
刺繍作家として活躍する樋口愉美子さんが、手芸ブランド〈DMC/ディーエムシー〉とのコラボレーションにより新作のキットを発売します。今回は、その柔らかな世界観で多くのファンを魅了している樋口さんの“刺繍ライフ”について、暮らし方や考え方などを交えたお話を伺いました。
アトリエの様子
──「刺繍が生活の一部と化している」という樋口さん。ずばり“刺繍の一番の魅力”とは?
樋口:以前はハンドメイドのバッグを製作販売していました。そのなかで、刺繍の自由な表現に魅力を感じ、今に至ります。刺繍は世界中にあり、歴史も古く、それでいて針と糸と布さえあれば誰でもどこでも始められるというところが魅力ですね。
──樋口さんの作品は、標本や図鑑のようなフラットな表現でありながら、植物の瑞々しさや力強さ、動物のいきいきとした様子が伝わってきます。製作で意識されていること、大切にされていることは何でしょうか?
樋口: 写実的な細かな描写よりも、全体的な色や雰囲気、構図を重視しています。ワンポイント刺繍というよりは、パターンとして図案を考える方が好きです。たくさん刺繍した様子が好きなんです。
樋口さんがオーダーで制作した木箱(非売品)
──今回で第3弾になる〈DMC〉とのコラボレーションキット。〈DMC〉を使うようになったきっかけをお聞かせください。
樋口: 私が子供の頃、母も刺繍をしていたので、自宅には〈DMC〉の刺繍糸がほぼ全色揃っていました。それ以来、使っています。(写真の)木箱は、スタンダードトレードでオーダーした4段重ね。1段ずつ広げると全色見渡せて便利です。
──500色もの色展開がある刺繍糸から、作品に使用する色はどのように決めているのですか?
樋口: 必ず作品のテーマに合わせて色を選びます。冬だったら“冷たさ”を感じる色とか。布地の色も重要です。布地と相性を良くするために明度の調整もします。でも大抵は、実際に刺し始めないとわからないことが多いです。
新作の図案制作の様子
──今回の新作を製作するにあたり、こだわった点や苦労した点などを教えてください。
樋口: 図案が大きいので、かなりの枚数を描きました。円形の中に収まるよう、構図に時間をかけました。また、2種類それぞれを楽しんでいただけるよう、異なったデザインにしています。
新作キット製作の様子
左から〈DMC〉
刺繍キット YUMIKO HIGUCHI×DMC Yellow Wild Flowers 黄色い野花 6,380円 商品を見る
刺繍キット YUMIKO HIGUCHI×DMC Pink Garden ピンクの園 6,380円 商品を見る
──今回の新作ではウール糸を多く使われていますが、タペストリーウールの魅力はどのような点でしょうか?
樋口: 今回はウール糸の持つ“素朴で優しい風合い”や“ふっくらした様子”を伝えたくて作品を作りました。ウール糸と25番刺繍糸を組み合わせて強弱をつけることで、より立体感をアップさせています。また、ウール糸は通常の25番刺繍糸より太いため刺し数も少なく、ラクにふっくら刺せるんです。
反響の大きかったマスクの投稿(非売品)
──最近は“おうち時間”が長くなりました。刺繍はぴったりの趣味になると思いますが、これから刺繍を始めてみたい方へアドバイスはありますか?
樋口: よく刺繍を習いたいと相談されるのですが、刺繍は、針に糸を通し布に刺せば誰でも始められます。例えば、洋服の裾にまっすぐステッチを適当に刺していくだけでも楽しめるものです。刺繍はとても自由な表現方法です。ぜひ、暮らしの中に取り入れて豊かな生活を楽しんでいただきたいです。
──コロナ禍であらゆるスタイルが変わるなか、樋口さんの生活で“変わったこと”はありますか?
樋口: 生活スタイル自体は、以前とほぼ変わりがありませんが、自粛中にInstagramで製作した刺繍マスクを投稿したら、世界中から多くの反響があり驚きました。世界では、とても多くの方が刺繍に興味があるのだと嬉しくなり、励まされましたね。
──Instagramの投稿では、登場する道具まで素敵なものばかりで、樋口さんの生活スタイルや空気感に憧れるファンの方は多いと思います。日々の暮らしの中で大切にされていることは何ですか?
樋口: 我が家は夫婦ともに家で仕事をしていますので、なるべく家の中を居心地の良い空間にすることを心掛けています。ですから、生活をできるだけシンプルに。贅沢な洋服よりは、高価でもおいしい果物を、というふうに、毎日使うものにこそお金をかけたいと感じる今日この頃です。Instagramを始めて、写真を撮ることを意識しながら、でも無理のない“私たちらしい”生活空間を模索しています。
樋口さんの愛猫“ボナ”
──完成作品をSNSに投稿する方も多いと思います。樋口さんはいつも綺麗な写真を投稿されていますが、刺繍作品の撮影のコツはありますか?
樋口: SNSでは皆さん上手に撮られていますよね。私も日々研究中ですが、刺繍は平面的に撮影しがちなので、なるべく陰影をつけるように気を使っています。ややアップに撮ると迫力が出て素敵ですね。
──最後に、新作キットを購入された方に、楽しみ方などのアドバイスを!
樋口: 大きなキットですが、焦らずゆっくりと。製作する過程も楽しんでいただければと思います。ウール糸のふわふわした質感はとっても可愛いので、ぜひ完成させてください。

1975年生まれ。東京在住。多摩美術大学卒業後、ハンドメイドバッグデザイナーとして活動。刺繍の楽しさにのめり込み、2008年より刺繍作家として創作活動をスタート。SNSやホームページなどで数々の作品を発表し、著書を複数出版している。
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