“ホクホク系”も“ネットリ系”も、イモそれぞれにおいしいスイートポテト。 ―樋口直哉さんの『料理のツボ』―

2023.10.13 UP

ようやく秋の兆しが見え始めました。永遠の人気者、さつまいもを今年も深掘りしてみましょう。スイートポテトはシンプルにして、素材の品種で食感や味わいも変わる楽しいスイーツです。

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秋から冬にかけて旬を迎えるさつまいも。最近はさつまいもスイーツだけを集めたイベントも開催されるほど人気です。今日はさつまいもスイーツの基本中の基本。スイートポテトを作ってみましょう。

 

じゃがいもに男爵=粉質(ホクホク系)メイクイーン=粘質(しっとり系)があるように、さつまいもの品種も大きく2つに分けられます。以前、『“ホクホク系”サツマイモでおかずもおやつも作ろう!』という記事でも説明しましたが「安納芋」や「べにはるか」といった品種は水分が多く、ねっとりした口当たりと強い甘みが特徴の粘質系。時間が経って、冷めてもかたくならないので、スーパーの焼き芋コーナーでよく見かけます。

 

一方、昔から人気があるのが「ベニアズマ」や「なると金時」などの粉質の品種は、加熱してもある程度デンプンが残るので、ホクホク食感が味わえます。デンプンが多い分、揚げればカリッとした食感になるので大学いもに向いていますし、天ぷらにも向いている品種です。

スイートポテトはお菓子作りの基本です。

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さて、スイートポテトにはどちらの品種が向いているでしょうか? じつはどちらでも大丈夫。粘質のさつまいもを使えば甘みを生かした今どきのスイーツのような仕上がりになりますし、粉質を使うと昔ながらの懐かしい味わいになります。今日は加賀伝統野菜の一つ、五郎島金時で使ってみましょう。

 

スイートポテト

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<材料> 4人分

さつまいも    500g
バター(有塩)  30g
砂糖       20g

卵黄       1個分
ブランデー    大さじ1(好みで)  

つや出し用の卵黄 1個

 

五郎島金時は昔ながらのさっぱり系のさつまいも。現代の品種と比べると甘みが少ないのでじっくりと加熱する必要があります。ゆっくりと加熱することで酵素によってデンプンが糖に分解されるからです。

 

まずはオーブンを190℃に予熱しておきましょう。

 

 

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さつまいもは水でよく洗い、ねじったアルミホイルを天板に置いた上に並べます。アルミホイルを敷くことで焦げ付きが防げます。オーブンで30分焼きましょう。

 

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バターを常温に戻し、やわらかくしておきます。砂糖も計量しておきましょう。

 

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竹串や金串が抵抗なく刺されば焼き上がりです。串が刺さらないようであれば5分、10分と加熱時間を伸ばしましょう。

 

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焼き芋2本は半分に切り、スプーンなどを使って、皮の内側を2〜3mmほど残すようにして中身をくり抜きます。この後、器に使うので皮を傷つけないように注意しましょう。残りの2本は皮を剥き、適当な大きさに切って、同じボウルにあわせます。

 

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バターと砂糖を加え、泡だて器で潰していきます。丁寧につくるのであれば裏ごししてもいいですが、今回はさつまいもの粒感が残った素朴な仕上がりを目指します。イモ類や豆類のようにデンプンを含む食材は、冷めると硬くなり潰しにくくなるので、作業は手早く行いましょう。

 

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バターが入ったところで卵黄を加えます。

 

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ボウルのそこに押し付けるようにして、さらに混ぜていきましょう。ここで風味付けにブランデーを加えます。(お子様がいるご家庭は省略し、代わりに牛乳大さじ1を加えてください)

 

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さきほどくり抜いた皮にさつまいものペーストを詰めます。テーブルナイフなどを使って山形に成形しましょう。オーブンをもう一度190℃に予熱します。

 

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つや出し用の卵黄を刷毛で塗り、190℃のオーブンで12分程度焼きます。

 

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焼き上がり。ぜひ皮ごとお召し上がりください。2度焼いているので香ばしさが味わえるはずです。

 

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さつまいもペーストが余ったらさつまいもの形に整えて焼いてもいいでしょう。昔ながらのさつまいもを使うとあっさりとした味に仕上がるのが魅力で、冷蔵庫であれば2〜3日は保存できます。

 

スイートポテトはお菓子作りの基本です。小麦粉を使った生地と違い、失敗しづらいのが長所で、意外と簡単に懐かしい味わいが楽しめます。

 

 

 

さつまいもの現代的なレシピ提案。

かんたんな料理をもう一品、ご紹介します。昭和時代の定番料理の一つ「さつまいものレモン煮」を現代的にアレンジしました。

 

さつまいものレモン煮 

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<材料>2〜4人分

さつまいも 250g

ラカントS       30g
レモン汁  大さじ1

 

変更点は2つ。現代人の嗜好にあわせて甘みを抑えたこと、もうひとつは甘味として『ラカントS』という甘味料を使った点です。

 

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ラカントSは羅漢果(ラカンカ)という植物のエキスと「エリスリトール」という糖アルコールを配合した甘味料。体内で吸収されない性質を持つ甘味料は最近、注目されている食材で、ラカントSは砂糖と同程度の甘さなのでほとんど同じ感覚で使えますし、もちろん、ラカントSがなければ同量の砂糖で代用できます。

 

甘味料は砂糖と違って後味に苦味やしつこさが残る弱点がありますが、レモンの酸味を加えることで抑えられます。甘さはありますが砂糖の特性はないためケーキに使うのは難しいですが、レモン煮のような料理には向いている食材です。

 

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材料には、なると金時を使いました。さつまいもは和食の世界ではそれを名産にしていた薩摩藩の藩主、島津家の家紋(◯に十)にちなみ「丸十」と呼ばれ、丸十の蜜煮やレモン煮はあしらい(焼き魚などに添えられる付け合せ)の定番です。

 

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丸十というくらいですからなるべく煮崩れを防ぎ、丸く煮たいもの。皮に傷があるとそこから破けて煮崩れるので、さつまいも選びが重要です。なるべく表面がきれいなさつまいもを選び、水で洗ってから両端の乾いている部分を切り落とし、1.2mm幅にスライスします。

 

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水で表面を洗ったら準備完了。

 

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小鍋に水気を切ったさつまいもを入れ、水300mlを注ぎ、中火にかけます。沸いてきたら弱火に落とし、静かに10分煮ます。茹でるときに弱火で加熱し、60℃〜70℃の温度帯をなるべく長くとれば、細胞間の結合が強くなるので、その後デンプンに火が入る90℃以上で加熱する際に煮崩れにくくなります。

 

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10分経ったら火が通ったかをたしかめてから、甘みとレモン汁を加えます。

 

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容器に移し、冷ましながら味を含ませれば出来上がりです。昔のさつまいもの蜜煮はさつまいもに火が通ったところに少しずつ砂糖を加え、しっかりとした甘みをつけたものでしたが、今回ご紹介したレモン煮は極めて淡い味わいで、さつまいもの自然な甘さを生かしたもの。甘さが贅沢とされていた時代もありましたが、運動量が減ってきた現代人にはこれくらいの味わいの料理もいいのではないでしょうか。

 

Text&Photo : Naoya Higuchi

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