【アクセサリー連載VOL.6】

ジュエリー造りにおいて大切にしていること、譲れないこと、貫いていることをデザイナー自身の言葉でご紹介してきたアクセサリー連載「美の哲学」。今回はブランドフィロソフィーを語っていただく番外編として、<Grosse/グロッセ>のグロッセジャパン代表、野田篤子さんにご登場いただきました。代表に就任する前から<グロッセ>のファンだったという野田さんだけに、ブランドの歴史、技術、理念についての語りには熱い想いが込められています。
<グロッセ>のコスチュームジュエリーの価値が理解され始めている

前職は国際線の客室乗務員だったという野田さん。滞在都市での楽しみがアクセサリー巡りで、「いろいろなアクセサリーを買いましたが愛用ブランドのひとつが<グロッセ>でした」と、代表就任以前からのブランドへの愛を語ります。2021年は代表として25年目を迎える節目の年。「近年は<グロッセ>の真価を理解してくださるお客さまが増えてきました」と話します。ドイツで創業した<グロッセ>は2022年に115年周年を迎える歴史あるブランド。一般的なコスチューム・ジュエリーは数カ月もすれば色褪せるものが多いのですが、美しい輝きが長年続くのが<グロッセ>の大きな特徴。「最初はその違いをお客さまにご理解していただくことが大変でした」と野田さん。常に高感度でおしゃれなジュエリーということで「ハイファッションジュエリー」と呼んだり、価格帯はコスチュームジュエリーでも宝飾品のように輝きを保つことから両方の間を意味する「ブリッジ・ジュエリー」という表現をしたり、ブランドの価値を伝えるための試行錯誤もあったといいます。「現在では何十年も愛用しているというお客さまも増え、ここ数年で<グロッセ>のコスチュームジュエリーの立ち位置が明確になってきました」と話してくれました。
職人の妥協なき美意識の高さが生み出す「ミュージアムクオリティ」

「初めから色褪せない輝きのジュエリーを作ろうと思っていたわけでないんだよ。良いものを作ろうと一生懸命やってきたら、なんで時が経っても色が変わっていないんだ?これはすごい!と気が付いたんだ」。これは野田さんがクリエイティブディレクターのマイケル・グロッセ氏から直接聞いたという<グロッセ>のモノ作りに懸けるひたむきさがよくわかるエピソード。マイケル氏が所有する<グロッセ>コレクションは20,000点を越すそうで、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館やNYのメトロポリタン美術館など世界的な美術館にも収蔵されています。<グロッセ>のコスチューム・ジュエリーが「ミュージアムクオリティ」とも評価されているのは「職人の美意識の高さにある」というのが野田さんの見解。「<グロッセ>の製作工程は大きく分けて型づくり、溶接、研磨、6層コーティング、最終仕上げと5段階がありますが、そのすべてが他とは一線を画す独自技法です」と伝承技法を守り続けていることこそが誇りだと語ります。機械化が多い研磨作業も<グロッセ>ではすべてが手作業。入り組んだ細かなデザインのジュエリーの場合はミリ単位の細いブラシを使って奥の奥まで磨きこむそうで「妥協を許さない職人のプライド、美意識の高さ」をいつも感じているそうです。なかでも「6層コーティング」は<グロッセ>ならではの技術だそうで、「きめが細かい肌の人はお化粧のりもよく、お化粧くずれもしにくいですよね。貴金属も同じなんです」とお化粧前の肌に例えて説明してくれました。きめ細かな面ができたところにしっかりと6層コーティングすることで、<グロッセ>のコスチューム・ジュエリーはファインジュエリー同様の色褪せない輝きが持続するのです。また<グロッセ>のジュエリーは6層コーティング技法により貴重な貴金属を表面にしか使用していないにもかかわらず見た目の美しさはもちろん、耐久性の点でもファインジュエリーと同等の価値を生み出しており、金やプラチナなどの限りある資源を守ることにつながることから「時代が求めるサステナブルジュエリー」とも表現されています。
<グロッセ>のコレクションはいつの時代も人を幸福で満たしてくれる

ある時代に名声を博したジュエリーからは、いつの時代でも美しいという究極の美の法則を感じることができます。<グロッセ>のアーカイブコレクションもこれに通じるものがあり、野田さんはそれを「不変の美」という言葉で表現してくれました。2019年にドイツのバウハウス100周年を記念して開催された<グロッセ>のパリコレでは、演出のひとつとして「不変の美」をテーマにアメリカを拠点に活躍するKentaro Kameyama氏の最先端の衣装に、<グロッセ>の歴代の名品を復刻したアーカイブコレクションを合わせて展開。

同時に会場には80年前のパリ万博で最高賞を受賞したブローチや30年代のアールデコジュエリー、50年代のエレガンスを極めたジュエリーなど、オリジナルも展示されました。「その変わらない輝きとファッション性の高さ、さらには寸分たがわず復刻している技術力の高さに多くの称賛の声をいただきました」とショー当時を振り返り、「良いものは時代を越えて美しい」そして「真に美しいものはいつの時代も人を幸福で満たしてくれる」ことを野田さん自身があらためて実感したそうです。
これからも世界を明るく前向きにしてくれるコスチュームジュエリーを

<グロッセ>のブランドフィロソフィーとは「幸せの循環」。「1907年のブランド創業時に作られた懐中時計のチェーンベルトは女性の髪で結ったものにジュエリーパーツを付けたものでした」。<グロッセ>が誕生した黒い森地方には古くから愛する人の髪で結ったものを持つと幸運になるというロマンチックな風習が根付いていたそうで、これに注目したのが初代のフロレンティーン・グロッセだったといいます。「懐中時計につけるチェーンベルトが斬新だと若者たちの間で流行し、ヨーロッパはもちろん、遠くインドまでその流行が伝わったのがブランド創業時のエピソード」という貴重なお話しを聞くこともできました。114年の歴史の中には世界大戦やスペイン風邪の流行、そして今回のコロナ禍など何度も困難が訪れたことがありましたが、それでも「すべての人に夢ときらめきを、そして幸せの循環を届けてきたのが<グロッセ>であり、美しいものは人を幸せにしますし、心をきらめかせて元気にしてくれます。だからこそ伊勢丹新宿店や銀座三越をはじめとする<グロッセ>のショップから、その熱い思いを発信していきたい」と語る野田さんの言葉には<グロッセ>を愛するからこその強い想いが込められていました。
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