フォトグラファー佐藤健寿に学ぶ、自分らしい写真の撮り方

フォトグラファー佐藤健寿に学ぶ、自分らしい写真の撮り方をご紹介。さまざまな選択肢がある時代だからこそ、こだわりのカメラを使って自分らしい撮り方で写真を楽しんでいただくことをご提案します。

アメリカ留学中にスタートしたカメラの道

佐藤さんがフォトグラファーとして活動しはじめるきかっけとなったのは、武蔵野美術大学卒業後にアメリカへ留学していた際のこと。もともと大学時代や留学中に撮影や動画の基礎を学び、課題撮影を兼ねて南米をはじめ各地に撮影に行っていたそう。

「当時はフィルムカメラからデジタルへと移り変わりはじめた時期。まだデジタルの性能が今ほどよくない時代だったこともあって、最初に手にしたカメラはキヤノンのEOS-3というフィルムカメラでした」。

しばらくしてデジタルの性能もよくなり、種類も増え、佐藤さんもキヤノンやソニーなどさまざまなデジタルカメラも使っていくようになります。そうしたタイミングに、アメリカのフリーマーケットでクラシカルなフィルムのLeicaを購入したのが、はじめて手にしたLeicaだったそう。

「時代がデジタルへと移行している中で、当時Leicaはレトロな趣味カメラのイメージも強かったように思います。でもその後2006年にLeicaが不可能と言われたデジタルM型機のM8を発表しました。僕もはじめは半信半疑でしたが、実際に買って撮影してみると、やっぱりLeicaって凄いな、と改めて実感して、愛用するようになっていきました」。

お守りのように持ち歩くのは、やっぱりLeica

「デジタルカメラの写真は、スマホに象徴されるように、くっきりはっきり映るというイメージ。ですがLeicaを使ってみたら、デジタル特有のコントラストがはっきりとした感じではなく、優しく柔らかい写真になる。それがLeicaならではであり、よさのひとつ」。
その理由は、Leicaが“科学”ではなく“美学”でものづくりをしているからだといいます。
「例えばレンズをつくる時に、多くのメーカーが数値で色味の加減や調整を行い、数学的にどれだけ”正確かどうか”という基準でつくるのに対し、Leicaはフィルムの時代から、実際につくったレンズで写真を撮って現像し、それを見ながら写真が正しいかどうかではなく、”美しいかどうか”を議論しながらつくっていたという話を読んだことがあります。なので、できあがるレンズは独自の美しさを提案し表現してくれるものになるのかなと思います」。

いまでは自動補正機能や撮影場面の自動認識など、性能の優れたカメラが増えているなか、Leicaはその機能の少なさ・シンプルさも、よさのひとつだといいます。「自動でモードを切り替えてくれたり、被写体を認識してくれる機能は、構えればすぐにシャッターを切れるという手軽な一面がある一方、誰が撮っても同じように映ってしまうつまらなさがあります。絞り・シャッタースピード・ピント、という3つを調整するのに多少の手間はありますが、純粋に写真を撮る楽しさを知り、失敗も含めて自分だけにしか撮れない撮影をするには、あえて機能を絞ったカメラを使ってもよいのかもしれません」。

もちろん、動画に強いカメラや防水に優れたもの、ドローンなど、さまざまなカメラを持って世界各地に飛び回る佐藤さん。ですが移動の多い旅のなかでは、荷物はできるだけコンパクトにしたいところ。そうした意味でも、機能を削りコンパクトに持ち運べるLeicaが重宝するのだそう。どんな撮影にも必ずといっていいほど持っているLeicaは、お守り代わりなのだとか。

愛用のLeicaで、街を切り取る

実際に、佐藤さん愛用のLeicaで撮影の仕方をレクチャーしてもらいました。

佐藤さんが現在愛用しているLeicaはM10-P (限定版のSafariモデル)。仕事柄、できるだけコンパクトなものを選んでいるという佐藤さん。持ってみると、手にフィットするグリップ感と重厚感を感じます。

撮り方はシンプル。まずは撮影する被写体をファインダー越しにのぞき、レンズの根元に近い部分にあるリングを回して、ピントを合わせます。被写体が止まっているものならオートのシャッタースピードで、動いているものなら手動でシャッタースピードを速くして、調整していきます。

