ですが、地元では農家のおばあちゃんたちが調理に使ったりしていたのでもともと興味がありました。電気透析機で塩分を抜いた梅酢を調味液に使うことで旨味を強くできるのでは?と考えました。数ミリ単位で何度も試行錯誤を重ねて、1年かけて『梅心』が完成しました」。開発秘話を教えてくれたのは、「梅心」を手がける統括部長の井瀬陽介さんだ。薄皮でふっくらしてとろけるような果肉がたまらない看板商品は贈答用としても親しまれている。

 

 

“梅の民”たちが梅干し作りにかける思い

田辺市石神地区にある梅干し製造会社の株式会社濱田は、2022年で創業35周年を迎える。社長の濱田洋さんは、梅農家に生まれ育った後、現在の会社を起業した。梅干し製造会社としては珍しく広大な自社畑の広さはなんと24ヘクタール。東京ドームの野球場で換算すると18個分の広さだという。「土づくりからお手元まで」を掲げ、自社では年間300トンほどの梅を栽培。近年、梅農家は後継者不足が課題となっており、中国から梅を輸入することで原料を確保し、梅干しを製造する会社も多い。しかし濱田では、石神地区の梅農家から仕入れる梅に、自社栽培にも力を入れることで量を確保。梅の産地・製造地として誇りを持ち、産地の未来に向けて尽力している。

 

 

store
store

6月の入梅の頃に収穫期を迎える。

「2月になると石神地区の山々は梅の花で真っ白になるんです。それはもう圧巻です。防除作業や網敷きを行ったあと、6月から7月にかけて梅の実の収穫が行われるのですが、これがもう大忙し」。収穫の時期が最大の繁忙期。というのも、木から熟して落ちた実はその日のうちに取る必要がある。すぐに選果して塩漬けしなければ、虫食いや傷みが生まれるため、時には23時まで梅の実を拾うこともある。

 

store

収穫は時間との戦い。

「良質な梅を育てるには土づくりも重要です。自社畑は山を切り開き1年間麦畑をして麦を刈り取り、土と混ぜ合わせました。それによって栄養のある土づくりを実現できました。年に3回肥やりを行うのですが、うちの畑ではバーグという木のチップに鶏糞、豚糞を混ぜ合わせて発酵させた自家製の発酵肥料を使っています」。

 

梅の木はストレスをかけることで、品質の良い実をつけるのだという。そのためには土づくりだけでなく考え抜かれた剪定も必須だ。剪定は、梅の実がちょうど葉っぱの下に隠れるようにする。木々の成長を想像し、10年後を見越した剪定には高い技術力が求められる。濱田ではたった3人で、その剪定作業を行う。

 

store

選果作業。

収穫した梅の実のサイズは、選果作業の際に5つに分けられるが、「梅心」は皮が柔らかくて傷が一つもないA級品を使用。収穫の際に傷がつかないよう、自社畑では木々のしたに雑草を自生させクッションの役割を持たせるなど工夫がされている。扱う南高梅は濱田で作られたものだけでなく、濱田へ届く梅農家の方々が手がけた梅干しの樽からもA級品を選別し「梅心」に使用するものを選んでいる。

 

store

塩漬け。

store

農家別に梅干しの容器がストックされている。

store

「株式会社濱田」のみなさん。

「梅心」は濱田の方々の“良い梅を作る”という志と、それに向けた厳しい眼差しから生まれたものだ。「天候に左右されながらも、土づくりから全てやっている。 “梅の民”として、梅とともに生きていると思っています」

store

梅道楽(80g)  648円(左) 

上質なはちみつをたっぷり使って梅の酸味をまろやかにした、お茶請けにぴったりなひと品。約4%と塩分がかなり控えめなため、年輩の方やお子さまなど幅広い世代にも楽しんでもらいたい。

香林梅(80g) 648円(右)

国産の赤紫蘇で漬けこんだ甘くない「香林梅」。塩分約12%なのでおにぎりやお茶漬けだけでなく、焼酎などに梅割りとして入れてみてもおいしい。昔ながらの梅干しが好きな方におすすめ。おかずとして食卓にも出したい。

 

 

「これまで『梅心』だけでなく、トマトの酸味を生かした梅干しやマンゴー果汁を加えた梅干しなども作ってきました。今後はバラのエッセンスを梅干しと掛け合わせたいなと想像を膨らませています。産地ともに梅干しの新たな可能性を探っていきたいですね」と<梅林堂>竹中さんは今後の夢を語る。産地との信頼関係が、梅干しの未来を創っていく。

 

 

撮影・米田真也 

文・小島知世

RECOMMEND

ブランドストーリーズ

レブレ[デリ エ ブーランジュリー]

レブレ[デリ エ ブーランジュリー]

桂新堂[甘の味]

桂新堂[甘の味]

青果[生鮮]

青果[生鮮]

CATEGORY

カテゴリー