日本人の感性と心を磨く、和食マナーの基本

「マナー」をテーマに伊勢丹が編集する特集記事。マナーアドバイザーの山木理代さんに、お店の選び方から身だしなみ、お客さまへのお礼まで、さまざまなシーンで対応できる会食マナーの基本を伺いました。日本人の感性と心を磨く、和食マナーの基本の特集ページです。

日本の伝統的な食文化で、2013年にはユネスコの無形文化遺産に登録された“和食”。この記事ではマナーアドバイザーの山木理代さんに、日本人の伝統的な食文化でもある和食の基本的なマナーを伺いました。年末年始の会食や冠婚葬祭など、大切な席で役立つこと間違いなしです。

食材への感謝と四季の移ろいを五感で味わう和食

ユネスコ無形文化遺産に登録された際に、和食とは1.多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重、2.健康的な食生活を支える栄養バランス、3.自然の美しさや季節の移ろいを表現、4.年中行事との密接な関わり、という4つの項目で定義づけられました。山木さんは和食をこう解釈します。

「食前や食後の挨拶、“いただきます”や“ごちそうさま”という言葉からもわかるように、日本人は食材への感謝と、料理に携わってくれた人への感謝の心を言葉で表現しますよね。その日本人の気質や精神を体現したのが和食といえるのではないでしょうか。自然への尊重が土台にあるからこそ、四季の味を積極的に取り入れ、その伝統と美しさを表現するのです」。

和食には、長い歴史の中で築き上げられたさまざまな様式があります。
今回はその中でも宴会や会食などで食事する機会が多い「会席料理」を中心に基本的な作法を取り上げます。

和室のこころえと正しいお箸の持ち方は美しい所作の基本

まずはお店に入る際に気をつけたいことについて。

「店内に入り、靴を脱ぐときには、前を向いたまま靴を脱いで上がります。それから斜めに身体を向けてから膝をつき、靴の向きを直すようにしましょう。靴の向きを直す手間が省けるからと、後ろ向きに上がる方も多いですが、お相手の方に背中を向けて上がってしまうのは美しくありません。
そして和室の場合、床の間があるほうが上座、出入り口に近いほうが下座になります。上座にはゲストや目上の方、または男性が座るようにしましょう。
これは家長文化の名残で日本独特の文化です。また和室で気をつけたいのが畳の縁(へり)や、敷居、座布団を踏まないこと。それぞれその家の格式やおもてなしの心を表していますし、踏むことは家人の顔を踏むという意味にも取られます。大変失礼なので気をつけてください」。

次に、料理をいただく際のお作法について。

「会席料理の場合、基本的には1.先付、2.吸い物、3.向付(むこうづけ)、4.焼き物、5.煮物(炊き合わせ)、6.揚げ物、7.蒸し物や酢の物、8.ごはん・止め碗、9.水菓子・甘味の順に出されます。料理ををいただく際に特に気をつけたいのは、お箸の作法です。間違ったお箸の使い方は、一緒に食事をしている方に不快な印象を与えてしまうことも。まず、お箸を取る際には、お箸の中央からやや右寄りの辺りを右手で指を揃えてそっと取り上げます。すぐに左手を箸の下から添えて持ち、右手をお箸の右側に滑らせるようにします。お箸を使うときは上部1/3の部分を持つと使いやすく美しく見えます。二本のうち下のお箸を動かさず、上のお箸を動かして箸先を使うようにしましょう。
また、お箸を置くときは取るときの逆の流れとなり、最後に静かに箸置きに戻します。この時、食べた箸先は汚れているので、箸置きに直接触れない様に一寸(約3㎝ほど)を出して置きます。お箸は種類や材質により、さまざまな用途や使い分けがあります。例えば、おせち料理などをいただく際や婚礼の祝い膳に添えられる、両端が細くなるように削かれた『祝箸』は柳の木で作られています。祝箸は『両口箸』と呼ばれ、片方は神様、もう片方は人が使い、飲食を神様と共にするという意味があります。両方とも使えるからといって箸の向きを変えて取り箸にするのは『逆さ箸』と言われタブーですので避けましょう」。

