
NM・RM・CM…このアルファベットにピンときた方は、かなりのシャンパーニュ通かもしれません。実はこれらのアルファベット2文字は、シャンパーニュの生産者の業務形態を表すもの。今回の記事では、その中でも近年注目を集めるRMにフォーカス。有楽町のフランス料理店「アピシウス」でシェフソムリエを務める情野博之氏に、生産者の種別で変わるシャンパーニュの特徴や選び方を教えていただきました。
1. NM・RM・CM…シャンパーニュの業態とは?
シャンパーニュ生産者にはさまざまな業態が存在しています。それぞれの業務形態を表す登録記号が2文字のアルファベットです。一般的に多く目にするNM・RMをはじめ、シャンパーニュの業態別登録記号7種をご紹介します。
【NM】
NMとは、ネゴシアン・マニピュラン(Negociant Manipulant)の略称。ブドウ栽培農家からブドウや果汁、原酒を買い付け、自社で醸造、調合、熟成させてシャンパーニュを製造する生産者のこと。自社畑で栽培したブドウを一部使用する場合もある。「モエ・エ・シャンドン」「ヴーヴ・クリコ」など、大手メゾンのほとんどが該当します。
【RM】
RMとは、レコルタン・マニピュラン(Recoltant Manipulant)の略称。自社畑でブドウを栽培・収穫し、醸造、瓶詰めまで一貫して行う小規模生産者のこと。著名な生産者には「ジャック・セロス」「エグリ・ウーリエ」などが挙げられます。
【CM】
CMとは、コーペラティヴ・マニピュラン(Coopertative Manipulant)の略称。生産者共同組合のこと。組合員であるブドウ栽培したブドウを組合が瓶詰めし、組合のブランドとして市場に出荷。「ニコラ・フィアット」「エステルラン」などが知られる。
【MA】
MAとは、マルク・ダシュトゥール(Marque d'Acheteur)の略称。顧客のリクエストにより造られたシャンパーニュのこと。「レストラン・トゥールダルジャン」「ペニンシュラホテル」など、レストランやホテル、百貨店、スーパーマーケット、著名人などがプライベートブランドとしてメゾンや協同組合に生産を委託する場合が多いです。
【RC】
RCとは、レコルタン・コーペラトゥール(Recoltant Cooperateur)の略称。協同組合から製造過程の原酒や完成したシャンパーニュを仕入れて自社ブランドとして販売するブドウ栽培業者兼協同組合員のこと。自社畑のブドウを使用して組合の醸造設備を使用する場合もRCとなります。
【SR】
SRとは、ソシエテ・ド・レコルタン(Societe de Recoltant)の略称。会員の畑で収穫されたブドウを使って共同でシャンパーニュを造るブドウ栽培業者団体のこと。
【ND】
NDとは、ネゴシアン・ディストリビュトゥール(Negociant Distributeur)の略称。他の生産者が瓶詰した完成品を購入し、自社ブランドで販売する小売業者のこと。
2. RMの歴史と特徴は?
もともとシャンパーニュではブドウの生産者とワインの生産者(ネゴシアン)は明確に分かれていましたが、1930年代の世界恐慌の際に経済的な理由でネゴシアンがブドウの購入を控える事態に。困った生産者が自らシャンパーニュを製造して販売するようになったことがRMの始まりです。
NMではさまざまな畑から買い付けたブドウや原酒をブレンド(アッサンブラージュ)して、各メゾンで定められた一定の味わいに調節する技術に強みがあります。たとえばシャンパーニュの帝王とも称される「クリュッグ」では300もの区画のブドウをブレンドしているといわれています。
一方RMで使用されるのは自社畑のブドウのみのため、土地の個性(テロワール)がダイレクトに感じられることが特徴です。少量生産ならではの丁寧な畑の管理とワイン造りで、個性豊かな味わいが楽しめます。
3. RMが注目されている理由は?
RMの最大の魅力は、やはりテロワールを如実に感じられることにあると思います。たとえば赤ワインの「ロマネ・コンティ」であれば、ブルゴーニュのヴォーヌ・ロマネ村にあるピノ・ノワール種の特級畑の味がするというのと同じく、シャンパーニュでも畑そのものの個性を味わうことができます。また新世代の台頭や革新的なスタイルで注目を集めているメゾンもあります。ただし生産量が少ないため、人気の生産者のシャンパーニュは入手困難となることも少なくありません。
4. RMの選び方は?
もともとシャンパーニュはブレンド技術などの“造り”の部分を重視するワインですが、RMの生産者は畑を重視しています。たとえばコート・デ・ブランのRM生産者「アグラパール」を訪れた際には最初に畑を案内されるなど、畑へのこだわりが強く感じられました。ただ売れればいいというだけでなく、サステナブルな畑作り、丁寧なワイン造りなど、メゾンのフィロソフィーに共感できるシャンパーニュを選んでみてはいかがでしょうか。
またシャンパーニュにはすっきりとした味わいを求めている方が多いので、コート・デ・ブランなどのエリアでシャルドネを中心としたRMから探してみるのもおすすめです。
5. RMの見分け方は?
シャンパーニュのボトルのラベルには、RMやNMなど2文字のアルファベットが必ず記載されています。ラベルの下部にかなり小さな文字で記載されて見辛い場合も多いのですが、根気強く探せば必ず見つかります。ぜひチェックしてみてください。
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情野博之(せいの ひろゆき)氏
アピシウス シェフソムリエ。第6回ポメリースカラシップ優勝、第3回全日本最優秀ソムリエコンクール第3位、2019年ゴ・エ・ミヨ ガイド「ソムリエ オブ ザ イヤー」受賞。
監修協力

【ワインプラスカレッジ】
2022年1月、広尾に開校したワインスクール。全くの初心者から、プロフェッショナルまで様々な方々が楽しめる講座があり、国内外のコンクールで活躍するトップソムリエはじめ、各ジャンルの専門家が講師を担当。これまでのワインスクールとは一線を画し、内装にもこだわったスクールで、通うこと自体が楽しみになる場所を目指しています。