日本橋三越本店でレトロな世界にタイムスリップ。心ときめく8つのスポットをめぐる

昨今の昭和レトロブームもあって、いまふたたび日本橋界隈に注目が注がれつつあるのをご存じでしょうか。日本橋川周辺を中心に大規模な再開発工事も始まり、江戸時代、五街道の起点で、日本の中心地として栄えていた頃のにぎわいを完全に取り戻す日もそう遠くなさそうです。実際、新しいワインバーやレストラン、カフェ、セレクトショップなどが続々とオープンしていたり、クリエーターたちが事務所を開設するのに日本橋を選んだりと、街のムードが日々華やかさを増しつつあります。でも一方で、古い建築や純喫茶、名店と言われる洋食屋や日本食店などが、開店当時の様相を残して点在しているのもまた、この街ならではの魅力。中には江戸時代から続くような店もあって、それがまた日本橋の気品と威厳を保つのにひと役買っているんですよね。
そんな日本橋の文化の発展とともに語られることも多いのが、「日本橋三越本店」です。そこで今回は、その「日本橋三越本店」の中でも特にその歴史に触れられるスポットをご紹介。近代的百貨店として歩み始めた当時から「ココがはじめて」「ココにしかない」と言われるモノ・コト・アートを揃え、文化の発信地と称された所以を紐解きます。
日本橋三越本店
日本橋と、文化の発展の中心的存在であり続ける
いまだ江戸当時の雰囲気を残す代表格と言われることも多い、「日本橋三越本店」の前身は呉服店の「越後屋」で、その後、その名を変え、1904年にデパートメントストア宣言を発し、日本初の本格百貨店となりました。本館が2016年に国の重要文化財に指定されたと聞くと、歴史的な価値の高さを感じていただけるのではないでしょうか。現在の本館建物は、途中、増築や改修を繰り返しながらも、往年の意匠をそこかしこに見て取れる、凛とした美しさはいまだ健在です。
1. 行き交う人々を見つめ続け、日本橋の今昔を知る正面玄関へ

江戸桜通りをはさんでお隣は三井本館、その奥には日本銀行本店という本館の立地は昔と変わらず。そんな日本橋の街の発展と共にあったという歴史を知るなら、まずは中央通りに面した正面玄関を目指して出かけてみてください。目線上の金のマーキュリー像と、鎮座する2頭のライオン像が目印。西洋古典様式の外観の重厚感に圧倒されるはずです。1914年に完成した初めての西洋式建物の新館は、向かって右手の角からちょうど正面玄関の左手あたりまでの四角形の建物でしたが、それでも当時は「スエズ運河以東最大の建築」と言われていました。その後、さらに左へと延びていき、現在は新館を含めると、むろまち小路を挟みながら日本橋北詰までと、敷地は2区画にまたがっています。1914年の新館店舗には、日本で初めてとなるエスカレーターをはじめ、エレベーターやスプリンクラーなどを設え、そんなエピソードからも日本橋三越本店が時代の先端を行っていたことをおわかりいただけるはずです。
ちなみに先ほどの2頭のライオンは、ロンドンのトラファルガー広場にあるライオン像を模していて、青銅を用い、完成までに3年かけた英国製。太平洋戦争時の軍による金属類回収(溶かして弾丸などにするため)や戦火をも免れて今があるため、しあわせの象徴と呼ぶ人も少なくありません。
2. 中央ホール
約11メートルの高さを誇る「天女(まごころ)像」に会いに


