2024.8.22 UP
ここ数年、夏になると話題に上がるのが冷やしラーメン。起源を遡ると1952年に山形県の蕎麦屋で生まれたという説、同時発生的に福島県でも提供されたという話もあります。いずれにせよ、高温多湿の日本の夏に対応するために考案されたメニューのようです。
冷やしラーメンとはなんぞや、という話は似た料理である冷やし中華と比較するとわかりやすいでしょう。冷やし中華は茹でて冷やした麺に錦糸卵やハム、きゅうりなどの具を並べ、酸味の効いたしょう油ベースのタレをかけたもの。一方の冷やしラーメンはタレではなく、たっぷりのスープを張り、酸味控えめの味です。
自作するのであればまずおいしいスープが必要ですが、温かいラーメンに使うような濃厚なスープは向きません。例えば鶏ガラをたくさん使ってとった出汁を冷やすと、ゼリー状に固まってしまうからです。つまり、冷たいスープの場合、うま味は必要なのですがゼラチン分は少なくする必要があります。そのために今回は骨がついていない鶏もも肉から出汁をとります。
ラーメンのポイントである油脂にも注意が必要です。油脂はラーメンの味わいに濃厚さを与えてくれますが、動物性は脂は冷やすと固まってしまうので、植物性の油を使うのがいいでしょう。ネギやにんにく、生姜などを加熱し、冷やした香味油を浮かべるのがおいしいですが、今回は簡略化して、市販のごま油を加えました。一口目でおいしい、という味わいではなく、夏場の疲れた体を癒やしてくれる滋味を目指します。
◾️冷やしラーメン
<材料>2人分
鶏もも肉 1枚(250〜300g)
水 700ml
しょう油 50ml
みりん 40ml
生中華麺 2玉
鶏の煮汁 500ml
白たまり 40ml(または薄口醤油)
みりん 20ml
ごま油 大さじ1
米酢 小さじ1
トマト 1個
かいわれ大根 1パック
<作り方>
今回は味の濃い鶏(名古屋コーチン)から出汁をとります。スーパーで売っているような若鶏を使う場合は顆粒のガラスープを小さじ1ほど加えて味を補ってください。
日本では「鶏ガラスープ」という呼称が一般的なので意外かもしれませんが、味は肉、脂は皮や骨髄から、ゼラチンは関節から抽出されます。鶏ガラがだしの材料として使われるのは安価だからで、味は主に鶏ガラの首などに残っている肉から出ています。最近の高級ラーメン店が鶏ガラではなく丸鶏からスープをとっているのはそのためです。
鶏もも肉に分量の水を入れ、中火にかけます。沸いてきたら弱火に落とし20分加熱しましょう。この時、鶏肉が水から出ていると乾いて硬くなってしまうので、キッチンペーパーを落し蓋にすると安心です。
鶏もも肉からは出汁が出てしまいますが、味はまだ残っているので鶏チャーシューとして利用します。しょう油とみりんをあわせて600wの電子レンジに1分かけ、アルコール分を飛ばしたタレに鶏もも肉を1時間以上漬け込みましょう。
煮汁の量を計ります。煮汁が多い場合は強火で煮詰め、少ない場合は水を足して500mlに調整します。冷蔵庫で冷やしましょう。
スープに味をつけていきます。脂がたくさん浮いている場合は取り除きますが、地鶏の場合はそのまま使えるはずです。
今回の秘密兵器がこの『三河しろたまり』です。しろたまりは白醤油の一種。大豆を使っていないのでJAS分類上はしょう油ではありませんが、白醤油と同じように使えます。薄口醤油でもいいのですが、白醤油を使うと塩ラーメン風の仕上がりになります。みりんはそのまま加えていますが、アルコール分が気になる場合は600wのレンジで30秒ほど加熱してから加えてください。
仕上げにごま油大さじ1で風味をつけ、酢で味の輪郭を出します。加える酢はごく少量なので酸っぱくはなりませんが、酢を加えることで上品な印象になります。これでスープの出来上がり。
具材を切りましょう。トマトとかいわれ大根を用意しましたが、きゅうりの千切りなどもよくあいます。
鶏チャーシューをスライスします。冷やしておくと切りやすいです。スープがあっさりしている分、鶏チャーシューのうま味が重要です。
袋に表記されている茹で時間は30秒ですが、冷やして食べるので1分長め、1分30秒茹でます。
沸騰している湯に生中華麺を入れ、かき混ぜてほぐします。弱火に落とし、吹きこぼれないように注意。
流水にとって麺を冷やしつつ、表面をよく洗います。
ラーメン鉢にスープに張り、冷やした麺を盛ります。
具材をたっぷり載せたら出来上がり。好みで胡椒などを振ってもよく合います。冷やしラーメンはさっぱりしていてしみじみとおいしい味。もともとは山形県や福島県などの郷土料理であることは冒頭で触れましたが、年々暑くなる日本。今後は日本中のラーメン店で提供される可能性を秘めたメニューでは、と思います。
Text&Photo : Naoya Higuchi