2023.03.14 UP
左から、<repos by Pâtisserie ease ルポ バイ パティスリー イーズ>大山恵介さん <LA NOSTALGIE ラ・ノスタルジー>江藤英樹さん <Feuquiage フキアージュ>畠山和也さん <LIFENRI リフェンリ>清水佑紀さん <teal ティール>眞砂翔平さん 伊勢丹新宿店「カフェ エ シュクレ」バイヤー井上孝さん
井上 2000年代の第一次パティシエブームを経て、約20年。伊勢丹新宿店ではたくさんのパティシエの方々とお付き合いをさせていただいてきたのですが、その頃にパティシエを目指した皆さんは、1980年代生まれでほぼ同世代なんですよね。大山さんと清水さんは学校の同級生だとか?
清水 そうなんです。あと畠山さんとは約1年半<成城アルプス>で一緒に働いていたことがあり、眞砂さんが国内決勝まで進まれた「トップ・オブ・パティシエ・イン・アジア」は、僕も畠山さんと大山さんと3人で観に行きました。
眞砂 畠山さんは同じ<クリオロ>出身なんです。時期は被っていませんが。
江藤 僕はレストランパティシエが中心だったので少し系統が違いますが、眞砂さんとは3年前にパティシエユニット「sugar」でイベントを一緒にやりましたよね。
眞砂 それより前に、僕が<パスカル・ル・ガック東京>時代、「サロン・デュ・ショコラ」で江藤さんがデセールを作られている時に食べに行ったら、気づかれたのが最初ですよね(笑)。
大山 そのサロショで、僕は眞砂さんのエクレアを食べに行ってた(笑)。
眞砂 サロショはみんないるもんね。
井上 今日は昨年オープンしたばかりの<BANK>で撮影させていただきましたが、大山さんはどんなコンセプトで作られたんですか。
大山 <BANK>はベーカリーとビストロ、コーヒーバー&ショップ、フラワーショップが入った複合ショップです。<イーズ>で大事にしてきた、定番でも流行りでもない、曖昧だからこそ強い個性を“五感”で感じられる空間をこの街に作り、ここから伝統が根づく日本橋という街に新しい価値を提供していきたいと思っています。もともとパンを販売したいという気持ちはあって、いい物件があればと思っていたのですが、紹介されたのが約300坪という広大な敷地でした(笑)。
江藤 僕の場合は、<スガラボ>開業時期からシェフパティシエとして須賀洋介シェフと一緒に全国の生産者さんのもとへ足を運んでいたので、現在もいいお付き合いをさせていただいている生産者さんがたくさんいらっしゃる。そんな全国屈指の生産者さんたちが作る果物など、最高の素材をパフェなどのデザートに落とし込むことが、<ペイサージュ>の付加価値にあたるのかと思います。
井上 江藤さんのクリエーションと生産者の方々との繋がりを、サロショの時はイートインで提供していましたよね。それを、店頭で持ち帰りができるように表現していけたら…とご相談し、<ラ・ノスタルジー>のテイクアウトパフェを作っていただいたのがはじまりでした。
畠山 <フキアージュ>はシンプルな焼菓子が多いのですが、“焼きたて”での販売が一つの特徴です。今はオンラインでなんでもお取り寄せできる時代ですが、お店に行かないと買えない焼きたてでの販売が、付加価値になるんじゃないかなと、今のスタイルが完成しました。また、焼きたてを販売することで、通常の袋詰めやシール貼り、包装…という作業面が省略されるので、労働環境面での負担が削減されたのもすごく大きいですね。
清水 僕ら世代で一番の課題はやはり労働環境ですよね。僕はちょうど実店舗を探し中で、皆さんのコンセプトや空間作りの話はすごく参考になります。<LIFENRI>はLIFEとENRICHMENTを合わせた造語で、「日常を豊かに」という意味を込めて<リフェンリ>と名付けました。開業を意識したのがコロナ禍だったこともあり、自分も含め皆さんにとって、日常におけるお菓子のウェイトがとても大きいのを感じて、その“豊かな日常”を誰かと共有したくなるような店作りを考えています。
眞砂 <ティール>は大山さんと二人でスタートしたチョコレート&アイスクリームがコンセプトのお店なんですが、姉妹ブランドの<パティスリー イーズ>とともに、先日「Staff day」というイベントを開催しました。パティシエをやってる以上はお菓子を作りたいでしょうし、勤続年数の長いスタッフも増えてきて、何かしら彼、彼女たちのためになる発表の場を作りたくて。
井上 お客さまの反響がすごかったですよね! 僕も閉店間際に行ってあっさり入れるんだと思ってたら、すごい長蛇の列に並ぶことになって(笑)。
大山 <ティール>オープン時より並んでたんじゃないかな(笑)。メニューをパフェにしたのもお客さまにとって新鮮で良かったのかも。
眞砂 僕も含めて皆さんも下積み時代は、自分が作ったものなのに自分の名前が出ない…という歯がゆさがあったと思うので、スタッフのモチベーションが上がるきっかけにな
ってくれたら。
畠山 労働環境を整えるには、価格や売り上げなど経営面も安定させていかないと難しいところがありますよね。<フキアージュ>ではそういった労働環境の面からも、これまで「種類を絞って高品質なものを」というコンセプトをもとに、ケーキなどもそこまで複雑なものにしないよう作ってきたんですが、去年1年間、お客さまにたくさん来ていただいて第一段階の経営面などは安定してきたように思っています。そこで、次のステップとして、今後は少し手の込んだ生菓子や焼きたてのお菓子の種類を増やしたりと、幅を広げていこうと考えています。