次に向かってほしいのは、本館のいわば中央広場にあたる「中央ホール」です。5階までの吹き抜けは圧巻で、パリのギャラリー・ラファイエットやニューヨークのグランドセントラル駅などを彷彿とさせるほどなのですが、さらにそこにそびえ立つ高さ約11メートルの「天女(まごころ)像」は一見の価値があります。「天女が瑞雲に包まれて、花芯に降り立つ瞬間の姿」を表したというこの「天女(まごころ)像」は、三越のお客さまに対する基本理念「まごころ」の象徴。彫刻家・佐藤玄々による木造彫刻で、色彩豊かかつ細かく多少施しすぎとも言えるほどの装飾で覆われているのが特徴的です。肝心の天女のお顔は非常に小さく、体も細身。むしろ天女をぐるりと取り囲むようにして掘られた空や雲、羽衣などの背景のほうが大きく、緻密な作りになっています。ここまでの精巧な彫刻作品は、美術館などに足を運ばなくてはなかなかお目にかかれないものでは・・・?
背後には、日本でここにしかない演奏可能な昭和初期製造のシアタータイプのパイプオルガン(教会のものと異なり、無声映画や演劇の伴奏などで使われるタイプ)も配され、週末になるとその演奏を聞きながら「天女像」を観ようと訪れる人が後を絶ちません。

3. 呉服フロア
着物初心者ならぜひ出かけるべき場所


百貨店として開業する以前は、呉服店「越後屋」であった日本橋三越本店。その名残を感じていただけるのが、呉服フロアです。呉服と聞くとどうしても敷居が高いイメージが先に立ってしまうことでしょう。でも、「越後屋」が江戸の町民にとって呉服をなじみのものにするきっかけを作った店だったと聞いたらいかがでしょうか。
「越後屋」は当時とても先進的な商売方法をとっていた呉服屋でした。わかりやすくいえば、それまで掛け売りが当たり前だった取引を、定価をつけ現金に。また、店先に商品を並べる陳列販売にもいち早く着手しました。ほかにも生地を一反単位で販売していたのを切り売り可とし、またイージーオーダーも受付けました。呉服がいわゆる富裕層だけのものではなく、多くの人にとって身近な存在となってほしいと願ったためです。
そして、もちろんいまもその思いに変わりはありません。呉服フロアは初めてのお客さまや若いお客さまもウエルカム。スタッフ誰もがいつでも皆さまをあたたかくお迎えする準備を整えています。もう数十年、呉服フロアに勤めるベテランもおりますから、色や柄、合わせなどの‟トリセツ“についてはお任せください。
日本橋にお出かけの際は、江戸の町民になった気分で、呉服フロアでのウインドーショッピングをお楽しみください。エスカレーターを降りたらすぐのオープンスペースに数百点が並んでいますから、通りすがりに横目でちらりとでもぜひどうぞ。かわいい柄の着物や帯も揃っていますから、どこにあるか見つけてみてくださいね。
4. アートギャラリー
アートギャラリーでは国宝級のアートを無料で鑑賞できるんです


アートに興味があるのなら、本館6階のアートギャラリーへ。日本画・洋画・工芸・彫刻・現代アートなど毎週4~5の展覧会を開催し、いずれも無料で開放しています。見る人との隔たりをなくした開放的なスペースに人間国宝の作品などを展示するスタイルは、「本物」や「アート」に触れる機会を大切にし続ける日本橋三越本店のこだわりです。どうぞ気軽に、本物のアートを目の前でご覧ください。
5. 特別食堂
クラシカルな食堂へはちょっとおしゃれをしてお出かけください


もしかすると「おばあちゃんと一緒に来た」「お母さんと一緒に来た」なんて思い出を持つ方もいらっしゃるかもしれませんね。現在の本館7階「特別食堂」は1964年(昭和39年)、東京オリンピックが開催された年にオープンした伝統あるレストランです。開店時の贅を尽くしたアールデコ調の室内装飾は、地下鉄三越前駅から日本橋三越本店につながる連絡通路の装飾を手がけたフランス人室内装飾家、ルネ・プルーによるもので、改装された現在も、緑色大理石の丸柱などに当時の潮流が感じられます。。
そんな店内の雰囲気には、クラシカルなワンピースやマキシスカートなどが似合いそうです。お気に入りを着て出かけたくなった日には、その足で「特別食堂」にいらしてください。現在は東京會館が運営していることから、人気の「マロンシャンテリー(白い雪をまとった生クリームの小さな山の中に金色にかがやく栗が隠れた東京會舘の名物デザート)」もメニューに並びますので、デザートをオーダーするのも忘れずに!
6. 三越劇場
百貨店なのに上階に劇場があるってご存じですか?



