キノコ料理4種を、タイプ別(香り・食感)状態別(生・冷凍)にレクチャー。 〜樋口直哉さんの『料理のツボ』〜

2023.9.15 UP

ヘルシーなイメージで香りも味わいも豊か。食卓に取り入れたいものの、実は扱い方に自信の持てない食材、キノコ。樋口流には、キノコは「野菜ではない」ことをまず理解し、「冷凍にも向いている」ようですよ。

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野菜売り場に行くとシイタケや舞茸、しめじ、えのきなど豊富なキノコが並んでいますが、キノコは「野菜」ではなく菌類。動物とも植物とも異なり、カビや酵母の仲間です。

 

専門的にいうと他にも要件があるようですが、基本的には

①  細胞壁を持つ真核生物である

②  基本構造が菌糸である

③  光合成ではなく、分解することで栄養を得る

 

という3つを満たしているものをキノコと呼びます。これらは料理の世界でも重要なポイント。例えばキノコは加熱することで細胞壁を壊し、酵素活性を促さなければ味が出ないので加熱が重要になってきます。(そもそもほとんどのキノコは生食できません)

 

また、キノコは光合成ではなく分解することで栄養を得るわけですが、収穫後も生き続けています。野菜室に入れておくと代謝が進み、4日も置いておくと細胞壁をつくるのに貯蔵エネルギーの半分を使い果たしてしまいます。そのため保存は4〜6℃、つまり冷蔵庫が正解です。

 

一方、冷蔵庫に入れると代謝は鈍るもののキノコから出る水分で表面が濡れて傷んでしまいます。実はキノコはほとんどが水分なのです。そのため、買ってきたらすぐにキッチンペーパーなどでくるんでからビニール袋などに入れるのがキホンです。

 

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今回、ご紹介するのは「舞茸」と「あわび茸」。キノコには食感を楽しむタイプ(キクラゲなど)味を楽しむタイプ(マッシュルーム、本しめじなど)香りを楽しむタイプ(トリュフなど)がありますが、舞茸やあわび茸は味よく、香りに優れ、食感に特徴がある、という三拍子揃った優等生です。

 

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まずはスープから始めましょう。

【舞茸のスープ】

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<材料> 2人分

舞茸 120g〜140g

水  400ml

塩昆布  10g

塩   ひとつまみ

 

<作り方>

きのこ類は一般的に乾熱でゆっくりと加熱することで風味が最も強くなります。酵素が失活する前にある程度働きますし、水分が蒸発してアミノ酸、糖、香りが凝縮するからです。

 

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そこでステンレス鍋にキノコを並べ、中火にかけて水分を飛ばしていきます。油も引かなくて大丈夫。この工程で味が凝縮します。

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しばらく加熱し、裏返して焦げ目がついていたらOK。

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水400mlを加えます。

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鍋底についた焦げ目を耐熱ゴムベラや木べらでこすって、うま味を溶かし込みます。今回は短時間の加熱ですが、キノコの細胞を構成しているのは野菜と違ってキチンやセルロースなので、長時間煮込んでも煮崩れしないことは覚えておいていいでしょう。

 

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塩昆布を入れて、味を確認します。塩気が足りなければひとつまみの塩を足しますが、塩昆布に塩気があるので入れすぎには注意してください。簡単ですが舞茸の食感とうま味が生きたスープです。

 

続いてはあわび茸です。あわび茸には黒あわび茸やバイリング(エリンギに似た品種)など様々な種類がありますが、今回はヒマラヤヒラタケを使います。ヒマラヤヒラタケの特徴はなんといってもうま味成分。

 

基本のバターソテーの仕方。

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出汁が出るキノコでシコシコとした食感も魅力なので、最初に試してほしい料理はバターソテーです。

 

 

【あわび茸(ヒマラヤヒラタケ)のバターソテー】

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<材料> 2人分

あわび茸(ヒマラヤヒラタケ) 100g〜120g
オリーブオイル        小さじ1

バター(有塩)        5g
しょう油           小さじ1/2

 

バターソテーのコツははじめからバターで焼かずに最後に加えること。バターの香りは揮発性のため、仕上げに加えることで風味が生きます。

 

<作り方>

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フライパンにオリーブオイルをひき、キノコを並べてから中火にかけます。

 

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このくらいしっかりとした焦げ目がつくまで加熱するのがおいしさの秘訣。キノコは野菜ではなく、肉や魚を料理する感覚で料理してみてください。焦げ色がついたら裏返し、火を弱火に落とします。

 

