2023.8.11 UP
「あったか〜いごはんに、錦松梅をふりかけて」と、落語家が華やかな有田焼の器を覗き込む。そんな懐かしいテレビコマーシャルを記憶している世代も少なくないだろう。佃煮ふりかけ「錦松梅」が商品として産声をあげたのは昭和7年(1932年)。以来、驚くべきことに同社は一品入魂の精神で、これのみで商いを続けている。社名であり商品名でもある「錦松梅」には、創業以来貫かれている伝統とプライドが込められているのだ。
<錦松梅>有田焼容器入(100g×2袋)5,500円
伊勢丹新宿店本館地下1階 粋の座・和特選
佃煮ふりかけ「錦松梅」で使われている材料は、鰹節、白胡麻、昆布きくらげ、松の実、椎茸。それらを醤油と砂糖で甘辛く炊き、しっとりとした独自の風味で仕上げるという至ってシンプルな作りなのだが、この佃煮ふりかけを「錦松梅」たらしめているのは、なんといっても鰹節だろう。使われている原料の鰹は鹿児島県枕崎産と静岡県焼津産の2種類の荒本節である。
「じっくり燻されて香り豊かな焼津産と、強火で燻して旨みをぎゅっと凝縮させた枕崎産。2種類をブレンドすることで、香りと旨みの独自のバランスを作り出しています」と、工場責任者の青木知弘さんが教えてくれる。まずはこれらの鰹節を丁寧に洗浄し、削り、乾燥させるところから「錦松梅」作りは始まるのだが、だしの香りに包まれた工場にはピカピカに掃除された機械が並んでいた。
四谷本店と同じ新宿区にある東京工場には、立派な「錦松梅」の文字が掲げられている。
エレベーターの扉には商標マークの鳳凰が。
「すべてが手作りだと想像される方が多いようで驚かれますが、現在はオートメーションで管理しています。工場内で使っている機械は『錦松梅』用に改良したもので、例えばこの乾燥機は静岡の製茶工場でお茶の葉を乾燥させるために使われているものを、鰹節用に特注したものなんです」と、青木さん。
さらに専用の削り機にもこだわりがあるそう。
「うちでは食感を良くするためにあえて3㎜の厚削りにしています。それをフレーク状に粉砕していきますが、粉砕機もお茶用の機械を改良したものになります。網目の大きさは『錦松梅サイズ』と呼んでいて、しっとりした食感に仕上げるのにベストの大きさです」
使われる鰹節は静岡県焼津産と鹿児島県枕崎産の2種類。
削り機に鰹節をセットする。1本1本チェックされながらコンベアを上って運ばれていく。
鰹節は専用削り機で3㎜に削られ、少し厚みのある花鰹になる。
乾燥にかけられた鰹節を「錦松梅サイズ」に粉砕する。
ここから作業は佳境に入る。細かく刻まれた椎茸ときくらげを、140㎏分作ることができる煮釜に入れ、砂糖と醤油で炊き上げていく。そこに「錦松梅サイズ」の鰹節、昆布、白胡麻を加えてさらに煮詰め、そのまま釜で一気に冷却。仕上げに松の実を加えて完成だ。釜の蓋が開き、出来たての「錦松梅」が姿を現すと、試食を勧められたバイヤー・長谷川豊康に思わず感嘆の笑みがあふれる。
「機械化には驚きましたが、大切なポイントはきちんと目で見極めてチェックされている。随所に細かなこだわりが詰まっているからこそ、創業以来『錦松梅』一本でやってこられたのだなと感激しました」
砂糖と醤油で材料を煮詰めた釜の中。松の実は仕上げに投入する。
本日3回目の釜揚げ。すべての材料が攪拌されて、釜の中から出来たての錦松梅が。
「長い年月販売していると、時代によって求められるニーズも変わってきます。近年は使いやすい小袋入りが好まれていますし、有田焼の器も季節の絵柄や用途に合ったものを毎年制作しています。ギフトとしても喜んでいただいていますし、容器にはコレクターの方がいるほどです。創業以来、一つのものを作り続けるこだわりとプライドが、我々を支えているのかもしれません」と、営業部長の佐藤晃一さん。
完成した錦松梅は品質を保つため袋に詰められる。
オリジナルの有田焼の器に詰めたら、いざ配送へ。
歴代有田焼のコレクションがずらり。
あったかいごはんはもちろん、パスタや卵焼きなど「錦松梅」を使ったアレンジレシピも発信する。毎日の食卓や贈り物に、今も昔も変わらない「錦松梅」を選ぶなら伊勢丹新宿店地下1階へ。
本店には鳳凰のロゴマーク柄の有田焼が。
写真:有賀 傑
取材・文:西野入智紗