知っておきたい「盆提灯」のこと
~飾る意味から制作工程まで~

「お盆」の時期は、多くの日本企業では夏休みとして長期休暇が設定されており、花火大会や夏祭りなどが続くシーズンです。本来、「お盆」とはご先祖さまの霊が帰ってきて家族と過ごし、戻っていくという、日本古来の心やさしい信仰から生まれた行事です。
「新盆・初盆」を迎えるお宅へ、親族や親しかった友人から故人への感謝の気持ちを託して贈る「盆提灯」。今回は、ご先祖さまを敬うお盆行事について、盆提灯の選び方や贈る意味に加え、制作の工程などもご紹介し、「どんな盆提灯を選べばいいの?」「いつ頃、どうやって飾るの?」という、皆さまからよくいただく疑問にお答えします。
1. 盆提灯にまつわる基礎知識(意味・種類・選び方・時期・飾り方・しまい方)

お盆の時期に提灯を飾る意味
お盆は、ご先祖さまの霊をお迎えし供養するための行事です。お盆の時期は、ご先祖さまが迷わず里帰りできるよう、“道しるべ”として家の仏壇に提灯の灯りを灯します。また、玄関に使う門提灯はご先祖さまが帰ってこられる時の目印と、初盆参りされるお客さまに対する目印でもあります。家紋入りの提灯であれば、より目印となります。
「初盆(新盆)」とは、故人となられて三十五日・四十九日の法要がなされた後に、初めて迎えるお盆のことです。はるか昔に亡くなったご先祖さまに比べ、つい最近まで家族の一員だった方に対しては追慕の気持ちが強く、特別にもてなしたいという心から、初盆の風習が始まったといわれています。
種類
大きく分けると、吊り下げタイプの「提灯」と、置き型タイプの「行灯(あんどん)」の2つに分類されます。「行灯」には、三本脚の「大内行灯」や、一年中インテリアとして飾れるようなデザインの「創作行灯」などがあります。時代の変化に伴い、提灯の形は変わりつつありますが、家族やご先祖さま、大切な人を想う心は今も昔も変わりません。
選び方
「サイズ」と「デザイン」をポイントに、お好みでお選びいただけます。地域によって飾るサイズはさまざまですが、仏壇や祭壇に合わせたサイズを選ぶのが良いでしょう。あまりに大きな提灯や反対に小さい提灯だと不釣り合いになってしまいます。古典的な提灯のデザインには大きな差はありませんので、火袋(紙・絹の部分)の絵柄をチェックし、故人が好きだった風景や花を選びましょう。コンパクトなサイズ、モダンなデザイン、インテリアとしてお部屋に馴染む創作行灯など、さまざまなタイプがありますので、お部屋の灯りとして探されるのも良いのではないでしょうか。
飾る時期
地域によって時期は異なりますが、お盆の入りより2週間ほど前から飾るのが良いとされています。ご先祖さまをどのような方法でお迎えするのかは、宗派・地方の風習などによって異なります。一般的には、13日に迎え火を焚き、16日に送り火を焚きます。各家庭では、“精霊棚”と呼ばれるご先祖さまをお迎えする場所を準備して、さまざまなお供えをします。
一般的なお盆の行事
- 7月1日(8月1日)
釜蓋(かまぶた)のついたち。精霊が里帰りするため旅立ち、提灯を飾り始めます。 - 7月7日(8月7日)
仏具やご先祖さまの霊に供える食器を洗って準備をする日。食器洗いが済んだらお墓掃除に出かけます。 - 7月13日(8月13日)
お盆の入り。“精霊棚”のお飾りをすませ、お墓参りに出かけます。迎え火を焚き、提灯に灯を入れ、ご先祖さまの精霊をお迎えします。 - 7月16日(8月16日)
お盆の明け、送り盆、ご先祖さまの霊が帰る日。送り火を焚いて、精霊を送り出します。
飾り方
仏壇・祭壇の左右に飾るのが基本です。天井から吊り下げる提灯と置き型行灯の上下セットで飾るのが一般的です。行灯はご先祖さまが家の仏壇に帰られる際の“道しるべ”ですので、一本ではなく、一対でご用意されるのが良いでしょう。最近は従来型のほかにも、お部屋のインテリアとして使える行灯もありますので、その地域の風習に合ったものだけでなく、お好みのデザインのものを選ぶことができます。
しまい方
地域によって時期は異なりますが、ご先祖さまがお帰りになり、お盆が明ける17日以降にしまいましょう。各部品を購入時の袋に入れ、元の箱に片づけるようにしましょう。台の汚れは乾いた柔らかい布で拭き、防虫剤を入れて湿気の少ない場所での保管がおすすめです。クローゼットの上棚や押入れの天袋などが良いでしょう。提灯は紙や木など自然由来のもので作られているものが多く、火袋(紙・絹の部分)は和紙や絹を糊を使って貼り合わせているため、長い間箱の中に入れたままにしていると、たとえ防虫剤を入れていても虫食いが起きたりすることもあります。年に一度は箱から出して状態を確認することが必要です。
