【インタビュー】
私の「いただきます。」
フードエッセイスト 平野紗季子さん

フードエッセイスト 平野紗季子さん

ひらの・さきこ
1991年福岡県生まれ。国内外、有名・無名を問わず、おいしいものを探して食べ、感動を綴り続ける「ごはん狂」。その探究心と独特な表現で、女性誌等で人気に。著書に『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)。最新作は『私は散歩とごはんが好き(犬かよ)』(マガジンハウス)。

仕事でもプライベートでも、伊勢丹の食料品街へ頻繁に足を運び、徘徊しているという平野紗季子さん。人間の生きるエネルギーを感じながら、愛してやまない品々を手に取る喜び。その中でも特に深い愛を抱き続けるのが<中国飯店 富麗華>の「富麗華特製 黒酢の酢豚」、そして<日本橋 千疋屋総本店>の「バナナオムレット」です。

食料品街は、人間の生命力を感じる場所

富麗華特製 黒酢の酢豚

「どんな場所でも、パックを開けば名店の味が広がる」。お惣菜の中でも[富麗華特製 黒酢の酢豚]にはいつも感動してしまうという平野さん。

デパ地下の好きなところは、生命力にあふれているところ。デパートの中でも人が一番元気だなと感じる場所です。特に閉店まぎわ、店員さんやお客さんのエネルギーが最高潮の「祭りだ!」っていう雰囲気を感じるともう、ワクワクしちゃって。閉店まぎわにかかる音楽まで記憶しているくらい、あの空気が好きです。
伊勢丹の食料品街は仕事で通うこともありますし、プライベートでも月に1回は徘徊しています。好きなものはたくさんあるけれど、特別な思い入れがあるのが「富麗華特製 黒酢の酢豚」です。

日和らず、堂々とした酸味と歯ごたえがいい

富麗華特製 黒酢の酢豚

<中国飯店 富麗華>の人気商品、「富麗華特製 黒酢の酢豚」1パック 864円

※取扱い:伊勢丹新宿店本館地下1階=旨の膳

<中国飯店 富麗華>といえば、ミシュランの星も獲得している老舗中国料理の名店です。 その料理を、パックで持ち帰って家で食べられる。そんなありがたいことありますか。
狭い部屋だろうが、散らかっていようが、パックを開けさえすれば名店の味。まるで飛び出す絵本みたいに豪華なダイニングの風景まで広がります。
パンチのきいた黒酢の強い酸味、ガリリとした衣と、豚肉のしっかりした歯ごたえは、日和ることなく、堂々としていて、揺るぎない自信とインパクトを感じます。
家で食べるときは注意書きのとおりにチンしてそのまま。かしこまることなく、部屋着で無心に食べる私は、この素晴らしい料理を手中におさめた満足感に浸っています。

買った瞬間に食べたい。待っていられないんです

バナナオムレット

<日本橋 千疋屋総本店>の「バナナオムレット」1個 432円。平野さんはチョコクリームも好き

※取扱い:伊勢丹新宿店本館地下1階=カフェ エ シュクレ

伊勢丹を徘徊する楽しみを見出してから、虜になってしまったのが「日本橋 千疋屋総本店」の『バナナオムレット』です。
スポンジとホイップクリームとバナナ。それだけ。シンプルだけど究極の、そして最強のスリーピースが素晴らしいハーモニーをかき鳴らします。
買うと、その瞬間にもう食べたい。待っていられない。 いてもたってもいられずに、新宿三丁目駅のホームのベンチで頬張ってしまいます。

すべてがやわらかく、おおらか。癒やされます

バナナオムレット

フィルムを剥がして片手で食べられる手軽さ。普通のケーキではこうはいかない。とにかくストレスがない。すべてがやわらかく、おおらかで、何も考えず、ただ3つの素材の味だけを楽しむ。強い個性を押し出してくるのではなく、「私はこれでいいんです」という自信は、老舗だからこそ出せるものかもしれません。ただそこにいる、そっと寄り添ってくれるやさしさは、疲れ果てた私にとって癒やし以外の何ものでもありません。

窒息するほど頬張って多幸感を味わいたい

バナナオムレット

「こんなにシンプルでストレートなことができるのが老舗のすごさ」。フィルムに包まれた素朴なスタイルもたまらない。

私はそんなバナナオムレットを窒息するくらい口いっぱいに頬張りたい。そして多幸感に包まれたい。この多幸感がいつまで続くんだろうと実験したくて、5日連続で食べたことがありました。結果は、ずっと変わらずおいしかった。だって飽きる要素が何もないですから。
こんなに愛していても、食べ続けたらいつか飽きる日がくるのでしょうか。それなら、飽きた後の私たちの関係を見つけたい。それくらいの深い愛がバナナオムレットにはあります。

 

 

 

2020年3月取材撮影