手のひらより小さな器は持ち上げていただく

二品目に出てくる吸い物(椀物)は、出汁の取り方や季節感の演出、料理人の才覚を尽くした、まさにその店の個性が表現されるという山木さん。

「お椀が登場しましたら、是非最初に絵付けなどを楽しんでください。季節や目的に応じてお店側がおもてなしの心を持って器を選んでくださっているはずです。いただき方ですが、まず蓋を開けたら蓋の内側の露をお椀に沿わせて落とします。そして蓋の内側を上にしてお膳の外に両手で置きます。
お椀は両手で持ち上げます。そして、左親指をお椀の縁に添えて他の指で底から支え、右手をお椀から外してお箸を上からつまんで持ち上げます。右手で持ち上げたお箸をお椀の底を支えている左手指に挟むようにし固定します。そして、右手を滑らすようにして持ち替えてお箸を下から持ち、お椀にお箸を付けます。まずは、中の具が崩れないようにお箸で軽く押さえ、香りを楽しみながら出汁を味わいましょう。それから具材にお箸を進めると、お箸をあまり汚さずに美しくいただくこともできます。
お椀を食べ終えたら、蓋を両手で持ち上げ、左手でお椀を軽く支えながら右手で最初に出された状態に蓋をします。
蓋の内側を上にして戻すのは、絵付けを傷つける恐れがありますので厳禁です。
ご紹介している通り、基本的に和食の作法は利き手を右手として築かれたものですが、もし左利きの方は、無理をせずにお楽しみいただけたら嬉しいです。
そして、和食においては、お椀に限らず碗や小鉢など手のひらより小さな器は持ち上げて頂くのも基本です。手に持つことで、器の温もりや材質の素晴らしさを感じることもできますし、お椀に直接口を付けて美味しさを楽しむことができるのも和食ならでは、ではないでしょうか」。

ついやってしまいがちだけど気を付けたい和食のタブー

和食の場合、お皿の上でお箸を使って一口大にしてから口を運ぶのが基本。食べ物を口に運ぶ時に受け皿のように手を添える仕草は一見上品にも見えますが、実は「手皿」といいマナーとして相応しくないのだとか。

和食のお席で便利なのがお茶席でよく使われる懐紙です。「手皿」にならないように料理を口に運ぶときに受け皿代わりに使うとスマートです。また、口元を拭いたり、大きな食材を噛むときなど口元を隠したりと使用用途はさまざまです。お店に向かう際にバッグの中に入れておくのもおすすめです。もちろん懐紙がなくても、美しくいただくことはできます。器を持ち上げて料理を口に運べば落とす心配もないですし、椀物の蓋を受け皿代わりにするという手もあります」。

また、お酒を注ぐときにも気をつけたいポイントが。

「日本酒の場合、右手の甲を上にして徳利の中心部分を持ち、左手を徳利の底部分に添えるようにします。初めは細く、次第に太く、最後に細くという流れで、お猪口の八分目まで注ぎます。注がれる際には必ずお猪口に両手を添えるようにします。乾杯の際にはお猪口を軽く掲げます。
注がれたら一気に飲み干さず、お酌してくださった方と一緒のタイミングで飲むようにします。一気に飲み干すことはせず、最初は香りを楽しんでひと口、そしてお料理とのハーモニーを楽しみながらゆっくりいただくようにしましょう」。

今回紹介したのはほんの一部ではありますが、和食のマナーとはまさに日本が誇るおもてなしの心や、日本人ならではの礼儀の正しさの現れです。私たち1人ひとりが正しいマナーを実践していけば、世界の人々に注目を浴びている和食の魅力をより一層深く伝えられることができるかもしれません。

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今回ご紹介したマナーを意識しつつ、楽しいお食事をお楽しみください。