接待との違いからスマートな振る舞いまで、会食のお作法をレクチャー

「マナー」をテーマに伊勢丹が編集する特集記事。マナーアドバイザーの山木理代さんに、お店の選び方から身だしなみ、お客さまへのお礼まで、さまざまなシーンで対応できる会食マナーの基本を伺いました。

年の瀬も近くなり、忘年会や暮れの宴席の機会も増えてくるシーズンになりました。
特に会食や接待においては、その人となりを評価される重要なシーンといえるでしょう。
そこでマナーアドバイザーの山木理代さんに、知っておきたい会食マナーの基本を伺いました。お店の選び方から身だしなみ、お客さまへのお礼まで、さまざまなシーンで対応できる内容が盛りだくさんです。ぜひ実践してみてください。

マナーを実践するには、正しく意味を理解すること

「マナーを心得ることはその人自身の人間力を高めることであり、感謝の心を表す表現方法です」。

山木さんは大学卒業後、企業の役員秘書として政財界の方と出会う中で、マナーの重要性を感じるさまざまな場面に遭遇しました。
「会食の際においても、トップの方はお客さまにはもちろん、お店の方にも丁寧で楽しい雰囲気を作り出してくださいます。それに、私のような者の話も謙虚に聴いてくださる。マナーとは人が人を認めるコミュニケーションのツールであり、人間関係の基本といえるのかもしれません」。

秘書時代の経験から山木さんは、マナーの奥深さと楽しさにのめりこんだといいます。そんな山木さんにまずは、良く耳にする“接待”と“会食”の違いを伺いました。

「まず目的が異なります。接待とはビジネスにおいて仕事をより円滑にすすめる目的が主で、お客さまをもてなし、関係性が異なる相手(取引先)とビジネスパートナーの意識を高めるというものです。そして会食とは、ビジネスに限ったものではありません。例えば結婚披露宴や法要等の儀礼的な集まりをはじめ、友人同士や家族間、親戚同士、時には仕事関係者などが気軽に集まっての食事会も含まれます。お互いの立場がイーブンな関係の中で行われ、親睦を深めたり信頼関係を築く目的の会を指します。いずれにしても、接待も会食も『心を尽くして充実した一時を共有する』ことが大切です」。
この上で、会食で知っておくべき具体的なマナーを伺いました。

会食を円滑に進めるための心がけ

会食において、幹事とお客さまでは心構えが異なりますが、山木さんいわく特に幹事になった場合は事前の下調べが大切なのだとか。

「幹事になった場合はまず、出席される方の情報を収集しましょう。お客さまの人数や年齢、健康状態、食の嗜好やアレルギー、食事の量やお酒が飲めるか、喫煙家なのかなど、あらゆる情報が必要です。またお客さまのお住まいエリアもお店を決める大事な要素。どの方にもアクセスがよく、わかりやすい場所にあるお店を選ぶことが大切です」。

そしてお店選びにも事前のチェックがとても重要。
「最近はインターネットでお店を調べることも多いと思いますが、より大切な会食では実際に足を運ぶことをおすすめします。お店のレイアウトや雰囲気を含め、自分の目で確かめた方がいろいろな想定ができるはず。余裕があれば少し気軽に利用できるランチをいただいて、店員さんの対応やお店のサービス、雰囲気を体感することもおすすめです。店員さんに当日の予算や進行などご相談するだけでも、お店の対応は違ってくるはずです」。

もし事前にお店に行けない場合、山木さんは必ず電話でのやり取りを心がけているそう。
「お店とお客さまの関係は“サービスを提供する=対価を支払う”という、50:50の対等な関係です。しかし、お店を利用させていただく感謝の気持ちと敬意を払いつつ、肉声でのやり取りをすれば、お店の方もこちらの味方についてくれますし、会食当日にはスムーズに対応していただけます。サービスを受ける側の私たちも、お店側に対してその場を気持ちよく過ごすためのマナーを心がけてみてはいかがでしょうか。お互いに礼を持って接することで、お店のホスピタリティも磨かれていくのです」。

ドレスコードは周りに対しての敬意

身だしなみは会食マナーの基本。結婚式やその二次会、カジュアルパーティーなど、さまざまなシーンでドレスコードが存在します。その場の雰囲気を壊さず、周りの方にも配慮した服装を選ぶことが重要です。

「ドレスコードにはさまざまな意味がありますが、一番は相手や周りに対する敬意です。
もし、好き勝手な洋服を着ていくと、お店やその場の雰囲気を壊すことになりますし、お店側から十分なサービスを受けられない理由になることも。その場に合った服装を身に付けることでご自分の気持ちも高まりますし、自信も出ますよ」。