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裏返したらバターを加え、風味をつけます。

 

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バターが溶けたところに少量のしょう油を垂らし、塩味と風味をつけます。鍋を揺すってキノコ全体に溶かしバターとしょう油を絡めたら出来上がりです。焼き立てのキノコは肉や魚に負けないような満足感があり、ベジタリアンの人がメイン料理として食べるのも納得の味です。

 

冷凍したキノコで料理

 

さて、キノコ料理を2種類ご紹介しましたが、どちらも1パックの半量しか使っていません。そう、キノコは一度買うと「なかなか使い切れない……」という問題も結構あります。そこでオススメするのが「冷凍」です。

 

ほとんどのキノコは冷凍することができます。食感は若干落ちますが、代わりに冷凍→解凍することで細胞壁が壊れ、酵素反応が進みやすくなるのでうま味は出やすくなります。

 

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使いやすいサイズに手で裂いて、ジッパー付きのビニール袋に入れたら冷凍庫へ。調理する場合は自然解凍すると食感が弱くなるので、凍ったまま加熱するのがキホンです。こんな風に冷凍したキノコは出汁が出やすくなるので、今日は温かいつけそばにしてみましょう。

 

【きのこそば】

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<材料>    2人分

乾そば            2束

豚バラ薄切り肉        60g〜80g

あわび茸(ヒマラヤヒラタケ) 100g〜120g

合わせ出汁          300ml

しょう油           40ml
みりん            50ml
長ネギ            10cm分

 

<作り方>

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つけ汁を作っていきます。鍋に合わせ出汁、しょう油、みりん、5cmくらいの長さに切った豚バラ薄切り肉、冷凍キノコを入れて、中火にかけます。沸騰してきたら弱火で落として5分煮ます。

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仕上げに長ネギの小口切りを加えれば出来上がりです。そばは袋の表示時間に従って茹でてください。冷たいそばを熱々の汁にくぐらせて食べるつけそばです。好みでラー油や七味、粉山椒を加えてもいいでしょう。

 

さて、舞茸の残りも冷凍しておきましょう。

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舞茸はみじん切りにして、冷凍するのがオススメ。こうしておけばミートソースやキーマカレーといったひき肉系の料理を作るときの味の補強に役に立ちます。

 

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今回は舞茸のクリームパスタにしてみましょう。

 

【舞茸のクリームパスタ】
<材料> 2人分

キタッラ    160g(又はスパゲッティ)
冷凍舞茸    140g

にんにく    1片

オリーブオイル 大さじ1

生クリーム   100ml(乳脂肪分35%)

パルミジャーノチーズ 好みで


<作り方>

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フライパンにオリーブオイルとにんにくのみじん切りを入れ、中火にかけます。

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にんにくからふつふつと泡が立ち、いい匂いがしてきたら冷凍舞茸を加えて、混ぜながらさらに炒めます。

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舞茸から水気が出るので火加減は中火のままで大丈夫。ここでよく炒めて水分を飛ばし、味を凝縮させるのがポイント。炒め終わりの目安がわかりづらいですが、パチパチとキノコが弾けてきたら火を弱火に落とし、さらに5分ほど炒めればいいでしょう。このぐらいのタイミングで袋の表示時間を参考にパスタを茹ではじめます。茹でる湯の塩分濃度は1.2%(1lに対して塩12g)です。

 

今回はキタッラという断面が四角く、太めのパスタを使っていますが、好みのパスタで構いません。

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生クリームで伸ばし、塩少々(小さじ1/8)で味を整えます。

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ひと煮立ちしたらOK。クリーム系のパスタのコツは、生クリームを煮詰めないこと。あまり濃度をつけずに仕上げで調整するようにしましょう。

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茹で上がったパスタを絡めます。ここでソースの濃度が足りないようであれば湯またはパスタの茹で汁で調整します。

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皿に盛り付け、好みでパルミジャーノチーズを振ってもいいでしょう。舞茸のパスタはマッシュルームを使ったそれよりもあっさり目で食べやすい味。生クリームの代わりにバターと牛乳を使ってもよく、舞茸を冷凍しておけばいつでもつくれる手軽な料理です。

 

冷凍キノコの保存期間は一ヶ月位が目安。2ヶ月冷凍しても味に大きく影響は出ませんが、早めに使っていくように意識しないと冷凍庫が物置のようになってしまいます。 冷凍は保存ではなく効率的に味を引き出す調理の一工程と捉えて計画的に使い切りましょう。

 

 

Text & Photo Naoya Higuchi

 

 

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