被写体によっては、仕上がりが暗くなってしまうこともあるので、ファインダー横の露出補正を変え、露出を調整して撮影しましょう。 撮影するたびにピントを合わせていく手間はありますが、カメラを構えて1秒考えるか否かで写真の仕上がりはまったく異なるといいます。「自動でピントも露出も合わせてくれて、とりあえず押すだけで撮影できてしまうと、そこにオリジナリティや味はなかなか生まれてこない。Leicaの場合、ひとつひとつピントや露出、シャッタースピードを合わせなければならないので、その時間に”どういう風に撮るか”を一枚ごとに考えさせられる。それは現代の基準でいえば、不便と言われるかもしれませんが、実はそれこそがカメラを楽しむことなんじゃないか」と話してくださいました。

世界各地で撮影した作品。その撮影のコツとは?

次は、佐藤さんが実際に各地で撮影した写真をご紹介するとともに、その撮影のコツを伺います。

Photo : 佐藤健寿
カメラ:Leica Q
場所:2018年 ベトナム/ホイアン

Leica Q(28mm F1.7固定レンズ)で撮影された1枚。広角、暗所に対応できるレンズのため、旅にはサブカメラとしていつも持ち歩いているそうですが、時にメインカメラを超える画を出してくるのでハッとさせられることが多いのだとか。この作品のような景色の場合、通常は三脚を立てたり慎重にシャッターを切らないとブレてしまいますが、暗所に対応できるレンズのおかげで手持ちのまま撮影したのだそう。

「暗い場所でオート撮影をすると、カメラは被写体全体で調光して明るさの平均値をとるので、結果的に目で見ているよりもオーバー気味の露出になります。なので、無理して平均値を持ち上げないよう露出補正を下げて、目で見えている通り、暗い場所は暗いままに写して雰囲気をだしています」。

Photo : 佐藤健寿
カメラ:Leica SL
レンズ:Summilux-M 21mm f1.4
場所:キューバ

もう1枚は、劇場の廃墟で暮らしている人を訪ねた時に撮影した写真です。撮影の際、室内の写真だけ撮ろうとしたところ、そこにふと男性が飼っている犬が入り込んだそう。そのシルエットが家の主の暮らしぶりを象徴しているようにも見えたので、あえて犬が映り込んだ状態で撮影。通常広角になると、画面の手前から奥までピントが合った状態になるので画が固くなりがち。でも、Summilux開放(絞りを最大に開いた状態)の柔らかい描写のおかげで、前ボケになっている犬も、後ボケの窓も美しく、画全体のトーンがギスギスしない感じになり、また開放のおかげで周辺部がうっすらと暗くなっている部分も気に入っていると教えてくれました。

実はこうした動くものを撮影する際や、ピントがずれたりしたときに出てくる写真のボケもLeicaの味のひとつ。ピンボケした、アウトフォーカス部分が美しいと日本人が言いはじめたことで、海外でも“ボケにも美しさがある”という概念が浸透。いまではボケた部分の美しさを“Beautiful BOKEH(ビューティフル ボケ)”と言い表すこともあるのだとか。

なんとなくはじめたカメラ。でも今は手放せないパートナー

いまの時代、写真や動画で自分を表現する場が増えていることもあり、機能や精度の高いカメラを利用する人が多くなっています。被写体に合わせた自動補正機能をはじめ、さまざまな機能を備えたカメラは、誰もが簡単に美しい写真を撮影することができる手軽さが魅力。その反面、せっかく個性を表現できる場であるSNSなどには、機能に頼った写真が並んでいることも多いのではないでしょうか。撮ることを楽しみ、自分が素敵だと感じる画を見つけることで、アートとしての写真を楽しむこともできるはず。

今回お話を伺った佐藤さんも、“フォトグラファーになりたい”という目標で進んだ道ではなかったにせよ、20年以上も熱中させてくれるカメラという存在は、いまでは人生になくてはならないものだといいます。“奇妙なもの”を撮り続けるという、自身が撮りたいと思う画を見つけ、写真を楽しんでいるひとりなのではないでしょうか。

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