2. どう違うの?「岐阜提灯」
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<岐阜提灯>三越特別企画品 春慶塗 209,000円
漆を生地の表面に重ねて、岐阜提灯伝統工芸士の絵付け(手描)、張師の職人が丹念な技で仕上げた春慶塗の行灯です。芙蓉の花の絵付けは岐阜提灯伝統工芸士の加藤 淳一氏によって描かれています。
「岐阜提灯」は、岐阜地方で作られている提灯です。300年以上の長い歴史を誇っており、1995年(平成7年)には、その技術力の高さが認められて、国の伝統工芸品に指定されました。岐阜提灯の特徴は、美濃地方で作られる良質の美濃紙や竹を材料に、秋の七草や花鳥、風景などの細やかな絵柄が描かれている点です。
材料となる美濃紙は、薄くて丈夫なことで昔から知られており、美濃紙それ自体も、国の伝統工芸品の指定を受けています。竹ヒゴはあくまで細く、紙はあくまで薄く、繊細で優美な形と絵柄があいまって、見る人に上品で清楚な印象を与える提灯です。
岐阜提灯は、「御所提灯」と呼ばれる、上からつりさげる卵型のものが代表的で、この御所提灯を指して「岐阜提灯」と呼ぶこともあります。そのほかにも、丸い形の「御殿丸」や、三本の脚が付いた据え置き型の「大内行灯」なども知られています。
岐阜提灯の制作工程

- ドウサ引き
材料となる和紙に、コシと艶を与えるため、にかわとミョウバンを水で煮込んだ「ドウサ」を塗って乾かします。ドウサを塗ることで、後に行う摺り込みの際の、顔料のにじみを防ぐ効果も得られます。白地に仕上げるもの以外は、この後に地色を塗ります(地色引き)。 - 摺り込み
「摺込師(すりこみし)」と呼ばれる職人が、火袋(ひぶくろ:提灯の紙を貼った卵型の部分)に貼る前の和紙に、絵柄を摺り込んでいく工程です。岐阜提灯の特徴のひとつにもなっています。
まず、絵師の原画をもとに輪郭用の版木を作り、輪郭部分を摺ります。次に色を付ける場所だけをくり抜いた型紙を作り、色を摺り込んでいきます。色の重ね方や接する部分などを考慮して、細かく何回にも分けて色を摺り込むため、その回数分だけ型紙を作ります。多いものでは100枚を数えることもあります。 - 口輪作り・手板作り
提灯の上下に付く丸い輪の部分(口輪)や、提灯をぶら下げるための板(手板)などを作ります。材料は、スギやヒノキなどです。「木地師」の仕事で、大内行灯の脚部なども作られます。 - 装飾
木地師が作った口輪や手板・脚などに、「蒔絵(まきえ)」や「盛り上げ」と言われる技法で装飾を施します。「盛り上げ」というのは、白い胡粉(ごふん)を重ねて菊などを描き、立体感を出す技法です。 - 提灯の型組み・ヒゴ巻き
提灯の形を作る工程です。まず、提灯の張り型を組み合わせて原型を作ります。次に、その張り型につけられた細かい溝に合わせて、竹ヒゴを螺旋状に巻いていきます。太さ1mmにも満たない竹ヒゴを均等の張り具合で巻いていくのは至難の業といわれます。 - 張り付け
まず、提灯が伸びきらないように、張り型の背の部分にそって、竹ヒゴに糸をかけていきます。貼られた紙が破れないようにする役割もあります。
次に、提灯の上下にそれぞれ竹ヒゴ4、5本分の幅で、「腰張り」といわれる補強用の薄紙を貼ります。そのあと、竹ヒゴに糊を塗り、摺り込みを行った紙を、張り型の一区画ずつ一枚置きに貼っていきます。一枚置きに貼るのは、模様の継ぎ目を合わせやすくするためです。一巡したら、残りの紙を模様に合わせながら貼っていきます。 - 継ぎ目切り
火袋に紙を一枚張るごとに、のりしろ以外の余計な部分を剃刀で慎重に切り取ります。紙と紙の継ぎ目部分が太いと、灯りにもムラができるので、継ぎ目をなるべく細く、1mm程度になるように細心の注意を払います。 - 提灯の型抜き
紙を貼った火袋を乾燥させたら、中の張り型を抜きます。火袋に、へらで丁寧に折り目をつけて注意深くたたみます。 - 絵付けおよび仕上げ