清水 僕はオンライン中心に商品を販売したりポップアップ出店をしているので、今は<フキアージュ>の厨房を借りて商品作りをさせてもらっているのですが、畠山さんの職場は本当にそれを実現されてるのを感じます。正社員の離職率がほぼゼロですよね。
畠山 どうしても正社員を積極的に雇用していると、「製造」に入りたいのに人数的な“待ち”ができてしまって、販売に就いてもらっているスタッフもいるんですよね。なので、今後はちょっと違うコンセプトでカフェなども出店して、スタッフがきちんと製造に入れる場所も増やしていきたいというのが目標です。
井上 皆さんはSNSの投稿や商品の写真も自ら撮影されてますよね。
江藤 そうですね。出来たての商品を撮るうえで、シズル感などもなるべく一番いい状態で収めたいと考えると、自分で撮影した方が納得がいくんです。デザートでいうとエスプーマを絞った瞬間や、アイスクリームがクネル仕立ての状態など、瞬間、瞬間を収めるのって本当に難しいので、仕上げた時点で自分が撮らないと(笑)。
畠山 僕の場合はカメラが昔から趣味の一つでもあるんですが、元々勤めていた<クリオロ>で、オーナーの奥さまである愛さんが商品を撮って発信し、お客さまに知っていただくという方法をとっていたことに、すごく影響を受けていたので、いつか自分のお店でもやりたいと考えていました。意識してるのは店内で、なるべくお客さまがいない時間に撮ること。お客さまが見たことのない雰囲気の商品をお見せできて、より興味を持っていただけるのかなって思っています。レンズも一般的なものよりも長い135㎜のレンズを使って撮って、お客さまに「あれ?」「なんかちょっと違う」と新鮮に感じてもらえるようにしています。
眞砂 僕は安いカメラですが、最近は<ティール>のイートインスペースも人気なので、お客さまの視点で空気感が伝わるようにと、できるだけ自分も座って撮るようにしています。
井上 (すぐさまインスタグラムをチェック)ほんとですね! そういう細かなところにまで、セルフプロデュースが行き届いているんですね。
大山 僕も自分のカメラで撮って、スマホに飛ばしてupしています。
清水 皆さん…ご自分のカメラですよね。僕は畠山さんから借りている一眼レフカメラで(笑)。
畠山 貸しています(笑)。あと僕が撮った写真も<リフェンリ>のインスタグラムで何度か使われてます(笑)。
井上 どれだけ仲良いんですか(笑)。
清水 僕は綺麗に撮りすぎないというか、焼菓子なら砕いて散らかった写真とか、直感的においしそうと感じるような写真を撮るよう心がけています。
井上 皆さんとお話ししていると、それぞれが考える将来像も気になります。
大山 僕は将来的にお菓子を作っていくのは続けたいんですが、ずっとケーキ屋さんをやりたいというよりは、<BANK>のようなプロデュース業なども増やしていきたいと思っています。今だとインテリアや店舗開発などの案件でプロデュースすることも多いですし、お菓子を軸にほかの業界を繋ぐような役割でしょうか。<イーズ>や<ティール>と近いジャンルで全く異なる雰囲気というよりは、逆に異なるジャンルで近しいイメージを求められている場合などは、今後も積極的に受けていきたいですね。例えば<イーズ>のお客さま層が25〜35歳に対して、その層とは異なるさらに若めのお客さま層のブランドとコラボレーションすることで、<イーズ>を知ってもらうきっかけにもなる。そう考えると、今ってパティシエの働き方が、お菓子を作るだけじゃなくなってますよね。
眞砂 そうですよね。お店を作り、商品を作り、ある程度認知もされた…じゃあ、その先は? と、自分が何をしたいのかを考えることは多くなりました。今の日本橋兜町は<イーズ>や、ホテルと食の複合施設<k5>、ビストロ<Neki>ができて、以前は金融街で週末はがらんとしていた街に人が来るようになった。さらに<ティール>ができて、多い日は約1000人のお客さまが来てくれています。僕たちのクリエイティブでそんなにも大勢の人を呼べるということは、僕らの洋菓子で新たな文化を作れるんじゃないかと感じて、今後、自分たちができることがわかった気がしました。先輩の有名パティシエの方々が何十年も前に本格的なフランス菓子を日本で食べられるようにしてくださったように、僕たちなりのやり方で付加価値を考えたり文化を作っていけたらいいですよね。
若手実力派パティシエたちに共通するのは、お店以外での個々の活動や、スタッフの働く環境にも熱心なところ!
NEXT1 シェフ自ら撮影し、SNSで発信
江藤さんのカメラ(奥)と、畠山さんの135㎜の中望遠レンズ(手前)。SNS などで投稿されるスイーツ写真のほとんどは、シェフが自前のカメラで撮影しているそう。
NEXT2 若手シェフ同士で創るコラボイベント
<フキアージュ>畠山さん×<リフェンリ>清水さんが初めてコラボレーションした、2022年夏のデセールイベント。“ここでしか食べられない”デセールを披露。
NEXT3 Staff dayを設け、みんなが活躍できる環境作り
姉妹店である<パティスリー イーズ>と<ティール>では昨年1日限定の「Staff day」を開催。スタッフたちがテイクアウトパフェと焼菓子を発表し、大好評。
NEXT4 若手パティシエのユニット「sugar」
眞砂さん、大山さんをはじめ若手実力派パティシエでユニット「sugar」を結成。イベントなどを企画し、広く洋菓子の魅力を広めている。
※画像はイメージです。
写真 原 務 取材・文 藤井存希