まさか百貨店の中に劇場があるなんて、思いもしませんよね。でも日本橋三越本店には本館6階になんと劇場が存在しています。「三越劇場」は1927年(昭和2年)、はじめ"三越ホール"の名称で誕生しました。きっかけとなったのは関東大震災。震災では日本橋三越本店も大きな被害を受けましたが、再建するにあたって、建物のみならず、日本橋の、ひいては日本じゅうの文化的な復興も強く願ってのことでした。
劇場は間口約12m(6間)、奥行約6m(3間)のプロセニアムアーチ(額縁)の舞台を擁し、館内は非常に凝った意匠に。当時世界中から選りすぐりの美しく、個性のある“百貨”を集めてきていた百貨店のセンスを感じていただけることでしょう。天井にはステンドグラスがはめ込まれ、周壁は大理石と石膏彫刻で彩られるなど、ロココ調の華麗な装飾が施されたのも開店当時のこと。そういった装飾様式は今に至るまで大切に守り抜かれ、2016年(平成28年)に日本橋三越本店(本館)が国の重要文化財指定を受けるにあたっては、非常に高く評価されました。
客席の後ろのほうから舞台まで、そう距離を感じないコンパクトさは、百貨店の中にあればこそ。落語やコンサートなどジャンルレスでさまざまな公演を開催していますが、間近で芸術に触れられる貴重な場となっています。不定期で劇場見学ツアーも開催中。“日本橋さんぽ”の行程に組み入れてくださいね。
7. カフェ・ウィーン
どこの喫茶店よりもゆっくりと美味しい時間を過ごせます


本館2階の奥にはひっそりとたたずむ喫茶店「カフェ・ウィーン」があります。コーヒー文化の根付いたウィーンのウィーン市、ウィーン商工会議所、ウィーンカフェハウス協会の認定を受けた日本で初めてのカフェで、コーヒーメニューのバリエーションが豊富。立地もあって、銀座から足を延ばしてきたマダムや近隣のビジネスマン、ひとりでゆっくりとコーヒーを楽しみたい若きクリエーターなどが集い、店内には落ち着いた雰囲気が漂います。ウィーンの建築家が手がけたというインテリアを眺めながら、ウィーンのコーヒーハウスにいるような気分で、コーヒー&スイーツとともに、心地いい時間をお過ごしください。
8. 地下鉄入口
行きも帰りもこの地下鉄入口から

頭上にステンドグラスが施され、「三越地階売場 地下鉄入口」と旧字体で示された地下鉄への出入口。リニューアルされてはいますが(リニューアル前は掲示板を左からではなく右から読ませるスタイルでした)、どことなくレトロさが残り、日本橋三越本店の外観や江戸桜通りの雰囲気に溶け込んでいます。「三越前」駅が開業した昭和7年当時から地下鉄の改札口から日本橋三越本店の地階までが直結していて、その珍しさからもずいぶんと話題を呼びました。ちなみに企業の名称が駅名となったのも前例がなかったようです。
いかがでしたか?
ぜひ、日本橋にお越しの際は一度足を運んでみてくださいね。
イベント
呉服フロア

<しるくらんど>呉服の仕立て直し加工承り
生き洗い 12,100円から、裄直し 13,200円から、身丈直し 27,500円から
□日本橋三越本店 本館4階 きものご相談サロン
Photograph:Kosuke Matsuki
Hair&Make:Taeko Kusaba
Styling:Chie Hosonuma
Model:Emma Maeda(N・F・B)
Text:Koba.A
Special Thanks: (Instagramはこちら)、女将