お店の格式が高ければ高いほど、重要性が高まるドレスコード。その上で男女ともにどんな服装を選べば良いか伺うと、
「まず共通していえるのは清潔感です。男性であればサイズの合ったワイシャツにジャケットを着用していただきたいですね。ジャケットの色は迷った時にはスタンダードにネイビーやグレー系がおすすめです。光沢があるシルクタイやポケットにチーフを挿すのも、見る人に対して華やかな印象を与えてくれます。また、本来ワイシャツは肌着とされているのでジャケットは基本的に自ら脱ぐのは避けてください。あと手や指先も必ず意識してください。爪を短く整えることはもちろん、ハンドクリームで肌荒れをケアすることも大切です。食事の際、手元は目立ちますし、実はよく見られているんですよ」。

「女性はエレガント感を演出してくれるジャケットスタイルやワンピースが相応しいでしょう。ビジネスシーンであれば色味はダーク系が基本ですが、お集りの目的に応じて、その場に調和することをイメージして明るい色味を身に付けられるのもおすすめです。例えば、ベーシックなジャケットにインナーを明るめの色でドレッシーにまとめても素敵です。顔周りをすっきりさせるようにハーフアップや一つにまとめると、食事の際に髪の毛が邪魔にならず知的で上品な印象を与えてくれます。アクセサリーや小物類で華やかさをプラスするのは素敵ですが、和食の際には漆器等に傷を付けてしまうような大ぶりの指輪等は避けるようにしましょう」。
なお、男女ともに共通するワンポイントアドバイスは、着席の際に視線が集中する上半身こそきれいにまとめること、とのことなのでぜひ心がけてみてください。

そして、足元への気配りももちろん大切。
「男女ともに靴と靴下はきれいなものを履くようにしましょう。靴まで手入れが行き届いている人は、全体の身だしなみが整っているように見えます。和室の場合は靴を脱ぎますし、靴下姿になると足元が目立ちます。靴はきちんと磨いてメンテナンスをしつつ、中敷きもボロボロになっていないか、注意してください。靴下は装いとバランスが取れた清潔感のあるものを選びましょう。女性も裸足は避けてストッキングや靴下を履くことをおすすめします」。
“細部にこそ美は宿り、先端からは幸運が舞い込む”という言葉があるように、密かに周りから見られる足元は会食シーンでも大切にしたいものです。

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お支払いは見えないところでスマートに

会食のスタイルによって会費制や割り勘などさまざまですが、お支払いは幹事の仕事です。

「お支払いするタイミングも重要です。食事の終わりのタイミングを見計らって、さりげなくお客さまに見えないところでお会計するようにするのが王道です。例えば、お客さまにお手洗いをすすめてそのタイミングで支払いをしたり、何よりもお客さまに気を遣わせないようにすることが大切。また、会費制などの際にテーブルで皆が一斉に財布を開くのはスマートではありません。事前に会費をまとめておくか、後で精算をするようにして、幹事の方が代表してお支払いをするようにしましょう」。

手土産の選び方にもちょっとした工夫を

接待の際には、貴重なお時間をいただいたことへの感謝の気持ちを込めて用意するのが必須とされる手土産。会食では必須ではないものの、この時期に行われる会食では“今年もお世話になりました”という感謝の気持ちを届ける意味で、小さな手土産を用意しても良いかもしれません。

「手土産は季節感や限定品など希少性や特別感があるものがおすすめです。持ち帰りの負担にならない適度な大きさや重さも考慮しつつ、あまり高価なものは避けるようにしましょう。また渡す方の嗜好や健康を配慮したセレクトが大事です。必ずしも甘党とは限りませんし、健康上控えている方もいますから」。

包装や手提げ袋がちょっと素敵なものを選ぶだけでも、食事帰りの楽しい気分を盛り上げてくれます。心にも体にも負担をかけないセレクトが手土産のマナーといえるでしょう。

お礼はスピーディーに、が大事

幹事の場合でも招かれた側の場合でも、会食が終了したらお礼を忘れずに。電話やお手紙、メール等、相手の都合を考慮してお伝えしましょう。

「会食の翌日中にはお礼をするように心がけましょう。会食の時に一番心に残ったことを伝えつつ、感謝の気持ちとねぎらいの言葉を必ず盛り込むのがポイントです。幹事だろうとお客さまであろうと、お互いの立場とご縁に感謝し合えるような内容にすると、よりよい関係性が生まれます。」

マナーは相手を尊重する気持ちを養う上でとても役立つと話す山木さん。相手の身になって実践することで、自分の感性の引き出しがも増え、表現力も豊かになっていくことを実感できるそう。

「マナーはともすると、“〜すべき”という窮屈なものと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、決してそんなことはありません。知っている人が知らない人より偉いということではなく、マナーはあくまで考え方、捉え方の一つです。あまり気負わずに意識していただければと思います。個人的には、相手のことを深く想い、相手が喜んでいただけるようなことを想像し、実践するって、純粋にとても面白いと思うんです。会食の際も、マナーを心がけることで豊かな人間関係を育む一時にしていただきたいと思っております」。

山木さんが語る、楽しくて奥深いマナーという嗜みを、あなたも会食の場でぜひ実践してみてはいかがでしょうか。