摺り込みで絵柄を付ける技法と異なり、無地の状態で仕上げられた火袋に手描きで絵を付ける技法です。日本画の技法が用いられますが、灯りを灯した時に透ける色の具合の加減が難しく、また、同じ柄を寸分違わずにいくつもの提灯に描かなければならないため、高度な技と経験を必要とします。最後に、口輪や手板・房などを取り付けて完成です。
※商品により、部材・工程の異なるものがございます。
3. どう違うの?「八女提灯」
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<八女提灯>銘木行灯 黒檀10号絹二重桐箱入 83,600円
三大唐木のひとつとされ、縞模様が美しく、硬く緻密な材質の黒檀を使用した行灯。絹と和紙の二重張りの火袋に芙蓉・桔梗・女郎花・萩など色鮮やかな花が手描きで描かれています。火袋の下についている玉香炉に入れる香袋が付属しています。
「八女提灯(やめちょうちん)」は、福岡県八女市周辺で作られている提灯です。特徴は、「一条螺旋式(いちじょうらせんしき)」のヒゴと、美しい彩色画が施された「火袋(ひぶくろ)」。一本のヒゴを、提灯の型に沿って螺旋状に巻く「一条螺旋式」は、現代の盆提灯の起源ともいわれています。
「八女提灯」の種類は、ご先祖さま供養のためにお盆の時期に仏壇などの前に飾る「盆提灯」が主流ですが、ほかにも円筒形で長細い「住吉」や、吊り下げ式で丸型の「御殿丸」、祭礼用や宣伝用の提灯など、3,000ほどの種類があります。
灯りを灯す部分である火袋には、薄手の「八女手漉き(やめてすき)和紙」や絹が用いられ、内部が透けるため「涼み提灯」とも称され全国的に知られています。八女提灯の制作には地元で生産される竹や和紙・木材が使われています。
八女提灯の制作工程

- ヒゴの準備
火袋の骨は、細い竹ヒゴまたは鉄線を螺旋状に巻きつけて制作します。材料となる長い竹ヒゴは、直径が約1mm以下の竹ヒゴを複数つなぎ合わせて作ります。 - 木型の組み立て
制作する提灯の大きさや形に合わせて、ヒゴを巻き付けるための木型を組み立てていきます。木型は「羽」と称される三日月のような形の板と、羽を固定する「円盤」により構成されており、通常必要な羽の枚数は8枚から16枚です。 - ヒゴ巻き
木型の上部と下部に、木型を固定するための「張り輪」をはめます。ヒゴの一端を木型上部の張り輪に固定した後、ヒゴが螺旋状になるように、羽の溝に沿って下部の張り輪まで巻き付けていきます。
ヒゴの巻き付けが完了したら、提灯の伸縮による紙の破損を抑制するために「掛け糸」を施します。糸は、ヒゴの上を上部の張り輪から下部の張り輪にかけて真っすぐに渡していき、糸の両端は上下の張り輪に留めます。 - 絹の張り付け
上部と下部それぞれの張り輪から、骨の4本か5本までの部分に絹を貼り付け、提灯の口の部分を補強しておきます。そして、掛け糸によって仕切られた各区間のヒゴに、刷毛でショウフ糊を塗り、絹を一区間おきに一枚ずつ少したるませながら充てがっていきます。 - 絹の継ぎ目切り
掛け糸の各区間の絹は、余分な部分を剃刀で切断し、隣と重なる継ぎ目の幅を狭く綺麗に揃えます。 - ドウサ引き
火袋の表面には、絵付け用の顔料がにじまないように「ドウサ」と呼ばれるゼラチンとミョウバンの水溶液を均一に塗ります。 - 型抜き
火袋を乾燥し終えたら、中で木型を分解しすべて抜き取ります。 - 絵付け
絵付け専門の職人「絵師」によって、火袋に直接絵が描かれます。この時、絵師は下書きを一切することなく、筆で絵を加えていきます。 - 木地づくり
ここでは加輪(がわ)と手板(ていた)の制作を解説します。
専門の職人「木地師」の手で板を曲げることにより、提灯の上部と下部に付けられる「加輪(がわ)」を制作します。さらに「ミシン鋸(のこぎり)」を使って、厚手の板から「手板(ていた)」を切り出し、ヤスリをかけて滑らかに仕上げます。絵付けされた火袋と装飾済みの加輪と手板が提灯屋に集められ、専門の職人により組み立てられた後、仕上げに房や金具が取りつけられます。
※商品により、部材・工程の異なるものがございます。
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6月5日(水)~8月5日(月)[最終日午後6時まで]
日本橋三越本店 本館7階 催物会場/盆提灯 電話03-3277-8990 直通
※6月4日(火)以前のお問い合わせ先
日本橋三越本店 本館5階 キッチン・生活雑貨 電話03-3225-8527 直通