2023.6.5 UP
梅雨の合間をぬってキャンプに出かけたいシーズンです。今回はアウトドアご飯の定番パエリアを伝授。お米バージョンとパスタバージョン(フィデウア)、両方試してみたいですね。
ちょっと人が集まる時やアウトドアでの締めに活躍するのが「パエリア(パエージャ)」です。スペイン料理を代表するアイコンですが、地域的にはカタルーニャからバレンシアにかけての地中海沿岸地方の食文化です。
作り方や理想とする仕上がりが地域によって異なるのもパエリアの特徴。例えば「ソフリート(味のベースになる炒めた香味野菜)を使うカタルーニャ」「使わないバレンシア」や「米を炒めるor炒めない」「おこげをつくるorつくらない」「水分を残す(カタルーニャスタイル)or残さない(バレンシア))」など、人によってさまざまなパエリアがあります。
今回は「基本のパエリア」の作り方をご紹介します。巷でよく見かけるパエリアにはムール貝やエビ、アサリなどの魚介類が入っていますが、パエリアは山の幸を使うのがクラシックなスタイル。定番は「鶏肉」と「モロッコいんげん」の2つで、風味付けにパプリカとサフランを使います。
レストランなどではオーブンでつくるのが一般的ですが、本来のパエリアは野外で薪をくべて料理するもの、という意見もあるので、今回はガスコンロだけで仕上げます。26cmのパエリア専用のフライパンでつくると雰囲気が出ますが、家庭でも作りやすいようにフッ素樹脂加工のフライパンで作ってみましょう。
基本のパエリア 3〜4人分
(材料)
米 150g
水 800ml
モロッコいんげん 1袋
玉ねぎ 25g
オリーブオイル 大さじ2
鶏手羽肉 5本(300g)
鶏もも肉 小1枚(200g程度)
パプリカパウダー 小さじ2
サフラン ひとつまみ
胡椒 適量
鶏ガラスープの素(顆粒) 小さじ1(好みで)
サフランは高価なので現地でも使わない人もいる食材。必ずしも入れる必要はありませんが、やはり少量加えると特別な香りが出ます。
鶏手羽は加熱後に食べやすくするために骨に沿って切り込みをいれ、鶏もも肉は4等分に切ります。パエリアでは肉に下味の塩をしないというセオリーもありますが、今回は事前に肉の1%重量の塩を振ります。鶏に下味をつけると味付けがかんたんだからです。
半量のオリーブオイルをひいた中火のフライパンで皮目を下にした鶏肉を並べます。皮目に焦げ目がつくまでじっくりと焼き、焼き色がついたら裏返し、反対側はさっと焼きましょう。鶏肉は一度、バットや皿などに取り出しておきます。
残りのオリーブオイルを足し、玉ねぎのみじん切りを弱火でしっとりするまで炒めます。
ここで加えるのがパプリカです。パプリカの色素であるカプサンチンは脂溶性、つまり油に溶ける性質があるので、この段階で加えます。混ぜながら軽く炒めるとパプリカのうま味も引き出されます。
鶏手羽を戻し、水、サフラン、顆粒の鶏ガラスープを加え、強火にかけます。サフランに含まれているのはカロチノイドではなくクロシンという色素。この色素は水溶性でかつては染料にも用いられてきました。パプリカは油で炒めて、サフランは水で出す。これがパエリアの基本です。
沸騰したら中火に落とし、生米を振り入れます。
フライパンを揺すると米が下に沈み、鶏肉が浮きます。
斜め2cmに切ったモロッコいんげんと鶏もも肉を加え、そのまま18分炊きます。
そのあいだにソースを準備しましょう。
アイオリソース
(材料)
マヨネーズ 30g
おろしにんにく 2g
牛乳 大さじ½
(作り方)
アイオリはにんにく風味のマヨネーズといった雰囲気のソース。本来の作り方はにんにくをすりつぶし、オリーブオイルを加えて乳化させたもの。マヨネーズをベースにすると現代的なスタイルで軽い味わいが特徴です。作り方はかんたんで、すべての材料を混ぜ合わせるだけです。
18分経過するとこんな状態。ここで胡椒を振って、鶏肉の味を引き立てます。水分が飛び、乾いた状態にしたい場合はこの後、高温のオーブンで表面を乾かすように焼きますが、今回は野外でつくるパエリアをイメージし、別の方法をとります。
火を止めて、蓋をして5分蒸らすのです。そもそもパエリアはラテン語で「蓋のない(pateo)」が由来といわれるので、本来のパエリアは蓋はしません。ただ、蓋をして蒸らす工程で米が余分な水分を吸い、ふっくらするので、今回は蓋をするアプローチを採用しています。蓋がなければアルミホイルで覆ってもかまいませんし、現地では濡らした新聞紙を被せて蒸らすこともあるそうです。
出来上がり。おこげをつくりたい場合は加減しながらさらに加熱してください。
好みでアイオリソースを添えてください。鶏肉とモロッコいんげんという比較的手に入りやすい材料でつくるパエリア。気軽な料理なので、意外とかんたんにつくれますが、味は抜群。鶏肉の出汁がしっかり効いた米としっかりと加熱したモロッコいんげんが新鮮なおいしさです。
日本ではパエリアといえば米のイメージがありますが、カタルーニャにはパスタを使ったフィデウアというパエリアもあります。こちらは細いパスタを使うので米よりも水加減がかんたんですし、加熱時間も短いのでさらにアウトドア向きかもしれません。
フィデウア 2人分
(材料)
フェデリーニまたはカッペリーニ 150g
玉ねぎ 25g
オリーブオイル 大さじ2
パプリカ 小さじ2
鰹と昆布の合わせ出汁 500ml
塩 ひとつまみ
スペインでは専用のフィデオ(フィデオス)というパスタが売られていますが、日本では手に入りやすいフェデリーニやカッペリーニで代用します。コツはパスタをしっかりと油で炒めてから煮込むこと。そうすることで香ばしい風味も出ますし、伸びづらくなります。ただ、この工程にコツがあり、炒めムラが出て、食感にばらつきが出るのがむずかしいところ。
そこで事前に油で揚げる方法をご紹介します。この調理法は日本にスペイン料理を伝えたジョゼップ・バラオナ・ビニェスシェフのスタイル。かんたんに食感が出やすくなる優れたアプローチです。まず、パスタを3cm〜4cmの長さに折っていきます。
180℃に熱した油でパスタを揚げます。
表面がうっすらと色づけばOKです。ザルなどに移し、キッチンペーパーにとり、油を切ります。この工程は事前に済ませておくこともできます。アウトドアでつくる場合は揚げたものを冷まし、ジッパー付きの袋などに入れて持ち込めばいいでしょう。
フライパンにオリーブオイルをひき、中火で玉ねぎのみじん切りを炒めましょう。
やはりパプリカを加え、色と風味を引き出します。
好みの出汁を注ぎ、揚げたパスタを加えます。
中火で沸騰させながら煮汁を煮詰めていきます。加熱時間は5分〜7分が目安です。火が強すぎると加熱時間が終わる前に煮汁がなくなってしまうことがあるので、その場合は湯を足して調整しましょう。
パスタが煮汁を吸いました。最後に焦げ目をつければパスタのパエリア、フィデウアの出来上がりです。
アイオリソースをかけるといいでしょう。
こんな風についた焦げ目がごちそうで「スペインの焼きそば」といった雰囲気の味です。そばめしのようにご飯を混ぜても楽しいかもしれません。今回はなにも具材を入れていませんが、肉や魚介、野菜などをのせることもあります。ただ、お米を忘れた漁師が船の上でつくった、という逸話もあるのでシンプルに仕上げるのがいい気もしますね。
Text & Photo Naoya Higuchi